早朝の首都高速――近鉄、中日の車が旗をひらめかせながら競走している。
西鉄、阪神、南海などの車も後に続く。
東都スポーツの記事を見て、スカウトが星家に殺到しているのである。
(昨日来ていた球団は広島だったらしい)
激しいデッドヒートに、長屋の静かな朝が破られるのであった。
首をひねる長屋の住人、一人が「わかった、これだよ」
「よかったねえ、ちょいとおまいさん」
「なあ、こうこなきゃなあ」
「こうなったら、ひとつみんなでお祝いに行こう」
なんだか作りものくさいべらんめえの言葉の長屋の人たちであった。
居並ぶスカウトたちを前に渋面の一徹――

「いったいどうした風の吹きまわしですかな」
早速ソロバンを出すスカウト、1000万円の契約金を出すという。
なんだか夢みたいだ…と黙りこむ飛雄馬。
(このところあまり気がめいっているので、こんな派手な夢を見るのか…)
一徹「たとえ11球団全部来ても、ある訳があって入団させる意思はありません。お引き取りください」
11球団?とスカウトたちは気づいて、「巨人だけは別だってことか」
「よくある、女子供の好きな巨人大鵬玉子焼きなのか」
「しかし永久に巨人だけは現れますまい」と新聞を出す。
川上が予想した通りの紙面である。
ガーンとショックを受ける飛雄馬。
花形のやつ、断じて公表しないという俺の約束を破ったのか
それより、ひどいのは巨人だ、川上だ…
と思わず涙ぐむと、
一徹「飛雄馬みぐるしいぞ、何もかも川上さんの言う通りだ」
逆にスカウトたちは、巨人がダメと知って勢いづく。

さあ君も男なら飛び込んで巨人をきりきり舞いさせたまえ!
そこへ一徹、「ではわしも言おう!」と割って入る。
「男なら川上監督と本当の勝負をしろ!
巨人に入れればお前の勝ち、入れなければ川上の勝ちだ!」
(ちょっと何を言っているのかわからない)
「スカウトに来ないってものを、どうやって入るんですか」
「この新聞は読んでないようですな」と一徹が出したのは讀売新聞。

記事というより広告ですな
かりにも1000万円もらえるのに、新人テストだなんて…と一笑に付すスカウトたち。
しかし飛雄馬はテストを受けることを決意する。
「よくいった、それでこそわしの子だ! さっそく練習だ、来い!」
「父ちゃんいくぜ!」

スカウトたちの前で長屋の投球練習が始まる
こりゃすげえや!とスカウトたちは大喜び。
目にもとまらぬ豪速球、ミットから煙が出ている・・・
20年スカウトをやってるという男が、

「亨栄商業の金田以来だ!」
「これを取らないなんて、川上監督もいい加減、唐変木だぜ」
と、褒め言葉に弱い飛雄馬、にやりとして甘い球を投げ、たちまち一徹に怒られる。
「ちょっと待ってろ!」
そう言って家に入った一徹が出してきたのは、なんと養成ギブスである。

久しぶりのボンテージ
中学生用だから、もう小さいんじゃないかなあ・・・
「飛雄馬よ、モグラのように遠い巨人の星を仰いでいたあの頃に戻れ!
甲子園での活躍などなかったものと思え!」
飛雄馬、ギブスを付けたまま投げるが、球威はほとんど落ちていない。
スカウトも長屋の連中もそら恐ろしいものを感じはじめ、
「こりゃいかん、この坊やの目には巨人しか見えておらん…」
ということで一同は伴宙太を取りに向かうのだった。
しかし大造、大笑して宙太の顔を見ながら、
資本金20億の伴自動車工業の未来の社長のお前を500万で貰いに来たとはな!
宙太は大学へ行き、未来の社長としての教養を身につけなければなりません。
皆さんおかえりだぞ!
しかし伴は飛雄馬が新人テストを受けることを聞き、
「やつはそれほどまでして巨人に入りたかったのか…」
とつぶやくや、巨人に電話をかけてテストの日時を確認し、今度こそ俺はお前についていくぞと覚悟をかためるのだった。

伴の猛練習、ハチマキが変
そして飛雄馬も猛練習。

泪橋を渡る星父子
(この橋の下には丹下ジムがあるはずである。
泪橋は荒川区と品川区にあり、それぞれ小塚原と鈴ヶ森の刑場に渡る橋だったという
この世との最後の別れの橋、処刑される者との今生の別れの橋なのだった。)
巨人軍テストの準備する中、一徹は古いスパイクを息子に渡す。「魔送球」を生み出した思い出の品だった。一徹は昭和12年の甲子園、川上監督との出会い、はるえとの恋愛、そして戦争で中断された野球人生を語る。戦後、肩を負傷した一徹は「魔送球」を編み出すが、それが原因で巨人を去ることになった。飛雄馬は父のスパイクを受け取り、「父ちゃんの分まで頑張る」と誓う。一徹も初めて自分の夢を口にし、「巨人のマークを胸に縫い付けて帰ってくるんだ」と息子を送り出す。【第48話|父・一徹のスパイク】