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ドリーム・シナリオ

ジュリアンヌ・ニコルソン(ドリーム・シナリオ) 映画
ジュリアンヌ・ニコルソン(ドリーム・シナリオ)
『ドリーム・シナリオ』は、2023年公開のアメリカ合衆国の風刺コメディドラマ映画です。脚本・監督・編集はノルウェーの映画監督クリストファー・ボルグリ。
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不穏さMAXのニコラス・ケイジの悲劇(ドリーム・シナリオの感想)

ニコラス・ケイジ(撮影当時は50代のはずだが、70歳くらいに見える)は冴えない生物学の教授で、妻と二人の娘と平凡に暮らしている。彼は長年アリのコロニーの研究をしており、学生時代からの知人がネイチャー誌に同じテーマで論文を発表しようとしているのを知って猛然とクレームを入れるのだが、かと言って自分の論文は一行も手をつけて折らず、永遠に頭の中にしか存在しないという、まあ俗物的な人物である。

そんな彼の姿を、人々が夢の中で目にするようになる。最初は娘、次にレストランの案内係、大学の生徒たち、そして面識のない人々まで。夢の中のニコラスはもの問いたげな表情で立っているだけだが、夢を見た人はさまざまな窮地に立っており、つまりどの夢も悪夢である。猫背でうっそりと立つニコラスの姿は、たしかに不穏さを感じさせる。

――というあたりで、2009年の「ThisMan.org」のネットミームを思い出す人もいると思う(次項参照)。イタリアの社会学者の実験的ゲリラマーケティングだが、その後のSNSの浸透により、ある種の都市伝説が爆発的に伝播することを映画はカリカチュアしている。

さて、ニコラスのもとには、その能力をマーケティングに使いたい(ただ立つのではなく、スプライトを持ってほしいというのである)という広告代理店のオファーが来るにいたり、彼は途方に暮れる(彼は現実には何もしていないのだ)。代理店担当の若い女性は、夢でニコラスに抱かれて途方もない快楽を得たと告白し、その再現を求められて、ニコラスはなぜか放屁を連発してムードを壊してしまう(このシーンは最高である)。

そのあたりから、夢の中のニコラが(「エルム街の悪夢」のフレディのような)殺人鬼に変わる。怖い夢を見てトラウマになった人々は現実の彼を排斥しはじめる。生徒たちは授業をボイコットし、車に落書きされ、レストランでは他の客の苦情で追い出され、娘の学芸会は観覧を拒否される。妻の仕事にも差し支えるようになり、ニコラスは家族と別居を余儀なくされることに。

ここまでで、ニコラスを夢に見ないのは妻(ジュリアンヌ・ニコルソン)だけ。彼女は、夫が劇場で出くわした旧友と電話番号を交換するのさえ嫉妬するのだが(ニコラスもちゃんとそれを察知する)、この妻が理想とする夫が、なぜか、「ストップ・メイキング・センス」でデヴィッド・バーンが着ていた80年代的にばかばかしく肩が広いスーツを着たニコラスなのだった。というわけで、ラストカットは、妻の夢の中、「city of dreams」にあわせて踊り、やがて空に消えていくニコラスの姿となる。この幕切れはかなり切ないものであり、それはやはりニコラス・ケイジならではの切なさなのであった。

ドリーム・シナリオに影響を与えたネットミーム「ThisMan.org」とは

「This Man」は、イタリアのマーケティング専門家・社会学者のアンドレア・ナテッラ (Andrea Natella) がゲリラ・マーケティングの一環として考案した都市伝説。2008年、「Ever Dreamed This Man?」というWebサイトが立ち上げられ、2009年10月頃から報道やインターネットユーザーに注目されるようになった。その中で、「This Man」は、2千人を超える世界中の人々の夢の中に繰り返し現れ、現実では決して姿を現さない謎の人物として紹介されている。2010年、ナテッラは「This Man」がゲリラ・マーケティングの一環だったことを認めた。
「This Man」は数々の映画や『X-ファイル』、『世にも奇妙な物語』などのテレビ番組で取り上げられ、週刊少年マガジンには「This Man」を元にした漫画も連載された。

ドリーム・シナリオ 見どころ

アリ・アスターとラース・クヌーセンがスクエア・ペグ・レーベルの傘下でプロデュースし、ニコラス・ケイジ、ジェイコブ・ヤフケ、タイラー・カンペローネが共演。ケイジ、ジュリアン・ニコルソン、マイケル・セラ、ティム・メドウズ、ディラン・ゲルラ、ディラン・ベイカーが出演している。ニコラス・ケイジは、他人の夢に現れるようになる温厚な進化生物学教授、ポール・マシューズを演じる。
2023年9月9日にトロント国際映画祭でプレミア上映され、 2023年11月10日にA24により限定劇場公開開始、11月22日に拡大公開され、批評家から絶賛されて、ニコラス・ケイジはゴールデングローブ賞ミュージカル・コメディ部門主演男優賞を含む賞にノミネートされた。

ドリーム・シナリオのあらすじ

進化生物学教授のポール・マシューズは、何百人もの見知らぬ人の夢に登場する現象に巻き込まれる。当初は名声を楽しむポールだが、彼の夢の中での姿は次第に暴力的で恐ろしいものになっていく。この状況で職を失い、妻ジャネットとも別れることに。その後、夢現象は収まり、共通潜在意識は広告に利用されるようになる。フランスでの書籍プロモーション中、ポールは妻の夢に入り、彼女を救おうとする試みを行う。現実と夢の境界が曖昧になる中、ポールは真の自分を見つけられるのか?

 

ドリーム・シナリオを観るには?

ドリーム・シナリオ 巷の評価

現代社会の承認欲求やバイラル文化、ポスト・トゥルース時代の問題を風刺的に描いた『ドリーム・シナリオ』については、ニコラス・ケイジの演技や夢と現実の境界を曖昧にする演出を多くの人が評価している。

ドリーム・シナリオのテーマと社会風刺についての考察

  • 主人公は何百万もの人々の夢に現れることで一躍有名になるが、夢の中での行動が暴力的になると評価が一転し、嫌悪の対象となる。この展開は、現代のSNS社会における「バズ」と「炎上」の構造を風刺している(現代の承認欲求とバイラル文化の風刺)
  • この映画は2006年に話題となった都市伝説「This Man」に基づいているとされ、プロットに影響を与えている(「This Man」ミームとの関連)
  • 夢の中の行動が現実世界での評価に影響を与える様子は、事実より感情や印象が優先される「ポスト・トゥルース」時代の問題を描いている (ポスト・トゥルース時代の風刺)

ドリーム・シナリオのキャラクターと演技についての評価

  • 平凡な大学教授ポール・マシューズを演じるニコラス・ケイジの演技は、彼のキャリア中、最高の演技と言える

ドリーム・シナリオの演出と構造についての考察

  • 夢の中と現実世界の描写を同じトーンで描いているため、観客はどちらが現実か判断しにくい。夢と現実の境界を問いかける演出である

ドリーム・シナリオの結末と象徴性についての考察

  • 映画のラストでポールが着るスーツには象徴的な意味が込められている。内面の変化や社会からの評価の変遷を表しているのではないか

ドリーム・シナリオ キャスト

ポール・マシューズ(大学教授) – ニコラス・ケイジ
ジャネット・マシューズ(ポールの妻) – ジュリアン・ニコルソン
トレント(バイラルマーケティング会社のトップ) – マイケル・セラ
ブレット(ポールの大学の学部長) – ティム・メドウズ
モリー(トレントのアシスタント) – ディラン・ゲルラ
リチャード(ポールの同僚) – ディラン・ベイカー
メアリー(トレントのビジネスパートナー) – ケイト・バーラント
ソフィー・マシューズ(ポールの娘) – リリー・バード
ハンナ・マシューズ(ポールの娘) – ジェシカ・クレメント
アンディ(ポールの生徒) – デヴィッド・クライン
キャンディス(セラピスト) – カーラ・ヴォルチョフ
ディラン – ノア・センティネオ
ブライアン・バーグ – ニコラス・ブラウン
ヘイリー – アンバー・ミッドサンダー
不動産業者 – リリー・ガオ

ドリーム・シナリオ 作品情報

監督 – クリストファー・ボルグリ
著者 – クリストファー・ボルグリ
制作 – ラース・クヌーセンアリ・アスタータイラー・カンペローネジェイコブ・ヤフケニコラス・ケイジ
撮影 – ベンジャミン・ローブ
編集 – クリストファー・ボルグリ
音楽 – オーウェン・パレット
制作 – A24、Square Peg、Saturn Films
公開日 – 2023年9月9日(TIFF)、2023年11月10日(米国)
上映時間 – 102分

 

『ドリーム・シナリオ』は、風刺やホラーの要素を含みつつコメディカルな雰囲気もある不条理映画です。この記事で少しでも興味を持たれた方は、ぜひ本編をチェックしてみてください。

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