霧に棲む悪魔

京野ことみ(霧に棲む悪魔)
京野ことみ(霧に棲む悪魔)

東海テレビ・国際放映の制作により、2011年4月11日~7月1日の平日13:30-14:00にフジテレビ系列で放送された昼ドラ。平均視聴率は4.4%。
19世紀のミステリー『白衣の女』(ウィルキー・コリンズ)を原案とし、死亡した資産家の父から莫大な財産を受け継ぎ結婚を控えたヒロイン・龍村圭以が精神病院から逃げ出した白い服の女から「婚約者は悪魔」という手紙を受け取り、一族の陰謀に巻き込まれるミステリー作品。主演の入山法子はドラマ初主演、一人二役を演じる。東海テレビ関係者は『途中から見ても分かるよう、工夫を凝らしたい、“タブー”に挑戦したい』と語り、制作現場では「新しい昼ドラを作ろう!」が合言葉となっていたという。

霧に棲む悪魔の原作

ウィルキー コリンズ「白衣の女」 (岩波文庫)

ウィルキー コリンズ「白衣の女」 (岩波文庫)


暑熱去らぬ夏の夜道、「ロンドンに行きたい」と声をかけてきた白ずくめの女。絵画教師ハートライトは奇妙な予感に震えたー。発表と同時に一大ブームを巻き起こし社会現象にまでなったこの作品により、豊饒な英国ミステリの伝統が第一歩を踏み出した。ウィルキー・コリンズ(1824-89)の名を不朽のものにした傑作。

霧に棲む悪魔の原作を読んだ人の感想

霧に棲む悪魔の感想

第1週|京野ことみだけが救い

霧に棲む悪魔 第5話ウィルキー・コリンズ原作という通好みのサスペンスだが、淡い期待を当然のようにぶち壊す出来で、登場人物の行動はかぎりなく意味不明、原作を読みたいと強く思わせるという仕掛けになっている。
姜暢雄という人も入山法子という人もほとんど知らないが、CMがメインと思われる?入山はともかく、姜は芸歴から言ってそれなりのヴェテランであるはずなのに、あまりに下手くそで見ちゃおれんwww
京野ことみが出ていなかったら、すぐに見るのをやめてしまったところだ。

お話はいちいちツッコミどころ満載すぎるのだが、挫折したダンサー(突飛な設定である)である姜が首をくくるつもりで森をさまようというのが物語の発端である。
封筒に「ご両親様へ」と表書きした遺書がなんだか大時代で、この遺書は3回目ぐらいで、姜が部屋のゴミ箱に捨てていた。当然この遺書は龍村ファームの広岡由里子が発見するはずだが、そうはならなかったりするのが、スカタンの所以である。
姜はいきなり現れた白衣の入山法子に押し倒されて唇を重ね、オイオイと思っていると精神病棟の医師のような男たちが犬を連れて現れ、白い服の女を見なかったかと姜に訊く。
姜は女が残した謎の言葉に導かれて龍村ファームにたどり着き、なぜか牧童として働くことになる(ロケ地は富士山麓との由)。
ファームの経営者は入山(白い女とは別人の設定。しかし「白い女」ってww)で、京野ことみは異父姉妹である。原作では京野の役柄は「醜い姉」ということになっているらしい。気の強い入山は姜に反発するが、だんだん惹かれあうようになり…というのが第1週の筋書きである。
姜はダンサーであったことを隠しているのだが(なぜ?)、それを知って匿うのが京野ことみで、普通の文法で考えれば、京野がいちばん怪しいのだが…

第2週|姜暢雄がブキミ過ぎる

霧に棲む悪魔 第6話戸次重幸が出てきて、1週目よりは面白くなった。
昼メロ枠では、戸次はかつてない二枚目役で、ギャグ寸前のばかばかしさがいい。中田喜子(いかにも悪そうな女ぶりは、なんだか地っぽい)のレストランを訪れるシーンなど、ちょっとおもしろすぎる。

それにしても、姜暢雄が演じる主人公の行動はあいかわらず謎だ。
「あなたが愛しているのは私じゃなくて別人なんだわ」入山法子に言われて、「違うんだ!」と断言するのだが、「違うって…?」と聞き返されて絶句してしまう。
いま断言したばかりの台詞はなんだったんだ…www
入山にも京野ことみにも慕われる羨ましい役だが、金曜冒頭でついに姿を消してしまう。
来週どんなつらを下げて戻ってくるのかに注目したい。
前回書きそびれたが、この男は、思っていることの半分も人に伝えられぬくせに、素手でリンゴを割ることができる怪力の持ち主である。じつに不気味だ。
不気味といえば、榎木孝明の白いドーランも怪しい。あれは、本当は死んでいるというオチなんではあるまいな。

それらの欠点を抑えて、首の長いショートカットの京野ことみが、じつに魅力的である。「TAKESHI's」で大胆なファックシーンを演じたのは、まだ結婚前のことだった。この女優はもっと活躍しても良いように思う。

第3週|昼ドラのサービス精神

霧に棲む悪魔 第16話姜暢雄が出てくると急に展開が求心力を失ってしまうww いったいこの男は何をしたいのか…

今週は姉妹が互いの結婚に気を遣いあう話で、昔の邦画やドラマはこういうすれ違いを描くのが上手だった。
我々はそれらを反芻しつつ見るのでまだいいが、若い視聴者は、わざとらしいすれ違いや、タイミングのずらし方、言葉尻でのひっかけ等、どうにもじれったかったのではないか。
こういうモチーフにはお節介婆が必須なのだが、悪女顔の中田喜子では足らず、もうひとり現れたのには苦笑いした。さらに連れてこられた外務省のホープが、榎木孝明「衆道はモノノフの嗜みじゃ!」と無理やり唇を奪われたり、いやまあ、作り手は昼ドラのサービスに長けているww

しかし白い女は湖畔のどこに棲息しているのか、鳥や獣を捕って暮らしているのだろうか。岡まゆみの母親はおそろしく娘に冷たいのだが、何か訳があるのだろうか。

第4週|姜暢雄さえ出てこなければ面白くなる

霧に棲む悪魔 第16話姜暢雄が出てこないので、今週は面白かった。思わず月曜のぶんの予告編まで見てしまったほどだ。

姜暢雄はみなとみらいで酒の酔って若者とケンカをし、フラフラしているところを道路工事の人夫に助けられた(斉藤暁という役者だが、対馬諭吉という変な役名!)。どう見ても車に轢かれたような描写だったが、姜が目を覚ますとそこは斉藤の部屋だった。人を雇う権限などなさそうな斉藤に、姜は俺を使ってくれませんかと頼み込む。しかし斉藤は現場監督だったのか、次の日から姜は工事現場で働くことになるのである。

私は姜の働く現場を東京だと勘違いしており、入山法子戸次重幸の新居も東京だと思っていた。途中、日本大通りをタクシーで通過する際に京野ことみが姜を目撃するので、現場が東京だったり横浜だったりするのかと思った。
夫婦の新居が東京ということは、中田喜子の店「ロータス」も横浜ということになる。富士山麓の龍村ファームから横浜は新幹線を使えばそう遠くないはずだが、新居を訪れた京野ことみはまるで関西から出てくるかのように気負いこんでいた。

面白かったと言っても、厳密には、家政婦の田島ゆみかが現れた木曜、さらに厳密に言えば入山法子が作ったカレーにビネガーが入っていたと判明したときからである。
不渡手形を出す寸前に追いつめられた戸次重幸は、龍村グループの株式を抵当に入れるための委任状に入山法子のサインが欲しいのだが、大沢樹生の怪しい弁護士は、私に考えがありますと言っていたので、田島は大沢が差し向けたものかと思っていた。
だが、金曜日になって、田島は戸次のスパイだったことが判明する。田島はワインとビネガーをすり替えたが、その目的は入山のカレーを台なしにすることではなく、入山の精神を狂わせていくことにあると思われる。田島は、次いでブローチを盗むが、自分が疑われるのは当然の状況だからブローチが欲しかったのではなく、入山を錯乱させるための策略だったと考えられる。

入山法子が狂っていくことは、白い女であるもうひとりの入山法子に重なっていくことを意味する。白い女もまた戸次によって狂わされたのであろうということが見えてくる。

このドラマでは戸次重幸が悪者(悪魔)かどうかということが、第2週からずっと曖昧になっているのだが、田島とぐるだったということは、いよいよ戸次が悪魔だったと受け取っていいのだろうか。

大沢樹生の弁護士が、私に考えがありますと言ったのは、京野ことみを早く帰らせるための策略だったと思われる。京野ことみは、白い女が会いたいと電話をかけてきたために1泊しただけで帰ってしまった。広岡由里子の話では、電話をかけてきた白い女は“本人だと名乗った”そうだから、大沢は白い女を意のままに操れるということになる。ここにも何か仕掛けがありそうである。大沢は中田喜子の愛人なので、白い女を操っているのは中田なのかもしれない。

また、榎木孝明の伯父の動きも謎である。榎木は新婚家庭に盗撮カメラを設置し、さらにすり替えたポプリを寝室に置かせることに成功した。ポプリを寝室に置くものと京野ことみから聞いてほくそ笑んでいたので、龍村家の跡取りを欲しい榎木は媚薬をポプリに吸わせておくのかと思ったが、ポプリに仕込まれたのはただの盗聴器だった。せっかくの盗聴器だが、夫婦の閨房は初夜以来、沈黙を守ったままのように見える。

せっかく面白くなってきたのに、今週の最後に入山法子は姜暢雄に再会してしまった。姜暢雄が展開をぶち壊しにしないよう祈るばかりである。

あと、このドラマの公式サイトは、あらすじが小説になっている。おかげで、要約して上に載せるのに、レビュー本体を書くよりも時間がかかるwww

第5週|誰と誰が味方で敵?

物語は急速にクライマックスに近づいており、戸次重幸はついに善人のヴェールを脱いだようだ。
しかし大沢樹生とも中田喜子とも独立して動いているようなので、その意図が那辺にあるのか今ひとつわからない。
誰と誰が敵だったり味方だったりするのか、まだあやふやなのである。
たとえば龍村ファーム製チーズに異物を混入したのは、大沢の仕業であるらしいのだが、戸次はそのことに勘づきながらも黙っていたという。
だとすると、大沢は何のためにそんなことをしたのか。おそらく、そこには大沢の愛人である中田喜子の指示があったはずである。
その中田喜子の企みはまだわからない。入山法子に作らせた遺言書にどんな仕掛けがあるのか。
遺言書は鶴田忍の助手である石井智也に預けられたが、石井は「猫の手も借りたいほど忙しくて、にゃんともにゃらず」などと言ってるばかりで、弁護士事務所で働きながら、公証人役場に足を運ぼうともしない無能な男だ。
遺言書は、そもそも榎木孝明が鶴田忍に吹き込んで作らせることになった経緯がある。
今週後半、榎木は京野ことみを救うためにサーベルを振りかざして大立ち回りを見せたが、その直前に、気を失った京野に向かって、「我が妻よ、我が子を生せ…龍村の血を引く我が子をな…」などとつぶやいていたところを見ると、意識のない京野を陵辱しようとしていたようにも思える。口移しで飲ませていた薬で京野が解毒された様子もなかったので、あれは媚薬だったのだろう。
そうしてみると、榎木もやはり味方とはとても思えないのである。榎木が「白狐」と呼ぶ中田喜子とつるんでおり、龍村家の財産をめぐって、戸次重幸と争っている、という構図のようにも見える。
大沢樹生は中田と戸次双方の手先であるが、京野ことみを自分のものにしたいと考えているようで、その分、独自の意思で動いているようにも見える。
手先といえば、油断して、京野ことみに麻酔注射を腿に打たれたにもかかわらず、モンスターのような体力で龍村邸を駆けまわっていた田島ゆみかも、誰かの指示というよりも、独立した意思で京野ことみを虐めているようである。
京野は定期預金の一千万をやるから携帯電話を貸してくれと田島に頼むが、田島は鼻をならしてそれを断る。
京野が昏倒したあとにその定期預金を奪うのかと思ったが、そうでもないようなので、田島はよほど根深く龍村姉妹を憎んでいるようである。

さて、白い女のほうの入山法子によれば、戸次重幸には致命的な秘密があるという。
白い女が現れたことを大沢樹生から報告されたときの戸次の苛立ちぶりは、じつに激しいものであったことを考えると、戸次が何よりもおそれているのが、入山法子同士が顔を合わせてしまうことだとわかる。
「言葉や理屈の通じない相手ほど始末に困るものはない。とくに女という生き物は、理性よりも本能で動きたがるからね。損得なんて考えちゃいない。まったく、霧子といい、晴香といい、苦々しい女どもだ!」
と戸次は大沢樹生に向かって話していた。
田島ゆみかは悪事を知られて体を要求されるのではないかと警戒していたが、戸次はそんなものに目もくれない様子だった。この男は女全般に憎悪を抱いている存在である可能性がある。

まだ謎はたくさん残っている。
悪魔を退治る弓として、姜暢雄の登場がひたすら遅らされているが、姜がその大詰めの舞台に見合った活躍を見せてくれるとはどうしても思えない。
このまま船に乗って登場しないでほしいと期待している。

第6週|時代錯誤の一大ロマン

google先生で「霧に棲む悪魔」を検索すると、2番目に表示されるWikipediaの項目の関連項目に「レツゴー三匹」がある。
何かと思ったが、荻野克次を演じる逢坂じゅんとは、なんと、あのレツゴー三匹のじゅんちゃんなのだった。

「じゅんで~~す!」「長作で~~す!」と順に名乗り、最後に正児が似ていない物真似で「三波春夫でございます」と仰々しく自己紹介した所を、じゅんと長作の両方から頬をドツかれ、その結果正児のメガネがズレる、というツカミのネタが有名すぎて、。
このツカミが有名過ぎる為、じゅんと長作の名前は思い出せても、正児の名前が思い出せない(「三波春夫」と言ってしまう)、といった事が少なくない。

【wikipedia「レツゴー三匹】

誰かに似ているとずっと思っていたのだが、なつかしい限りである。

さて、じゅんちゃんは、霧子と龍村家の関係について何かを知っているようだ。
圭以に化けた霧子に睡眠薬入りのミルクを飲ませ、戸次重幸に引渡してしまうのだが、戸次の正体に薄々気づきながらも言いなりになる姿勢に、娘の広岡由里子は不審を感じる。戸次はじゅんちゃんの肩をポンと叩いて、「悪いようにはしないから」と言うのだが、保身だけでやっているのではない様子である。

先週あたりから急速に盛り上がり、京野ことみ入山法子も二人とも毒を盛られて動けなくなったり、その間にも戸次を狂わせる謎の呪文「ゴシュは死んだ」という言葉が登場したり、物語がめまぐるしく進展したので、もしやこの勢いで今週が最終回なのではと危惧したが、「霧に棲む悪魔」は、まだまだ続くようである。
Wikipediaには全60回予定とあるから、ちょうど今週で半分であり、物語はようやく折り返し地点に達したにすぎない。これから、いよいよ、龍村ファームの龍の伝説をめぐって、悪魔の仮面をかなぐり捨てた戸次と中田喜子、榎木孝明らの三つ巴の死闘が始まる。こういった時代錯誤の大ロマンを愉しめるのはうれしいかぎりである。
昼メロというのはまったく理想的な、恵まれた環境を作り手に提供しているのだなー。

しかしながら、物語の後半にはもはや龍村圭以は登場しないことになる。死んだのは圭以ではなく、霧子なのではないかと私は疑っていた。二人は直前に服を交換しており、それぞれ別な形で戸次の手に落ちるのだが、その時点では入れ替わりをたしかに戸次と影山に察知されていたものの、中田喜子が手引きをしたのではないかと考えたのである。
しかし、金曜日に再び監禁されていた白い女は「お嬢様…」とつぶやいていた。
そもそも、400億の資産家が急死したというのに、警察は遺体の足首に注射痕があることに気づかなかったのだろうか。心不全とは死因不明の謂である。

一方で、姜暢雄は、対馬諭吉との約束通り、どこぞの島で漁師をしていたが、子供が持ってきた大根を包んでいた新聞紙の記事から、入山法子の死を知ってしまい、ふたたび白い女を探し始める。
これまでの物語を通じて、この男は、白い女を探すというひとつのことしかやっていないのだが、こちらも、病院や霧子の母である岡まゆみが姿を消していることがわかり、何らかのぺてんが暴かれようとしている按配である。
カタルシスのある展開を望むものである。

入山法子の危機に際して自分も倒れてしまった鶴田忍は、京野ことみの危機を救うために颯爽と現れて戸次の顔色を失わせ、視聴者の溜飲を下げたが、中田喜子に先を越されてしまい、助手・石井智也の「にゃんともにゃらず」事件が反芻され、あまりの無能ぶりにまた具合が悪くなりそうだった。
そもそも、面会謝絶になるほど体調を崩すタイミングが出来すぎていたのだが、あれももしや中田喜子の陰謀によるものだったのではないかと思われる。

そして大沢樹生
登場シーンはそれなりにあるにもかかわらず、なぜか存在感を薄めている京野ことみに歪んだ愛情を抱いているとおぼしいが、大沢は一方で中田の愛人であり、戸次はその関係を知らない(戸次の養女となった田島ゆみかは勘づいていそうな気がする)。
こちらもどう転ぶか、展開が楽しみである。

第7週|戸次重幸はチェロを弾けない

霧に棲む悪魔 第34話中田喜子演じる蓮見依子とは、何者として登場したのだったか。
レストラン「ロータス」のオーナーで富裕層と付き合いがあるのはわかるが、10億という金を戸次重幸に貸すほどの金持ちであるにもかかわらず、その身分が明らかではなく、龍村家とのかかわりもよくわからない。
当初、入山法子にも戸次にも、10億を知人が用立てる口利きをするだけと言っていたはずである。
なぜそれが気になるかというと、戸次が蓮見依子の息子なのではないかという気がしてきたからである。

榎木孝明は、「ゴシュは死んだ」という言葉の意味を知っていることを示すため、ティーカップのもち手をぐるりと左側に回してみせた。すると戸次は顔色を失って暴れ始め、榎木のノートPCを粉々にしてしまった。
ティーカップの動作はフランス語の左(gauche)のことを意味するのだろう。
宮沢賢治の童話の主人公「ゴーシュ」は左利きではないが、その名はgaucheの「不器用」という意味から取られたと言われている。つまり榎木が言いたいのは「セロ弾きのゴーシュ」のことであった。
戸次は、かつて姜暢雄と朝までワインを飲み交わした際に、チェロ演奏家になる夢を諦めたいきさつを語っていた。
16年前の大火災によって背中を痛めたためである、ゴシュは死んだとは、この火災でチェロ弾きの御田園陽一が死んだということを意味しているのだろう(ちなみに、この「大火災」は、当初、阪神大震災のことだったが、設定変更されている)。
御田園陽一は死んでいた、つまり戸次重幸は贋者である(本物の御田園陽一が左利きだったかどうかはわからないが、左利き用のチェロというものは、特注しないかぎりないらしい)。
そこで戸次が誰なのかということになり、冒頭に書いた、中田喜子の息子なのではないかという予想が生じるのである。
また、安原霧子が「ゴシュは死んだ」という言葉をどこで聞いたのかという問題もある。
霧子の母親が龍村家で家政婦をしていたのは20年以上も前とされており、火災よりも前なのである。

この物語には二つのボディロンダリングがあると思う。
ひとつは戸次重幸だが、もうひとつは入山法子によるものである。
龍村圭以は死んだとされているが、病院で怯えている白い女は安原霧子ではないはずである。

さて、榎木孝明はタンポポ茶まで用意したが、京野ことみを手篭めにすることに再び失敗してしまった。
タンポポ茶は卵胞刺激ホルモンの分泌をよくする効果があるらしいが、榎木はさらにこれにしびれ薬のようなものを調合して、京野の自由を奪っていたが、現れた弓月に京野をさらわれてしまった。
京野ことみの強姦に失敗するのはこれで二度目であり、榎木は大沢樹生に対した際と同様に、ハプスブルクのサーベルを取り出したが、役に立たなかった。
榎木が龍村の血にこだわるのは、龍村ファームの土地に隠された秘密が関係していると思われる。

姜暢雄がきさらぎ病院・分室と思っていた建物は、精密機器メーカーの研修施設だった。
この会社が太陽光発電事業にかかわっていることから、姜は戸次重幸を連想する。戸次は世界最大の太陽光発電事業に出資しており、10億円というのもそれに必要な金だった。
戸次と入山法子の新婚旅行先はアラブだったのも、この契約に関係していた。
現実でも、アラブ首長国連邦が太陽光発電所を建設しているが、日本でこうした話題に関係があるのは日立など大企業であって、戸次の会社のようなネット企業が太陽光発電にどう関わっているのかは謎である。
そもそも戸次の会社は一度も映らないし、深夜まで帰ってこないわりに何の仕事をしているのか、どうもぴんとこないのである。

第8週|ふたたび沈滞ムードへ

霧に棲む悪魔 第36話予想通り、姜暢雄が再登場するなり物語の進行は止まり、謎は引き延ばされて、ふたたびドラマは緊張を失ってしまって、今週はずっと、デヴァルトメンタルクリニックから誘拐された入山法子が、龍村圭以なのか安原霧子なのかという話で終わってしまった。
あるブロガーが指摘するように、圭以と霧子の最も簡単な見分け方は、筆跡鑑定である。
霧子の書いた「御田園陽一は悪魔」という警告文の文字は、ワープロのような奇妙なもので、
「あの子は文字にも魂があると言って一字一字ていねいに書いていた」
と母親の浅子(岡まゆみ)が解説していた。
姜暢雄も京野ことみもあの異様な手紙を見ているはずなのに、入山に字を書かせてみないのは不自然なのだが、昼ドラマだからしかたないだろう。
京野ことみはどうやらDNA鑑定をしようと考えているらしく、「ニャンともニャらない」の唐木田を連れて、再び榎木孝明の部屋に向かうところで、今週は終わっていた。
来週ははじめから、またしても京野の貞操が危険にさらされるようである。

デヴァルトメンタルクリニックに侵入した姜と京野は清掃会社の職員に化けていたが、病院前のコインパーキングで様子を伺っていたときには、変な帽子をかぶって“変装”していた。
こうした「探偵ふう」の装いをする感覚は、70年代のドラマ的でもあり(例えば「アイフル大作戦」のような)、昼ドラマ的でもある(つまり昼ドラマは70年代から時間が止まっている)。

今週のストーリーはもうひとつ、龍村グループの総裁の座を狙う戸次重幸矢島健一の争いであったが、中盤では劣勢と言われていた戸次が盛り返し、矢島は増資までしたのに、執行取締役の座に甘んじることになってしまった。
戸次は今やグループCEOなので、元々経営していたネット企業がどういうものだったのか、今後ドラマで語られることはきっとないだろう。

リネン室でケーキをぱくついていたナース姿の松田沙紀は、この病院に「出たり入ったりしている」と言っており、左手首はリスカの痕だらけだったが、やはり患者だった。
松田の手引きによって入山法子の誘拐は成功したが、姜=京野コンビは、入山がお嬢さまと呼んでいた毛糸の人形を落としてしまった。
松田が人形を医師の手から取り戻していたので、これはこの後の展開になるかと思われたが、入山は姜が作った新しい人形に満足してしまったし、松田もまた持ち去った人形を何もしなかったようなので、これらは松田沙紀の場面を作るためだけのシーンであったようだ。
美人さんの松田沙紀は宝塚出身の女優だが、ドラマではまとまった役があまりないのが残念だ。

姜暢雄はアパートの部屋で入山法子に恭しく手を差し伸べ、
「いらっしゃい、君、空から来たの? ようこそ、屋根裏のお城へ」
と声をかけ、
「さあ、舞踏会の時間だ。タ~ララ~」
とダンスのステップを踏んでいた。
笑えるからいいのだが、こうしたシーンを誰が期待しているのだろうと思う。

第9週|長い長い迷走

進行が遅すぎる。。。
姜暢雄が出てくると展開が滞るのは、ひとえにこの男が優柔不断だからである。
そもそも、安原霧子にキスされた余韻で龍村ファームに迷い込んだにすぎないくせに、今や霧子が死んだと聞いても些かのショックを受けるでもない。入山法子の顔さえ備えていれば、中身はどっちでもかまわないのであろう。

さて、榎木孝明は、DNA鑑定への協力を頼んだ京野ことみに、
「いまこの家に必要なのはお前の言う通り、龍村の血を引く正当な跡取りだ。それを得るにはどうすればいいか、わかっているであろう?」
などと言って、またしても手篭めにしようとしていた。これで三度目であり、しつこい男である。
京野の貞操を最初に守ったのは大沢樹生、二回目は姜暢雄、そして今回は石井智也京野ことみを救った。
今回はサーベルを振り回すことはしなかったが、“ニャンともニャらない”の迷言でおなじみの石井智也
「刑法第176条、13歳以上の男女に対し暴行又は脅迫を用いて猥褻な行為をした者は、6か月以上10年以下の懲役に!」
などと叫んで、逆に玄洋に爪でひっかかれていた。
この傷はDNA鑑定の伏線かと思われたが、実際に鑑定に用いられたのは、広岡由里子が採取した血のついたティッシュだった。
広岡由里子は京野ことみに頼まれたのだが、無知なためDNAをDMAと打ち込んで検索し、無関係なウェブページを表示させていた。
そこに現れたのが小鹿運送の本村健太郎で、これがなぜかDNA鑑定にやたらと詳しく、綿棒で口中の粘膜を採取するのがいいこと、噛んだガム(シュガーレスに限る)、歯ブラシ、口をつけたグラスやストロー、切った爪、血が出るほどブチッと抜いた毛髪、血液などが鑑定に適していることなど、広岡にトクトクと講義していた。
本村は、自分の子供が自分と似てないことを気に病み、DNA鑑定について調べたことがあるらしいのだが、本編とはまったく関係がなさそうなエピソードである。

榎木孝明があくまでDNA鑑定を妨害する理由は、よくわからない。
唐突にシェイクスピアばりの一人芝居が始まり、
「双子の兄弟として生まれながら、お前はすべてを奪っていった。
 ありとあらゆる才能、才覚、英知と美徳、親の期待と愛情さえも
 一心に受けたお前が当然のように龍村家の当主に就いたとき
 私に残されていたものは深い失望と屈辱
 そして傷ついた魂のすみかと成り果てたこの身一つのみ。
 うんぬん」

という長い長い台詞を喋るのだが、意味がわからない。
兄・礼司に復讐をしているということらしいが、こんなシーンは要らないはずである。
俳優・榎木孝明に対する、ナンシー関が言うところの“接待”なのだろうか。

姜と京野に拉致された入山法子は毎日少しずつ記憶を取り戻した。
深夜の龍村邸広間でハープごしに顔を合わせる記憶など、霧子と対面する場面から回復され、次第に、廃校で医師の犬に追いつめられた場面、音楽会の場面、林で霧子宛ての手紙を残す場面、京野ことみと抱き合う場面など、次第に龍村圭以しかもっていないはずの記憶になっていった。
圭以なのか霧子なのか、視聴者ははぐらかされ続けたが、あれほど怪しかった戸次重幸が結局その通り悪魔だったのだから、もはや煙幕に騙される視聴者がいるとも思えない。
しかし戸次重幸と夫婦だった記憶はまだ取り戻せていないので、それを思い出したときの錯乱が楽しみである。

「ゴシュハシンダ」という言葉を意味をめぐって、推理はさんざん迷走した。
姜暢雄は辞書をひいて、五種、五趣、五衆、五酒、語集、五宗、御主といった語彙をリストアップしたが、それらをコンビニで売ってる子供用スケッチブックに書き付けているのがなんともチープである。五衆は僧侶、御主(ウシュー)は琉球王国の君主のこと、など無駄な豆知識が視聴者の脳にインプットされてしまった。
その過程で、御田園の「御」+「主」=御田園家の主が死んだ、という珍説も提出されたが、これは奇しくも真相に近かったと言える。
京野のほうはアナグラムではないかと推理したが、はかばかしい進展はなかった。

二人は石井智也を関西に派遣し、御田園陽一の過去を調査させた。
陽一の父親である大学教授とクラシック好きの母親が大火災で死んだのは、16年前(1995年1月17日の阪神大震災のことである)。陽一は中学卒業と同時にウィーンに留学していたが、火災時には“たまたま”里帰りしており、事件のケガが原因でチェリストを諦める。チェロの練習に明け暮れていたので、友達も少なく、陽一少年を知る人は乏しいのだが、留学時にチェロの先生(故人)に送ってきた絵葉書があり、そこには「Youichi Mitazono Gauche」と書かれていた。
gaucheは仏語で左の意味と京野ことみに教えてもらった姜暢雄は、当然のように、左利きのことではないかという推理にいたるが、当時の新聞に載った写真の御田園陽一が、弓を右に構えているので、二人はこの推理を捨ててしまう。だが、そもそも左利き用のチェロというものは特注を除いて存在しない。
左利きの陽一が死んだというメッセージでも十分に意味は通じるし、そもそも、戸次重幸が顔色を失ったのは、榎木孝明がティーカップのもち手を右から左へ回してみせたからだったのだが…
gaucheには、左利き以外に、不器用、ぎこちないという意味があると京野は指摘する。
賢治の童話の主人公に与えられた名は、そうした意味を担っていた。だが、京野は、身分違いの結婚という意味もある、と言い、
「昔、貴族が身分の低い女性と結婚するときは、右手の代わりに左手を花嫁に与えたんですって」

と、またしてもどうでも良い豆知識を視聴者に授けるのだった。
いよいよ「セロ弾きのゴーシュ」のことだと思い当たった後も、
御田園陽一が死んでいるってどういうこと?
チェリストとしての陽一は死んだという意味?
などと、どこまでもピンとこないままの姜と京野なのであった。

これらの謎解きの過程で、京野ことみは自分の来歴を姜に告白した。
京野の実父は九州出身の売れない作曲家で、音大時代にハープの勉強をしていた京野の母と知り合い、駆け落ち同然に結婚したという。この父は京野が三歳のときに風邪をこじらせて病死、京野の母は幼い京野を連れ子に龍村と再婚したのだという。前夫を忘れない証として京野に日浦姓を継がせたというのだが、この伏線はちゃんと回収されるのだろうか。

大沢樹生は、白い女と引き替えだといって、京野ことみに15億円の小切手を先渡ししてしまった。もちろん戸次重幸の指示ではあったが、京野はそれをそのまま中田喜子に渡し、中田は領収証も渡さず、まんまとそれをネコババしてしまった。
今さら15億円では借金には全然足りない、と中田は京野に言ったが、いくらなんでも、半年もたたぬうちに借金残高が1.5倍を超えるはずはない。あれがカイジのひっかかった三羽ガラスか。

一方、戸次重幸は「サラマンダー・プロジェクト」に着手した。
砂漠の真ん中に世界最大級の太陽光発電所を作るというものらしい。サラマンダーは火を司るトカゲのことで、戸次は、燃える炎を喰らって生きるサラマンダーが自分にふさわしいと考えているようだ。
火事から生まれた男という意味なのだろう。

田島ゆみかは戸次の指示によってデヴァルトメンタルクリニックに拉致され、記憶を失わせる処置をされそうになる。
田島は誰かに助けを求めていたが、これは中田喜子であると考えられる。
田島は5000万円で養子縁組の契約を結んだが、それを解消するのは別料金だと言ったので、戸次の不興を買ったのである。

姜暢雄がサンドイッチマンを始めたので、京野ことみと入山法子は慣れぬ皿洗いのバイトをしていたが、京野は1000万円を持っているのだから、そんなことをする必要はないと思う。
入山法子はまだ体が思うように動かないらしく、そんな人間に皿を洗わせるのは危険である。

第10週|姜暢雄に知恵をつけたのは誰か

霧に棲む悪魔 第51話今週は岡まゆみが出づっぱりの週だった。
この人は70年代にポーラテレビ小説で主演デビューし、大映ドラマではおなじみの女優なのだが、私にとっては「まんがはじめて物語」の2代目お姉さんが懐かしい(初代お姉さんはうつみ宮土理だが、見ていなかったのか、覚えていない)。「クルクルバビンチョ、パペッピポ、ヒヤヒヤドキッチョの…モーグタン!」と叫んでピョンと飛ぶと、モグタンと一緒に過去へタイムスリップするのである。
しかし、キャリアが長いくせに相変わらずの下手芝居に、苦笑いの週であった。

さて岡まゆみは前回登場時は寺の住職夫人だったのだが、その正体は銀座の高級ブティックオーナーだった。住職夫人を装わせたのは戸次重幸だが、その狙いはよくわからない。
岡はダンス教室のパトロンらしいのだが、無理のある設定である。戸次から毎月金をもらうことにより、今の生活を保証されているようで、どのくらいの金かはわからないが、車代といって渡す金額が100万円だから、その数倍は毎月もらっているはずだ。
自分の身が可愛いからと「ゴシュは死んだ」の意味は話せない、と断った岡は、ゴーシュがセロ弾きだということまでわかっているのに、「御田園陽一は死んだ」という謎かけの意味がいつまでたってもわからない姜暢雄の頭の悪さに驚嘆していた。
岡は御田園家の家政婦だったから、戸次重幸が替え玉であることを最初から知っていたわけで、実際に龍村礼二の三回忌席上で戸次重幸を決定的に追いつめたのは岡だった。
戸次重幸にとって危険なのは、モーロー状態の入山法子より、この岡まゆみのほうが数倍危険な存在だったはずなのだから、デヴァルト・メンタルクリニックに監禁すべきだった。

一方、今週は、龍村圭以と安原霧子がなぜそんなに似ているのかという謎がクローズアップされる。これはたぶん双子なのだろう。
すると、龍村(日浦)稀世と、岡まゆみのどちらが双子を生んだのか。この答えは、戸次重幸も知らないようだ。
おそらく登場人物の中で真相を知るのは、レツゴー三匹のじゅんちゃんだけである。
先週、京野ことみは、自分が日浦姓を名乗っている理由を、稀世が前夫を忘れていないからだと言っていた。稀世が双子を生んだとすると、その片割れを岡まゆみに預けた理由はそこにあるのかもしれない。
預かった娘を金に目がくらんであっさり精神病院に入れてしまった岡は、その場合、とんでもない恩知らずの人非人だということになる。
死んだほうの入山法子が龍村ファームに埋められてる(髪と爪だけだが)と知って、ほっとしたような顔をしていたのは、元々それが稀世の娘であるからということなのかもしれない。
岡まゆみは、20年前に龍村ファームを訪ねたときのことを回想して、娘が母親以上に稀世を慕っているのを見て妬ましかったと告白している。実の母親はそんなことを思ったりはしないものである。

一方、二人の入山法子を生んだのが岡まゆみである可能性もまだ棄てきれない。
稀世の出産は東京で行われ、龍村ファームの人間は出産を見ていないのである。この場合、では二人の入山法子の父親は誰かということになる。岡が死んだ礼二(白塗りじゃないほうの榎木孝明)の浮気相手だった、というような経緯だとすると、伏線も何もない突飛な結末になってしまう。
そうでない誰かだとすると、龍村圭以はもともと龍村家の血を引く人間ではなかったことになってしまい、その場合、わざわざ石井智也の血を使ってまでDNA鑑定を妨害した榎木孝明は、その事実を知らなかったことになる。
今週のクライマックスは、この榎木孝明であって、ついに部屋を出たばかりか、ヒゲも剃り、上下白のスーツという出で立ちであった。しかし顔は白塗りのままである。
この白塗りについて、今まで誰かが説明したことはないと思うが、一体あれは何を意味するのだろうか。

戸次重幸が推進しているサラマンダー・プロジェクトの狙いは、発電パネルの材料であるレアメタルを独占することにあるらしい。戸次は「このプロジェクトに一口乗りませんか、決して損はさせません」と呑気に中田喜子を誘っていたが、中田は全然興味がないようで、「ええ、そんなお金があればね」とかわしていた。
この女の目的はいずこにあるのかは、非常にわかりにくい。

今週明らかになったことには、中田は田島ゆみかを自分の秘書にしていた。戸次重幸は金をけちって田島を精神病院送りにしようとしたが、田島は何者かに電話で助けを求め、デヴァルト・メンタルクリニック院長の魔の手から逃れていた。電話先は中田喜子だったのである。
田島ゆみかはまだ戸次との養子縁組を保持したままなので、中田は龍村家の財産相続に対する切り札を持っていることになる。
中田はまた、大沢樹生に探らせて、姜暢雄たちのアパートの場所も正確に把握しており、岡まゆみをそこへ送り込んだ。アパートの場所を知りながら何もしていなかった中田は、自分からは動こうとしない悪女なのである。
戸次とつかず離れずの関係を保っているのは、戸次を陥れるためではなく、追いつめられ、味方を失った戸次に救いの手を差し伸べたいからだった。これはかなり歪んだ心性だと思うのだが、今週のクライマックスで、ついに御田園陽一ではないことを暴かれてしまった戸次は、中田の車で逃走することになり、中田喜子は夢を叶えることができた。
大沢樹生もまた、弁護士会を追い出されそうになったのを中田に助けられたのだという。そんな弁護士を雇っている戸次も相当鼻の効かない人間だろう。

大沢は、しかし、じつは影山という名が示す通り、本当の悪魔、ファウストを迷わせたメフィストフェレスなのではないかと思う。大沢樹生の最大の関心は京野ことみにあり、京野のうちに隠れている嫉妬心などを増幅させたいのである。黒い企みを腹に隠したまま笑顔を浮かべる人種は扱いやすい、と大沢は京野にうそぶき、怒りや不満を心の奥深くに溜め込む連中のほうが怖い、ある日突然マグマのように噴火して、周りの人間を焼き尽くすから、と話していたが、言うまでもなく、京野ことみがそうなることを期待しているのである。

姜暢雄は、このドラマが始まって以来、はじめて能動的に行動した。
まず、戸次重幸のマンションで入山法子のマントをかぶって現れた。マントはすぐに戸次がめくって、入山ではないことを看破してしまったので、なぜ姜がわざわざそんな真似をしたのかは不明である。
姜は膝をついて、他のことはすべてなかったことにするから、入山法子が龍村圭以であることを認めろと頼んだが、戸次は苦しそうに断っていた。
姜は、自分は「ゴシュは死んだ」の意味を知っているんだぞと脅したが、よろしい、裁判でも何でもしようじゃないかと言い返されてしまう。この「裁判」というのは、アパートにいる入山が圭以かどうかという裁判のことである。つまりこの時点では、戸次は「ゴシュは死んだ」という意味を知っているという姜の言葉を信じてはいなかったのだろう。
姜は、龍村礼二の三回忌を企画し、鶴田忍や矢島健一まで巻き込んで、戸次を追いつめるクライマックスの舞台を用意したのだが、これまでのボンクラぶりを考えると、誰かが知恵をつけたとしか思えない。

姜暢雄を動かした黒幕は一体誰か。
人物配置的には榎木孝明なのだが、まあそれはないだろう。一世一代の大芝居を打った姜暢雄であったが、中田喜子が指摘するまでもなく、サイズが合わないから戸次が御田園陽一ではない、というのは少々弱かったと思う。

さて、ドラマの終わりまであと2週間となったわけだが、戸次重幸が逃げてしまったので、クライマックス以降の展開が読みにくくなった。ヒゲを剃って部屋を出た白塗りの榎木孝明が何を言い出すのか、中田喜子が戸次に手を差し伸べた結果、何が起こるのか。そういえば、戸次が妻の死を悼む描写がこれまでに何度も出てきているのだが、その意味もわからない。
サラマンダープロジェクトはどうなるのだろうか。

最終週|最大の謎は榎木孝明のドーラン

視聴はしたのだが、諸事情によりタイミングを逸してしまった。夏ドラマも始まっているので面倒くさくなったが、せっかくここまで追いかけてきたので一応のフォローはしておく。
そもそも最終回のレビューを書く気が起こらないのは、テレビドラマの構造上、最終回については特に書くことがないからである。何度も書くように最終回は次週に期待をつなぐ必要がない。続編や劇場版などの予定があれば別だが、そうでもなければ、結局は、最終回まで見てくれた視聴者に満足感を与えるサービスでしかない(本当はもちろん、DVD版のアピールという重要な役割がある。DVDはちょうどクライマックスのタイミングでリリースされてレンタルも開始するので、TSUTAYAの店頭では制作費回収のためにもうひとつの熾烈な戦いが展開される。)
そういうわけで、最終回の楽しみ方は、それまでの楽しみ方とは別なものになるべきだと思っている。

さて、本作がDVD化されるかどうかは知らない。普通、昼ドラを放映終了後に再見する機会はない。そういう意味で、60週ものあいだ眺め続けた京野ことみ入山法子戸次重幸中田喜子の姿が見られなくなるのは残念である。姜暢雄については、この男が出てくると話が進まなくなるので、その優柔不断な役設定にイライラさせられたが、再放送の始まった2007年版「花ざかりの花ざかりの君たちに~イケメンパラダイス」で興味深い演技を披露していることを知ったので(オスカー・M・姫島役)、ちょっと見直すところがあった。
「霧に棲む悪魔」の主演は、姜にとってはキャリア的に冒険であったはずだが、あまりこの俳優の持ち味をうまく引き出すことができなかったのではないだろうか。

つい脱線気味になるが、ドラマの内容にも少しだけふれておこう、
最後の2週間が、1回分がそれまでの1週分に匹敵するぐらい展開のテンポが早くなり、毎日が驚きの連続であって、見逃したくないと思わせるものであった。クライマックスから最終回まで2週間として300分(正味は250分ぐらいか)もあるので、ドラマ好きにとっては堪能できる時間が長い、贅沢な期間であったと言える。

結末についてあれこれ言い始めると、きりがなくなってしまうのだが、最大の謎は、榎木孝明のドーランであるとだけ指摘しておく。
終盤、榎木は引きこもりから解放され、最終回にいたっては丘に建つ安原霧子の墓にすがって泣くのだが、その顔にはドーランは見られなかった。
このドーランが何を意味するのかはよくわからないが、おそらく、引きこもり状態と何か関係があるのだろう。
まるであの階上の薄暗いゴシックな書斎は、榎木孝明が、龍村玄洋を演じるための舞台だったとでもいいたげなのである。

霧に棲む悪魔のキャスト

龍村圭以 – 入山法子
安原霧子【白い服の女】 – 入山法子
北川弓月 – 姜暢雄
日浦晴香 – 京野ことみ
御田園陽一 – 戸次重幸
龍村玄洋 – 榎木孝明
蓮見依子 – 中田喜子
影山仁 – 大沢樹生
木島誠吾 – 鶴田忍
唐木田翔 – 石井智也
荻野克次 – 逢坂じゅん
萩野美知子 – 広岡由里子
鹿野良夫 – 本村健太郎
宮下時彦 – 矢島健一
宮下寿々子 – 駒塚由衣
対馬諭吉 – 斉藤暁
安原浅子 – 岡まゆみ
平木麻里 – 田島ゆみか
森田 – 芦川誠
乃中花恵 – 松田沙紀
秋山 – 城戸裕次

霧に棲む悪魔のスタッフ

企画:西本淳一(東海テレビ)
原案:「白衣の女」ウィルキー・コリンズ
脚本:金谷祐子
音楽:羽岡佳
広報:渡辺秀彦(東海テレビ)、山本章子(東海テレビ)
演出:松田礼人(ドリマックス)、木内健人(5年D組)、奥村正彦
プロデューサー:風岡大(東海テレビ)、河角直樹(国際放映)
制作:東海テレビ、国際放映

霧に棲む悪魔を観た人の感想

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