谷崎潤一郎の小説(1956年発表)を原作として、1959年に市川崑が監督して大映東京撮影所が製作、大映が配給して6月23日に公開した日本の長篇劇映画。併映短編は『桂離宮』、6月24日から一部の上映館で『二十四時間の情事』。当時の「映画倫理管理委員会」(新映倫、現在の映画倫理委員会)は同作を成人映画に指定し、18歳未満の鑑賞を制限した。公開時の惹句は、「愛欲描写の凄まじさに、映画化不可能を叫ばしめた谷崎文学の完全映画化!」。1964年5月16日に成人映画として再上映されている。併映は『この道赤信号』。
鍵の原作
鍵の原作のあらすじ
初老の学者が、嫉妬によって性的に興奮し、妻の郁子に性的に奉仕する精力を得るために、自らが娘の敏子との縁談を持ちかけた教員の木村と妻を、一線を越えない限界まで接近させようと企む。酔い潰れて浴室で全裸で倒れた郁子を木村に運ばせたり、酔い潰れて昏睡する郁子の裸体を撮影し、その現像を木村に頼むなどの経緯を日記に書いていく。また同時に郁子も日記を書いていた。
学者は郁子に日記を盗み読んでほしいことを自らの日記に書き、日記を隠している引き出しの鍵をあえて落とすが、郁子はいつでも盗み読めるが夫の日記を盗み読む気はないと日記に書く。また郁子は夫を性的に興奮させるために、嫌々ながらあえて木村と接近するのだ、自分も日記を書いていることを夫は知らないはずだとも日記に書く。また木村も学者の計画に積極的に協力していく。敏子は母に不倫を強要する父に反発しているようだと郁子は日記に書く。学者は性欲を昂らせるために不摂生な生活を行ったため次第に健康を害するが、性的興奮のため医者の警告を無視して摂生を行わず、さらに不健全な生活に耽溺していく。ついには病に倒れて死亡する。・・・
鍵の原作の解説
- 【谷崎潤一郎】『鍵』のあらすじと内容解説・感想(純文学のすゝめ)
- 文学批評 「谷崎『鍵』の「欲望の欲望」」(秋谷高志 批評をめぐる試み)
- 谷崎潤一郎『鍵』解説あらすじ(桜の園のつかまえ手)
鍵の感想
市川崑は谷崎原作の日記というモチーフを大胆に省略し、結末も変えて、濃密な人間関係に絞って生々しく描き出した。「鍵」も書庫のそれではなく、京マチ子が仲代達矢に渡す「裏口の鍵」のことだから、意味がまるで違う。
跛行する姿が特撮の異星生物みたいで異様な中村鴈治郎(二代目)のエロ爺も、演技か地かわからないくらいで凄いのだが、やはり京の極端な鬼眉と叶順子のゲジ眉が文字通り白眉で、市川の企みが冴えているところだ。京はともかく叶は陰気な棒読みで怖さを盛り上げている。仲代達矢はいつも通りちょっとやり過ぎだが、黄金時期大映映画の集大成といえるだろう。
鍵のキャスト
京マチ子 – 郁子
叶順子 – 敏子
仲代達矢 – 木村
中村鴈治郎 – 剣持
北林谷栄 – はな
菅井一郎 – 石塚
倉田マユミ – 小池
潮万太郎 – 児玉
星ひかる – 刑事B
浜村純 – 相馬
山茶花究 – 古美術商
伊東光一 – 句会の男
花布辰男 – 句会の男
大山健二 – 句会の男
河原侃二 – 句会の男
高村栄一 – 句会の男
南部彰三 – 句会の男
伊達三郎 – 刑事A
中條静夫 – 刑事C
南方伸夫
佐々木正時
隅田一男
小杉光史
杉山明
鍵のスタッフ
製作 : 永田雅一
企画 : 藤井浩明
監督 : 市川崑
原作 : 谷崎潤一郎
脚本 : 長谷部慶治、和田夏十、市川崑
撮影 : 宮川一夫
照明 : 伊藤幸夫
美術 : 下河原友雄
録音 : 西井憲一
編集 : 中静達治
音楽 : 芥川也寸志
装置 : 原島徳次郎
衣裳構成 : 上野芳生
メイク : 野村吉毅
色彩技術 : 田中省三
現像 : 東京現像所
助監督 : 中村倍也
製作主任 : 熊田朝雄[9]