2011年のパリで撮影したスペイン製作によるアメリカ映画。原題は「Midnight in Paris」。ウディ・アレンが脚本と監督を務め、第84回アカデミー賞で脚本賞を受賞した。
ミッドナイト・イン・パリのあらすじ
2010年、処女小説の執筆に悪戦苦闘中のハリウッドの脚本家ギル・ペンダー (オーウェン・ウィルソン) は、婚約者イネス (レイチェル・マクアダムス) とその裕福な両親とパリを訪れる。ギルはパリに住みたいとさえ考えているが、イネスはマリブに住むと言って聞かない。2人はイネスの友人ポール (マイケル・シーン) と遭遇し、ともに街を回る。イネスはポールを気に入るが、ギルは、彼が偉そうに語る歴史や芸術の薀蓄が鼻持ちならない。
ある夜の12時、酒に酔って街をうろついていたギルは、アンティークカーの1920年代風の男女に誘われてパーティに紛れ込む。そこにはコール・ポーター、F・スコット・フィッツジェラルドと妻ゼルダがおり、ジャン・コクトーが主宰したものだった。さらにその後で訪れたクラブではジョセフィン・ベイカー、アーネスト・ヘミングウェイと出会う。ヘミングウェイに自分の小説を読んでくれないかともちかけたギルだったが、ヘミングウェイに「自分は読みたくないが、代わりにガートルード・スタインを紹介しよう」と言われ、舞い上がる。
次の夜も12時の鐘が鳴ると古いプジョーが現れ、今度はヘミングウェイが乗っていた。彼とスタインの家へ行くと、そこにはパブロ・ピカソとその愛人アドリアナ(マリオン・コティヤール)がおり、ギルは、一目惚れしてしまう。
現代と1920年代を行き来しながら、婚約者イネスとの関係とアドリアナに魅かれる自分に悩むギルだが、サルバドール・ダリ(エイドリアン・ブロディ)、ルイス・ブニュエル、マン・レイは「それはごく自然なこと」と言う。そしてアドリアナと初めてキスを交わした晩、2人の前に19世紀のベル・エポック時代を思わせる馬車が停まり、1890年代ベルエポック期へとタイムスリップしてしまう。ベルエポックに憧れるアドリアナはこの時代に残ると言い出し、二人はここで別れる。
その後、スタインから小説に関して、婚約者の浮気を見抜けないのがおかしいと言われる。つまり婚約者イネスのことだった。ギルはホテルに戻りイネスを問い詰めると、イネスはあっさり浮気を認め、ギルは別れることを決意した。
ホテルから追い出され、路上を歩いていると蚤の市で出会ったガブリエルと再会し、雨のなか傘をささずに街に消えていくところで物語はフィナーレを迎える。
ミッドナイト・イン・パリの感想
2011年のウディ・アレン作品。
婚約者の両親のビジネス渡航に便乗してパリにやって来た主人公はハリウッドの人気脚本家という「成功した人」なのだが、懐古主義の塊のような男で、現実主義の婚約者にもその両親(共和党右派の典型的な俗物)にも呆れられている。
一行は高級レストランで婚約者の友人カップルと出くわすが、男の方はペダンチックな批評家という別なタイプの俗物で、大文字のフランスカルチャーを解説してみせる。
くさくさして、リッチな観光ルートから外れた主人公はパリ5区に迷い込み、そこでプジョーのクラシックカーに乗り込み、なぜか1920年代のパリにたどり着く。そこにはコクトー主催のパーティで楽しむフィッツジェラルド夫妻やヘミングウェイ、コールポーターの姿が…という話。
94分の理想的な映画で、タイムスリップ物といってもごくゆるい設定で、主人公は2011年(昼の世界)と1920年代(夜の世界)を自由に行き来している。興味深いのは、1920年代で知り合った女の子(ピカソの愛人とされるが架空の女で、マリオン・コルティヤールが演じる)の憧れであるベルエポック(19世紀末)に、二重にタイムスリップするという展開だ。マキシムで踊り子たちを鑑賞するロートレックやドガ、ゴーギャンらは、しかし今よりもルネッサンスに生まれたかったものだと口にする。ここで映画は急に教訓話みたいになる。
不安定なゼルダ・フィッツジェラルド、猛獣狩りを至高の冒険と強弁するヘミングウェイ、世話好きのガートルード・スタイン(キャシー・ベイツはぴったり)、変人のダリやマン・レイ、小男のロートレックなど楽しい演出が投入され、主人公が人見知りの陰気なルイス・ブニュエルに「皆殺しの天使」のアイディアを囁くといったくだりなども愉快なのだが、そういうスノビズムは良くて、婚約者の浮気相手のペダントリイはダサイというのも妙なものだ。要はカルチャーをどこから見るかという問題で、アメリカ人ならではの病とも言える。
サルコジ夫人のカーラ・ブルーニ(この人も恋多き人だ)が出てきたり、キャストが豪華なのもアレン映画の楽しみである。
ミッドナイト・イン・パリのキャスト
ギル・ペンダー – オーウェン・ウィルソン
イネス – レイチェル・マクアダムス
ジョン – カート・フラー
ヘレン – ミミ・ケネディ
ポール・ベイツ – マイケル・シーン
キャロル・ベイツ – ニーナ・アリアンダ
美術館の案内人 – カルラ・ブルーニ
ワイン試飲する男 – モーリス・ソネンバーグ
1920年代のパーティゴア – ティエリー・アンシス
1920年代のパーティゴア – ギヨーム・グイ
1920年代のパーティゴア – オドレ・フルーロ
1920年代のパーティゴア – マリ=ソーナ・コンド
コール・ポーター – イヴ・エック
ゼルダ・フィッツジェラルド – アリソン・ピル
F・スコット・フィッツジェラルド – トム・ヒドルストン
ジョセフィン・ベーカー – ソニア・ロラン
アーネスト・ヘミングウェイ – コリー・ストール
フワン・ベルモンテ – ダニエル・ルント
古物商人 – ロラン・シュピールフォーゲル
アリス・B・トクラス – テレーズ・ブル=ルビンシュタイン
ガートルード・スタイン – キャシー・ベイツ
パブロ・ピカソ – マルシャル・ディ・フォンソ・ボー
アドリアナ – マリオン・コティヤール
ガブリエル –
ジューナ・バーンズ – エマニュエル・ユザン
サルバドール・ダリ – エイドリアン・ブロディ
マン・レイ – トム・コルディエ
ルイス・ブニュエル – アドリアン・ドゥ・ヴァン
探偵デュリュック – セルジュ・バグダサリアン
探偵タスラン – ガッド・エルマレ
T・S・エリオット – デイヴィッド・ロウ
アンリ・マティス – イヴ=アントワーヌ・スポト
レオ・スタイン – ロラン・クラレ
ベル・エポックのカップル – サヴァ・ロロヴ
ベル・エポックのカップル – カリーヌ・ヴァナス
マキシムの女将 – カトリーヌ・ベンギギ
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック – ヴァンサン・マンジュ・コルテス
ポール・ゴーギャン – オリヴィエ・ラブルダン
エドガー・ドガ – フランソワ・ロスタン
ヴェルサイユの王族 – マリアンヌ・バズレール
ヴェルサイユの王族 – ミシェル・ヴィエルモーズ
ミッドナイト・イン・パリのスタッフ
監督 – ウディ・アレン
脚本 – ウディ・アレン
製作 – レッティ・アロンソン、スティーヴン・テネンバウム、ジャウメ・ローレ
製作総指揮 – ハビエル・メンデス
ミッドナイト・イン・パリを観た人の感想
- 「Midnight in Paris」考察(渡邊圭吾)
- なぜギルは黄金時代に残らなかったのか|映画『ミッドナイト・イン・パリ』解説(映画イッペントー)
- パリは移動祝祭日 / 『ミッドナイト・イン・パリ』 ウディ・アレン(日々の栞)