江戸川乱歩の「陰獣」を原作に、2001年04月25日20:54~22:48にテレビ東京、BSジャパン提携ドラマ「女と愛とミステリー」として放送。
闇の脅迫者のあらすじ
人気推理作家でインテリア家具の会社を営む寒川は作品のファンだという女性・小山田静子から、静子がかつての恋人から執拗なストーカー行為を受けていると相談される。「必ず復讐してやる」とメールで送り続けるその男は、寒川が嫌っている正体不明の作家・大江春泥だという。清楚で美しい静子の不安げな様子に寒川は大江春泥こと平田一郎を探し出すと約束。馴染みの編集者・本田恭子に大江の情報を集めさせ、大江の写真を入手する。寒川が写真を見せると、静子は平田の感じに似ているとつぶやき、不安がる。その夜は夫が出張中とのことで寒川は小山田家を訪れる。
しかし小山田家の呼び鈴を鳴らした寒川はすでに何かが起こったことを知る。平田一郎から、静子の生活を一部始終覗き見していると思わせるメールが着たというのだ。カーテンは閉じられており外から覗き見ることは不可能だが、静子は平田の気配を感じると言う。寒川は家の構造がおかしいことに気がつく。壁の厚みを入れても1メートルほどの誤差があるのだ。物置の奥の壁に隠し扉があることを発見した寒川が狭い通路を進んでいくと、なんと居間や寝室が覗き見できる細長いスペースがあった。静子は取り乱したが、寒川はその場にボタンが落ちているのを発見した。
静子によれば、この家は夫がすべての手続きを行ったという。あらかじめ覗き見のできる家を作った平田が小山田夫妻に買わせるように仕向けたと寒川は推測。警察への報告をすすめたが、静子は夫にすべてを話してからと返答した。ところが翌日、静子の夫・小山田六郎が公園で死体となって発見される。平田の仕業なのか? 静子に惹かれる寒川は事件の渦中に引き込まれていく……。
闇の脅迫者の感想
川島なお美といえば、ナンシー関が「絶対に認めない」と何度も明言していた印象しかなく、正直、黒木瞳との違いも定かでなかったのだが、2015年に胆管癌で亡くなっていたことを今知った。
本作は2001年のテレ東2時間ドラマだが、90年代半以降、川島は死の直前まで映画、ドラマ、Vシネマにほぼ出づっぱりであり、その最中にドラマ版「失楽園」(97年)のヒロインを37歳で演じ(「子宮が呼吸できないから」と前張りなしで古谷一行とのベッドシーンに臨んだ)、これが代表作となった。
その川島の「陰獣」ということで少し期待して見たのだが、
「古風なフランネルを着ている彼女の身体の線が、今までになくなまめかしくさえ見えたのである。私は、その毛織物をふるわせてくねくねと蠢く、彼女の四肢の曲線を眺めながら、まだ知らぬ着物に包まれた部分の彼女の肉体を、悩ましくも心の内に描いて見るのだった。」
という乱歩の描写には、やはり川島の肉体はほど遠いのだった。
「陰獣」は、ゴダール「カラビニエ」の助監督を務めたバーベット・シュローダーも映画化した、犯罪者でもある小説家をめぐる物語である。大江春泥という名の、人嫌いで陰湿な、呪われた小説家は乱歩自身をモデルとしているが(「屋根裏の遊戯」「B坂の殺人」「パノラマ国」「一枚の切手」といった春泥の作品群が登場する)、同業の明晰きわまる小説家(こちらのモデルは甲賀三郎だが、本作では佐野史郎が演じるので、明晰さより怪しさが強調されている)によって存在を暴かれ、光の中に引きずり出される。
そうした物語そのものに乱歩のマゾヒズムが結晶しているように思われる。作品が「新青年」に掲載されたのは昭和3年。猟奇犯罪が現実に起こるたび「陰獣」という見出しが新聞に踊り、乱歩はこの題名を付けたことを深く後悔したのだが、その辱められる倒錯感覚こそ乱歩的であることに人は感動する。
闇の脅迫者のキャスト
寒川 – 佐野史郎
小山田静子 – 川島なお美
本田恭子 – 佐藤仁美
小山田六郎 – 中丸新将
沢田 – 佐藤二朗
平田一郎 – 吉満涼太
ライター – ふせえり
代理店の男 – 乃木涼介
土屋 – NARUKO
糸川警視正 – 山下真司
闇の脅迫者のスタッフ
原作 – 江戸川乱歩得 「陰獣」 角川書店-角川ホラー文庫
脚本 – 尾崎将也
演出 – 国本雅広