角田光代の連作短編(2002年11月28日文藝春秋刊、第3回(2003年)婦人公論文芸賞受賞作)を原作として、2005年、豊田利晃監督により映画化。主演は『風花』以来4年ぶりの主演映画復帰となる小泉今日子。
劇場公開を控えた2005年8月に豊田監督が逮捕され公開が危ぶまれたが、上映を望む声が多数寄せられ、賛否両論の中、公式サイトや各種媒体にて謝罪の言葉を告知した上で公開規模を縮小して劇場公開に至った。
空中庭園の原作
郊外のダンチで暮らす4人家族・京橋家のモットーは「何ごともつつみかくさず」。15歳の長女マナが“自分はどこで生を授かったか”を訊ねると、ママはラブホテルで、と教えてくれた。自分が仕込まれたのが近所の「ホテル野猿」だと知って、どうしても見てみたくなったマナは、同級生の森崎くんを誘って行ってみた……。家族ひとりひとりが、そのモットーとは裏腹に、閉ざしたドアの中に秘密を持ちながら、仲の良い「家族」を演じているさまを鮮やかに描く連作家族小説。
空中庭園の原作を読んだ人の感想
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全員が全員、それぞれに壊れているのが怖いけど面白かったです。
Flour of Life -
最後の一ページを読み終えたときに、初めてタイトルの「空中庭園」の意味が理解できます。
宇宙の盆栽。 -
文章のひきつける力、言葉の使い方、なんともいえない家庭という設定、面白かったです。
こだわりのつっこみ
映画 空中庭園
あらすじ
母親は「この家に隠し事はない」と常々言っているが、彼女自身が隠し事をしていた。夫婦のなれそめ自体に彼女のたくらみがあった。しかし彼女は「隠し事がない」理想の家庭を築きたいと願っていたのだ。
ややちゃらんぽらんなところがあり、性懲りもなく浮気をしている父親は、数年前から妻に性交渉を拒否される一方、外に作った女に無邪気に甘えている。 そんな男を愛人は冷ややかに見ている。結婚なんてまっぴらごめんだ。しかし、なぜか、女は男の家を覗いてみたくなる。 そして弟の家庭教師になってその家に入り込む。
登場人物それぞれが、家族について、自分の存在の根本部分について不安を感じている。 彼らが愛し、憎み、無関心ではいられない家族とは何だろう。空中庭園のごとき、不安で、だけれども、清潔で美しい佇まいの家族の肖像を描く。
血の雨が降るクライマックスシーンは圧巻(空中庭園の感想)
最初に見たのは15年ほど前か。見終えた後の印象が不思議に明るいのは、 小泉今日子の作り笑顔が完璧だからだろう。18歳の 鈴木杏が出ていたので驚いた。
当時39歳の小泉今日子は、会社員の夫( 板尾創路)、中学生の息子コウ、高校生の娘(これが鈴木杏)と、グランドアーバンメゾンという「団地」に住んでいる。ルーフバルコニーの空中庭園は幸せな家庭生活の象徴だが、長回しのキャメラはファーストショットから大揺れに揺れ(映画館で見て酔ったという人もいる)、いかにも不安定な印象を与える。
家族のモットーは「隠しごとをしないしない」とされていて、鈴木杏は「私はどこで仕込まれたの?」と聞く。それは「ホテル野猿」だと小泉が答えたので、娘は早速、同級生の 勝地涼とそのラブホを訪れるが、そこは板尾創路が仕事をサボって 永作博美や ソニンとしけこむ場所でもあった。ソニンはコウの家庭教師として頻繁に団地を訪れるようになるので、板尾は大いに慌てる。つまり隠しごとがないどころか嘘だらけの家庭なのだ。
映画の舞台はニュータウンの外れで、最寄駅はセンター北(原作では多摩ニュータウン)。実際に観覧車のあるモザイクモールが、劇中の「ディスカバリーセンター(通称ディスカバ)」というショッピングモールになっている。鈴木杏がそこで勝地涼と待ち合わせたりしているが、噴水階段などのある構造は、ダイニング照明を彩るバビロニア宮殿(空中庭園)に似ている。さらに、鈴木杏をナンパして野猿に連れ込む 瑛太も同じ刺青を入れている。
引きこもりだった小泉今日子は、肺癌で入院している 大楠道代の母親が自分を愛してくれなかった(と思い込んでいる)ために、高校時代から理想の家庭を築く計画を立て、その計画通りに、野猿で受胎し、板尾と結婚したのだというモノローグが入る。
板尾とは5年もセックスを拒んでいるが、それは家族の嘘を大体見抜いているからである。その上で、(ソニンが気づいた通りの)家族による学芸会を続けてきたが、きっぷのいい大楠道代とソニンの撹乱によってそれがほころび始める。
──とまあ、大体そんな話(原作は 角田光代)。瑛太は「赤ん坊は血まみれになり泣きながら生まれて来る」と鈴木杏に言うのだが、ラストシーンでは小泉がその通りの演技をする。かなり長いシーンで、「耳にも目にも血糊が入り、三日はにおいが抜けなかった」も小泉は述懐している。
キャスト
京橋絵里子 – 小泉今日子
京橋マナ – 鈴木杏
京橋貴史 – 板尾創路
京橋コウ – 広田雅裕
京橋絵里子の兄 – 國村隼
テヅカ – 瑛太
サッチン – 今宿麻美
森崎 – 勝地涼
ミーナ – ソニン
飯塚麻子 – 永作博美(特別出演)
木ノ崎さと子 – 大楠道代
山本吉貴
渋川清彦
中沢青六
千原靖史
鈴木晋介
鈴木卓爾
スタッフ
企画:孫家邦、森恭一
プロデューサー: 菊地美世志
ラインプロデューサー:土井智生
原作:角田光代 『空中庭園』(文藝春秋刊)
監督・脚本: 豊田利晃
撮影: 藤澤順一
照明:上田なりゆき
録音:柿沢潔
美術:原田満生
衣裳:宮本まさ江
ヘアメイク:小沼みどり、徳田芳昌
編集:日下部元孝
音楽監督:ZAK
楽曲:ヤマジカズヒデ(dip)
エンディングテーマ:詞・歌 UA「この坂道の途中で」
広告写真:ホンマタカシ
撮影効果:多正行
装飾:田口貴久
音響効果:北田雅也
フラワーデコレーション:猪本典子
スクリプター:石川海
製作担当:望月政雄、岩下真司
監督助手:宮城仙雅、塩崎遵、平井勇太、似内千晶
撮影助手:向後光徳、彦坂みさき、秋山都、谷口和寛
照明助手:林大樹、関口賢、加持通明、谷本幸治、大野浩伸、鹿島由樹子
録音助手:大塚学、島田宣之、清川隆行
美術助手:橋本創、太田仁
大道具:大徳雄二、高木智之
装飾助手:櫻井啓介
小道具:松葉明子
撮影効果助手:馬場哲生
衣裳助手:吉野智美
ヘアメイク助手:高橋和美
牽引・カースタント:アクティブ21(海藤幸広、吉田陽、大谷奈津江)
アクションコーディネーター:齋藤英雄(ナンバーワンプロモーション)
タトゥー:han
リーレコ:下野留之
編集助手:村上雅樹
ネガ編集:渡辺顕一郎
スタジオエンジニア:加藤大和、立川千秋
FOLLY:西村洋一、伊藤端樹
光学録音:中山義廣、宇田川章、大葉広樹
タイミング:大見正晴、石田記理
オプチカル:金子鉄男、山岸江美
デジタルi/o:柴田誠
ラボコーディネイト:江川智、鈴木絵理
キャメラコーディネイター:佐藤武治
コンポジットディレクター:道木伸隆
リードコンポジッター:諸星勲
コンポジッター:渡部彩子、前田哲生、船橋奨、林大悟、大槻彩乃
ドルビーフィルム・コンサルタント:河東努、森幹生
タイトルデザイン:大橋修、落合慶紀
エンドクレジット:竹内秀樹
スチル:間部百合
製作進行:福井一夫、山田哲也
車輌:井上和亮、田羽田正光、増田明彦、畠野洋隆、生田目康一
製作デスク:宮崎慎也
製作経理:堀口清美
演出応援:野尻克巳、佐藤英明
照明応援:三田村拓、井上真吾、池尾利夫
美術応援:杉本亮
特機応援:南好哲、伊藤勝雄、野川勝二
ヘアデザイン協力:中島康平
CG・タイトル:マリンポスト
現像:IMAGICA
MA:にっかつスタジオセンター
製作委員会メンバー:リトル・モア、ポニーキャニオン、衛星劇場、カルチュア・パブリッシャーズ、アスミック・エース
製作プロダクション:フィルムメイカーズ
配給:アスミック・エース
公開:2005年10月8日
上映時間:114分
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