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鹿男あをによし

4.0
多部未華子(鹿男あをによし) ドラマ
多部未華子(鹿男あをによし)
2008年1月17日から3月20日までフジテレビ系で毎週木曜22時 – 22時54分に放送された。主演は玉木宏。初回は15分拡大。

鹿男あをによしのあらすじ

二学期限定で奈良の女子高に赴任した小川孝信は、奈良公園の鹿から「サンカク」と呼ばれる”目”を受け取るよう命じられる。この”目”は地震を抑える力を持ち、鹿、狐、鼠が60年ごとに儀式を行い、地震を防いできた。しかし、鼠のいたずらで「サンカク」の捜索が混乱し、小川は鹿、狐、鼠の使い番たちと協力し、日本の滅亡を阻止するために奔走する。

鹿男あをによしの感想

本作は単なるファンタジーではない。奈良の風景と鹿の視線が、観る者を現実と異界の境界に立たせ、やがてその境界がいかに脆いかを気付かせる。その“異界の息づかい”こそが、本作の魅力である。

奈良の街と異界の気配

 古都・奈良。鹿が悠然と歩くこの街は、訪れる者に不思議な懐かしさと少しの不安を抱かせる。寺院や森が放つ静謐な空気には、長い時間の層が沈殿し、現代人の日常と微かに交錯する瞬間がある。『鹿男あをによし』は、その奈良の“異界性”を最大限に引き出し、ファンタジーでありながらリアルな質感を纏う、稀有なドラマである。

日常の裂け目から異世界へ

 万城目学の原作は、奇抜な設定とユーモアでファンタジーに現代的なリアリズムを持ち込んだ。ドラマ版はこの質感を丁寧に映像化している。カメラは奈良の街並みを丹念に捉え、鹿の群れが行き交う風景が日常でありながら、どこか異世界の入り口のように見える。
 監督は望遠レンズを多用し、寺院や森を圧縮した構図で背景に迫らせる。これにより、画面は現実の風景でありながら、密度の高い“異界の空気”を孕む。ブレッソンが『田園詩』で示した「場所そのものが語り始める力」がここにも息づいている。

“鹿”という神使のキャラクター性

 物語の鍵を握るのは、奈良公園に住む鹿だ。声を担当するのは山寺宏一。その語りはユーモラスでありながら、どこか威厳を感じさせ、観客に「この鹿は神の使いなのか、ただの老獪な動物なのか」と二重の問いを投げかける。
 注目すべきは音響設計だ。鹿が登場する場面では、街の環境音が唐突に薄まり、鹿の声だけが際立つ。黒沢清が『回路』で用いた「音の減衰」に似たこの手法は、視聴者に現実から異界へ足を踏み入れた感覚を無意識に与える。

小川孝信という“凡庸な運び番”

 玉木宏演じる小川孝信は、研究者としての道を絶たれ、教師としても頼りない存在だ。そんな彼が鹿から「運び番」に選ばれ、60年に一度の重要な使命を背負わされる。あまりに荒唐無稽な設定だが、玉木の演技はこれに説得力を持たせる。
 序盤、カメラは彼を俯瞰で捉え、周囲に埋没する小さな存在として描く。だが、使命を受け入れ始める中盤以降、カメラは彼をローアングルから捉え始め、観客に彼の成長を体感させる。この視点移動は、ヴィム・ヴェンダース『パリ、テキサス』で、主人公が記憶を取り戻していく過程に似た変容だ。

藤原道子と青春群像

 綾瀬はるかが演じる藤原道子は、原作の男性教師を女性に置き換えたキャラクターだが、この変更が作品に柔らかな光をもたらす。彼女の天然な面は、物語のユーモアを支えつつ、要所では頼もしさを発揮し、小川の成長を後押しする。
 剣道部の生徒たちや佐々木蔵之介、児玉清ら脇役も、単なる彩りではなく、それぞれの物語を生きている。特に剣道大会を目指す青春ドラマ部分は、ファンタジー要素と地続きで、観る者の胸を打つ。

神話の時間と現代の時間

 このドラマの核心は、「60年に一度の儀式」という神話的リズムだ。日常シーンはリズミカルな編集で現代の時間感覚を維持し、鹿や儀式の場面になると長回しや緩やかな編集に切り替わる。これにより視聴者は、時間の層を行き来するような浮遊感を味わう。
 カラーグレーディングも巧妙だ。異界の気配が濃くなる場面では、全体がわずかに青みがかった冷たい色調になる。これはソフィア・コッポラ『ロスト・イン・トランスレーション』が持つ都市の浮遊感に近い。

音楽と物語の呼吸

 音楽は軽快でユーモラスだが、時折挿入される神秘的な旋律が、異界の気配を聴覚的に強調する。鹿の語りにかぶさるストリングスは、視聴者の心に微かな不安を植え付け、物語全体の緩急を支える。

異界を日常に織り込む技法

『鹿男あをによし』は、異界の存在を声高に主張することなく、日常の裂け目から忍び寄らせる。その映像はリアルでありながら不穏、音楽は軽快でありながら神秘的だ。凡庸な男・小川が“運び番”としての使命を果たす過程は、観る者自身が「日常の中の異界」を意識する契機となる。
60年後、再び“運び番”が選ばれるその日まで、鹿たちは静かに奈良を歩き続ける。我々もまた、歴史と神話に無自覚に絡め取られながら日常を生きているのかもしれない。

鹿男あをによしを観るには?

鹿男あをによしのキャスト

■奈良女学館
○教職員
小川孝信(理科教師・剣道部顧問) – 玉木宏
藤原道子(歴史教師・剣道部顧問) – 綾瀬はるか
溝口昭夫(学年主任) – 篠井英介
前村さおり(体育教師) – キムラ緑子
名取良一(古文教師) – 酒井敏也
福原重久(美術教師 / 房江の孫) – 佐々木蔵之介
小治田史明(あだ名:リチャード、教頭) – 児玉清
大津守(校長) – 田山涼成
○生徒
堀田イト(1-A生徒 / 大和杯で剣道部大将) – 多部未華子
吉野綾(1-A生徒 / 剣道部) – 東亜優
西尾京子(1-A生徒 / 剣道部) – 江頭由衣
佐倉雅代(2年 / 剣道部主将) – 藤井美菜
村瀬(3年 / 元剣道部主将) – 高瀬友規奈
1-A生徒 – 安達牧鈴木梨乃徳田公華西川風花菱山はるか辺見玲菜堀澤かずみ水田萌木
■その他の女学館の教職員
長岡美栄(あだ名:マドンナ) – 柴本幸
南場勇三(大阪女学館・剣道部顧問) – 宅間孝行
小料理屋 「福はら」
福原房江(下宿・小料理屋女将) – 鷲尾真知子
原和歌子(小料理屋店員) – 川辺菜月
■その他
ニュース番組キャスター – 宮田早苗
鹿(声) – 山寺宏一
オープニングナレーション – 中井貴一

スタッフ

脚本 – 相沢友子
音楽 – 佐橋俊彦
企画 – 中島寛朗
アソシエイトプロデュース – 石原隆
プロデュース – 土屋健
演出 – 鈴木雅之村上正典土方政人河野圭太村谷嘉則
技術プロデューサー – 友部節子
TD – 浅野仙夫
撮影 – 伊藤清一、松下宗生
スタジオカメラ – 河江祐輔、平田修久、佐藤幸子、平山優、伊藤恵
照明 – 田頭祐介、金子拓矢、堀越路博、荒川光代、冨島和寛、山田貴恵
映像 – 藤本伊知郎
VTR – 浅香康介
音声 – 島田隆雄、池谷鉄兵、香川祥資
選曲 – 藤村義孝〔スポット〕
効果 – 阿比留奈穂子
編集 – 田口拓也、柳沢竜也
ライン編集 – 浅沼美奈子、古谷如弘
HDエフェクト – 高岡直樹
MA – 市村聡雄
美術プロデューサー – 杉川廣明
デザイン – 荒川淳彦
美術進行 – 吉田敬
大道具 – 佐々木努
大道具操作 – 吉田精正
装飾 – 吉川康美、門倉淳、城丸泉
持道具 – 上原悦子
衣裳 – 水野美樹子、有山さつき
ヘアメイク – 小林藍子、竹内久美子
アクリル装飾 – 早坂健太郎
建具 – 三田村賢
電飾 – 中園誠四郎
視覚効果 – 菅谷守
生花装飾 – 牧島美恵
植木装飾 – 後藤健
鹿製作総指揮 – 葉山義幸
鹿特殊造形 – 相蘇敬介・庄内寛志・福田雅朗・堤瑠衣子・戸上大資・岡田延子・森島麻衣〔(株)LINK FACTORY〕
鹿メカニカル製作 – 奥山哲志・奥山たま・小此木謙一郎〔A-L-C〕
牡鹿マスク・牡鹿製作 – 山中千治・濱口満希・糸瀬嘉人・竹中和弘・大村公二・伊礼博一〔ART SHOP KILIN〕
鉄彫刻 – 日比淳史
広報 – 為永佐知男
広告宣伝 – 島谷真理
HP – 鈴木知子
スチール – 川澄雅一
スケジュール – 三木茂
監督補 – 村谷嘉則
演出補 – 後藤庸介、吉田至次、倉木義典、角啓太、松本翔
制作担当 – 中保眞典、真野清文、立石倫子、内藤諭、浜名麻衣子
制作応援 – 小西剛司、石川幸典
記録 – 戸国歩、斉藤文、湯元佐和子、石塚早苗、寺田まり
プロデューサー補 – 渡辺直美、佐藤利佳
VFXスーパーヴァイザー – 西村了
CGデザイナー – 田中貴志・諸星勲(マリンポスト)、菊間潤子 (AXON)
鹿PartCGディレクター – 遠藤正人
鹿PartCGデザイナー – 南野仁志、松本繁樹・矢野森明彦 (PremiumAgency)
鼠PartCGデザイナー – 高金幸司
画コンテ – 橋爪謙始
タイトルロゴ – (6)Design
剣道指導 – 村松由理、夏井克聡
スタント – ケン・スタントクリエーション(スタントコーディネイト:釼持誠)
車輌 – ドルフィンズ、関西ロケーションサービス、コマツサポートサービス
撮影協力 – 春日大社、東大寺、興福寺、近畿日本鉄道株式会社、文化庁、大安寺、西大寺、新薬師寺、海龍王寺、安倍文殊院、飛鳥寺
JR西日本ロケーションサービス、奈良ビブレ、千葉県フィルムコミッション、千葉市役所、千葉県立安房南高等学校、千葉市立稲毛高等学校
国立大学法人 東京海洋大学、東京国際交流館、奈良町あしびの郷、栃木県立藤岡高等学校、栃木県フィルムコミッション、栃木県教育委員会
野地商店、カップ・トロフィーの三美商会、明日香村、天理市、明日香村観光開発会社、財団法人 飛鳥保存財団、国営飛鳥歴史公園
奈良文化財研究所、TEN.TEN.CAFE、まんぎょく、京都市動物園、株式会社近鉄リテールサービス、PINOCCHIO、親愛幼稚園、啓林堂書店
江戸川 ならまち店、奈良県立橿原考古学研究所、奈良県立橿原考古学研究所附属博物館、大和桜井フィルム・コミッション、天理市教育委員会
TIFFANY&Co.、ADK松竹スクエア(現・銀座松竹スクエア)、小山町フィルムコミッション
特別協力 – 奈良県、奈良市、奈良フィルムコミッション、財団法人・奈良の鹿愛護会、奈良県立図書情報館、奈良ロイヤルホテル
音楽制作協力 – フェイス・ミュージック
協力 – バスク、ベイシス、フジアール
制作 – フジテレビ、共同テレビ

鹿男あをによしの原作(万城目学)

「さあ、神無月だ――出番だよ、先生」。二学期限定で奈良の女子高に赴任した「おれ」。
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