落下の解剖学

サンドラ・ヒュラー(落下の解剖学)
サンドラ・ヒュラー(落下の解剖学)

2023年のフランスの法廷・スリラー映画で原題は「Anatomie d’une chute」。2023年5月21日に第76回カンヌ国際映画祭でワールドプレミア上映、パルム・ドールとパルム・ドッグ賞を受賞し、クィア・パルムにノミネート。サンドラ・ヒュラーは同映画祭における上位2つの賞を受賞(『関心領域』がグランプリを受賞)。フランス国内では観客動員数100万人を突破。

落下の解剖学のあらすじ

人里離れた雪積もるフランスの山荘で1人の男が不可解な転落死をし、ドイツ人作家の妻が殺人容疑で逮捕される。裁判では、サンドラと夫との確執や、死の前日の激しい言い争いも暴露される。そこで彼女は、現場にいた11歳の弱視の息子を唯一の証人として迎え、自らの無実を証明しようとする――。

落下の解剖学の感想

映画は、階段を落ちてきたボールをボーダーコリー(後半で重要な演技をする)が追うところから始まる。小説家サンドラ・ヒュラーが学生にインタビューされているのだが、この対話が微妙なものになろうとしたとき、階上の夫(画面には映らない)がかけるのが、ハンブルグ出身のバカオ・リズム&スチール・バンド「P.I.M.P.」。トリニダード・トバゴ風のスティールパンが印象的だが、元々はアメリカのラッパー、50セントのデビューアルバム収録の曲で、それがドイツを経由してアルプス西端のグルノーブルで爆音再生されているミスマッチさ。VR&SBの曲はヴォーカルなしなのだが、のちに法廷で、判事が50セントの歌詞は女性蔑視的だと指摘するのに対して、「いや、かけられていたのはインストだから」と反論されるくだりがある。

その後、3階にいた夫が落下して死んでいるのを、ボーダーコリーを散歩させていた盲目の息子が「発見」する。夫が自ら飛び降りたのか妻が突き落としたのかが不明であり、サンドラは裁判にかけられて法廷劇が始まるというわけ。

夫はフランス人だがサンドラはドイツ人で、裁判では検察官も弁護士もフランス語。夫婦は英語でコミュニケーションしていたので、ザンドラも途中で英語に切り替える。法廷では、サンドラがバイセクシャルで不倫歴があること、息子が失明した事故をきっかけに夫婦仲が壊れたこと、小説を書いていた夫のアイディアを妻が先に作品化したことなど、あらゆることが暴露され、検察官は殺意があったことをサンドラに認めさせようとする。

事件前日の夫婦諍い以外は「伝聞」であり、映像では示されない(この諍いも肝心なところは音声だけである)。陪審員の判断に影響したであろう息子の証言も映像で再現されているが、そこでは声が消えていて、息子がアテレコする格好になっている。

こうして事件の真相は伏せられたまま映画は終わる。

トリエ監督は、フライシャーの「強迫/ロープ殺人事件」(1958)、クルーゾーの「真実」(1960)、そしてオットー・プレミンジャーの「或る殺人」(1959)に影響を受けたとインタビューで答えている。特にプレミンジャーの法廷劇の原題は「Anatomy of a Murder」だから、本作はその換骨奪胎と言えるだろう。

落下の解剖学のキャスト

サンドラ:サンドラ・ヒュラー
ヴァンサン・レンツィ弁護士:スワン・アルロー
ダニエル:ミロ・マシャド・グラネール
検事::アントワーヌ・レナルツ
サミュエル:サミュエル・タイス
マージ・ベルジェ:ジェニー・ベス
ヌール・ブダウド弁護士:サーディア・ベンタイブ
ゾーイ・ソリドール:カミーユ・ラザフォード
裁判長:アン・ロトジェ
モニカ:ソフィ・フィリエール

落下の解剖学のスタッフ

監督 – ジュスティーヌ・トリエ
脚本 – ジュスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ
製作 – マリー=アンジュ・ルシアーニダヴィド・ティオン
撮影 – シモン・ボーフィス
編集 – ロラン・セネシャル
公開 – フランス 2023年5月21日 (カンヌ国際映画祭)・2023年8月23日/日本 2024年2月23日
上映時間 – 152分

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