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復讐の記憶

3.5
イ・ソンミン(復讐の記憶) 映画
イ・ソンミン(復讐の記憶)
復讐の記憶は、2023年公開の韓国映画。出演はイ・ソンミン、ナム・ジュヒョク。監督はイ・イルヒョン。

復讐の記憶の感想

日韓併合後の植民地支配期に日本に協力して地位や財産を得た「親日派」5人を一人ずつ殺して復讐していく老人の話である。主演の イ・ソンミンは当時50代半ばだが80歳という役どころで、メイクも凝っているが、やはりさすがに巧い。

妻が病死して独り身になったことから、老人はかねて計画していた復讐の決行に移る。ただし脳腫瘍末期でアルツハイマーが進んでおり、しばしば記憶が混濁するため、バイト先の若い男を相棒として巻き込むという設定が映画的な仕掛けである。そのために真っ赤なポルシェも調達され、画面は勢い活気づく。

復讐の対象は、

  1. 日本人医師と結託して朝鮮人労働者の人体実験を進めた病院長
  2. 日本統治を正当化する歴史教育を行う歴史学者
  3. 日系企業の顧問として韓国に滞在する旧日本軍将校
  4. 監視・密告体制に関与して韓国軍幹部に成り上がった憲兵
  5. その息子として遺産を受け継いだ経済的エリート

という面々。

見ていて居心地が悪くなってくるのは、老人の恨みが、収奪・皇民化・差別・抑圧・強制徴用した日本そのものより、民族的な裏切り者としての親日家の方に強く向けられているからで、それは最後に明かされる、創氏改名した自身も死ななければならない6人目である、という矛盾が関係しているのかもしれない。繊細な心理である。

あと、3人目(トウジョウ・ヒサシ)が日本帝国主義の亡霊だというのも気になる。満州国軍官学校で教育を受け、日本の名をもつ将校として活動し、のちに軍事クーデターを起こした朴正熙のような人物が意識されているのかもしれないが、トウジョウはどうやら日本人であり(日本語はメチャメチャだが)、式典には自衛隊幹部らしき武官の顔も見られ、「天皇陛下万歳」を叫ぶ人物の描写は、私たちに強いショックを与える。

復讐の記憶の見どころ

本作は国家や歴史、いわゆる「恨(ハン)」(抑圧された怨念の世代を超えた継承)を前景化した映画である。

一人の老人が、国家が果たさなかった正義を代行している。
ピルジュが復讐した5人は、国家や企業、学術、医療といった社会の中枢を握っており、「植民地時代の罪は消えていない」と観る者に訴える。一人ひとりの「過去→現在」を暴力によって消去していく物語として、被害者となった人々の絶望と歴史の重さが凝縮されている。

ピルジュが最後に抹殺するキム・チドクは、日本の植民地支配の忠実な実行者として創氏改名し日本名を名乗り、憲兵として朝鮮人を密告・弾圧した張本人である。そうした人物が国防長官まで登りつめ、戦後も自由に生き延びたこと自体が、歴史問題が解決されていないという批判を体現している。つまり「歴史の亡霊」である。

国の栄誉を象徴する銅像の開幕式の壇上にいるチドクをピルジュが撃つ瞬間は、国家的英雄が”民族の敵”へと転落することを意味する。象徴的には、その死は過去の清算が国家ではなく民間の“正義”によって行われたもの、つまり一人の老人が国のしなかったことを代行するという映画のメッセージである。

エピローグでピルジュは刑務所の独房で安らかな満足の微笑みを浮かべる。数十年の苦しみの終着と、“民族の記憶”の片鱗を守った男を通じて、復讐の先にあるはずの「許し」という言葉が浮かんでくる。恨の解放と、その後の空虚とも言える。

ピルジュが「日本」をどう見ていたか、映画は明言を避けた。

親日派問題について

本作で描かれる親日派5人は単なる悪役ではなく、韓国社会に実在した“親日派エリート”の縮図である。日韓併合の記憶は“未解決”であり、親日派の問題は日本人がイメージするような歴史の1ページを超えて、現在の政治・経済の構造にも影響する「生きた問題」なのだ。

クライマックスが国防長官であるキム・チドクの抹殺であったことは、戦後の軍人エリートが親日協力の歴史を隠して栄華を極める状況への批判である。親日派出身の官僚・軍人が新政府や財界の中枢に残留していることは「植民地支配の遺産が清算されていない」という社会的トラウマとなっている。
日本統治下で「高木正雄」の日本名を持ち、満州国軍将校として活動した朴正熙は、韓国軍で出世後、クーデターで政権を掌握して長期政権を維持した。2013年にその娘・朴槿恵(パク・クネ)が大統領となったことも、「親日派の血筋」論争を再燃させた(それを知る日本人は少ないのではないだろうか?)。尹錫悦(ユン・ソクヨル)は「親日傾向」「加害の歴史に目をつぶる姿勢」と批判され、世論を分断させた。2026年に誕生し、「歴史問題に厳しい姿勢から、実利外交へ切り替えた」とされる李在明(イ・ジェミョン)政権もまた世論の根強い歴史感情と対立し続けている。

三星(サムスン)、LG、現代などの財閥(チャボル)の起源にも親日協力者の名がちらつく。これらは創業期に日本企業や総督府と密接な関係を持ち、日本統治下で資本形成を行った例が多い(サムスン創業者のイ・ビョンチョルなど)。彼らは植民地期に総督府と取引し、富を築いたとされる。
2009年、韓国の民間団体「民族問題研究所」は約4,389人の親日派リスト(親日人名事典)を公表した。ここには政治家・軍人・企業家・文化人が含まれ、社会に大きな議論を呼んだ。現代の財閥の資産や地位には「親日派の遺産」が含まれているとされ、親日反民族行為者財産の国家帰属に関する特別法(親日派が日本統治期に取得した財産を没収し国家に帰属させるための法律)が定められた。本作公開後(2024年〜2025年)、民間の調査報道は再燃し、地方の親日派ゆかりの財産が実際に国庫に返還されるケースも見られる。2020年までの累計で1,297筆の土地が対象となり、売却益約698億ウォン(約70億円)が独立運動家支援などに使われているほか、2021年には親日派の子孫4名に対して約27.7億ウォン(約2.4億円)相当の土地11筆を没収する訴訟に勝訴し、現時点で26.7億ウォンが国庫へ回収されている。

復讐の記憶のあらすじ

80代の老人ピルジュは、日本統治時代に自分と家族の人生を理不尽に奪った者たちへの復讐を心に誓い生きてきた。認知症となり記憶障害に苦しむ彼は、処刑すべき5人の名を指に彫り、復讐計画の実行を決意する。

復讐の記憶を観るには?

復讐の記憶のキャスト

ハン・ピルジュ(フレディ) – イ・ソンミン
ファン・インギュ(ジェイソン) – ナム・ジュヒョク
チョン・ベクジン – ソン・ヨンチャン
ヤン・ソンイク – ムン・チャンギル
トウジョウ・ヒサシ – パク・ビョンホ
キム・チドクパ – ク・グニョン
カン・ヨンシク – チョン・マンシク
キム・ムジン – ユン・ジェムン

復讐の記憶のスタッフ

監督 – イ・イルヒョン
製作 – ユン・ジョンビン
脚本 – イ・イルヒョン ユン・ジョンビン
撮影 – ユ・オク
美術 – チョン・ウンヨン
衣装 – チェ・ヨンヨン
編集 – キム・サンボム
音楽 – ファン・サンジュン
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