絶望感しかない、破綻のないホラー(ビバリウムの感想)
監督はアイルランド人で、かの国にも住宅問題があり、まったく同じ見た目の建売住宅に住み、味気ない加工食品を食べ続けるディストピアのインスピレーションは、そこから得たという(ヨンダーの住宅はある時期のアイルランドで大量に作られた建売デザインらしい)。
メインキャストは、 可愛い子ちゃんタイプのイモージェン・プーツ(「 28週後…」や ボグダノヴィッチの「 マイ・ファニー・レディ」のヒロイン)と、 ジェシー・アイゼンバーグ(「 ゾンビランド」の語り手である)の二人だけ。
住宅が高騰する前に手に入れたいと考えた二人は不動産屋を訪れ、ヨンダー(向こうとか彼方の意)という広大な郊外住宅団地を見学することに。ところが案内したくれた不動産屋がいつのまにか姿を消し、地平線まで続く迷路のようなヨンダーから出られなくなってしまう。やがて段ボールに入った赤ん坊が届けられ、「育てれば解放される」とのメッセージに、二人はヨンダーでの生活を始めるが…というストーリーである。
実は物語の序盤に、小学校?の教師であるイモージェン・プーツが、カッコウに落とされた鳥の死骸について生徒から質問されて、托卵のことを説明するくだりがある。つまり二人は「人間ではない子供」を育てるためにヨンダーに閉じ込められたのだ。
監督は「 トワイライトゾーン」などの影響を認めているが、98日後、赤ん坊はすでに見た目10歳ほどに成長し、空腹や不満を長い金切り声で訴える人間離れした存在になる(中身は3、4歳なのだ)。犬の鳴き声を真似して走り回るのは子供らしいと言えなくもないが、にこりともせずに二人が言い争う様子などを芝居ぶった口調で正確に物真似する様子は、コミュニケーションの不可能性を感じさせ、かといって無視することもできない。二人はだんだん狂いはじめ、ジェシーは庭に穴を掘る作業に無意味に熱中して、イモージェンと「子供」から孤立していく。
初めに書いた画一的な生活様式や、育児をめぐる夫婦問題などの寓意も見て取ることができるが、奇妙な「子供」をただ育てるだけ(名前も与えられない)の単調な生活の描写がなんとも後味が悪い映画である。
ビバリウムのあらすじ
新居を探している若いカップルのジェマとトムは不動産業者に「ヨンダー」という住宅地を案内される。そこはすべての家が同じ外観で、不気味なほど整然としていた。見学中、案内人が突然姿を消し、二人は帰ろうとするが、どの道を進んでも同じ家に戻ってしまう。やがて食糧の入った箱、さらに赤ん坊の入った箱が届けられ、育てるよう指示される。トムは庭に穴を掘り続け、次第に衰弱していく。
ビバリウムの見どころ
『ビバリウム』は、日常の裏に潜む不条理や社会の矛盾を鋭く描いた作品で、観る者に多くの問いを投げかける。その寓話的な構造と深いテーマ性から、何度も観返すことで新たな発見があるだろう。
- カッコウの托卵をモチーフにした構造
冒頭で描かれるカッコウの托卵行動は、映画全体のメタファー。カッコウが他の鳥の巣に卵を産みつけ、育てさせるように、主人公たちも自分たちの意思に反して、異質な存在である子供を育てることを強いられる。この構造は、他者に自分の価値観や責任を押し付ける社会の風刺とも解釈できる。 - 郊外生活と資本主義への批判
全てが画一的で無機質な住宅地「ヨンダー」は、現代の郊外生活や資本主義社会の象徴。理想とされたマイホームが、実は個性や自由を奪う閉鎖的な空間であることを描き、消費社会の虚構性や人間の孤立を浮き彫りにする。 - アイデンティティと存在の不安
主人公たちは、同じ家が無限に続く世界で、自分たちの存在意義や目的を見失っていく。トムが庭に穴を掘り続ける行為は、出口のない状況での人間の無力さや、意味を求める苦悩を象徴している。育てる子供が人間ではないという事実が、親としてのアイデンティティの崩壊を示唆する。 - 終わりなきループと絶望
結末では、主人公たちが死んだ後も、同じような状況が繰り返されることが示唆される。個人の努力では抗えないシステムの存在や、社会の構造的な問題を暗示し、観客に深い絶望感を与える。
ビバリウムを観るには?
ビバリウム キャスト
トム – ジェシー・アイゼンバーグ
マーティン – ジョナサン・アリス
母親 – ダニエル・ライアン
少年 – セナン・ジェニングス
成長した少年 – エアンナ・ハードウィック
ビバリウム 作品情報
脚本 – ギャレット・シャンリー
原案 – ロルカン・フィネガン、ギャレット・シャンリー
製作 – ジョン・マクドネル、 ブレンダン・マッカーシー
製作総指揮 – ロルカン・フィネガン、 イモージェン・プーツ、 トッド・ブラウン、 ジェシー・アイゼンバーグ、 ブルネラ・コッキリア、 マキシム・コットレイ、 ゲイブ・スカルペッリ、 ライアン・シャウプ、 ニック・スパイサー、 アラム・ターツァキアン
音楽 – クリスティアン・エイドネス・アナスン
撮影 – マクレガー
編集 – トニー・クランストゥーン
製作会社 – ピンポン・フィルム、ファンタスティック・フィルムズ、フラカス・プロダクションズ、XYZフィルムズ
配給 – イギリス・アメリカ ヴァーティゴ・リリーシング、日本 パルコ
公開 – イギリス・アメリカ・アイルランド 2020年3月27日、日本 2021年3月12日
上映時間 – 98分