運の悪い日の感想
のんびりしたタイトルなのに、想定外にヘビーなドラマで驚いた。
小心者のタクシー運転手イ・ソンミンが、長距離料金倍額につられて、サイコパス(ユ・ヨンソク)を乗せてソウルからモッポまでの350kmあまりをドライブすることになる。普通に運転すれば4時間ほどで行けるらしいのだが、1話目でもうヤバイ感じになるので、どうやって10話持たせるのかと思ったら、7話目まで来て(ここまで来るのにかなり波乱万丈である)、エーッという大転換があった(実はここからパート2なのだ)。
しかも容赦ないオチが入り、日本でこういう展開を入れたドラマは「沙粧妙子-最後の事件-」くらいしか思い当たらない。
実は「運が悪い」のではなく、最初から仕組まれていたことがだんだんわかってくるあたり、脚本はかなり凝っている。
サイコパスに娘を殺されたおばさん(イ・ジョンウン)が、当てにならない警察を差し置き、タクシーを追って南下してくるのだが、優秀すぎてかっこいい。どこかで見たと思ったら(私の韓流鑑賞はかなり偏っている)、「誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる」の女性警官役だった。
パート2はリベンジ編になるが、登場人物がいい感じに入れ替わって飽きさせないつくり。さすがに展開は想像つくものの、最後まで面白かった。
運の悪い日 見どころ
本作は二部構成を巧みに使い、物語の緊張感とテーマの深化を際立たせている。パート1の小さな密室劇から、パート2の大きな群像戦へと見事な展開があり、各パートの構造が互いを補完し合い、単なるサイコスリラーにとどまらず「善悪の相対性」や「普通の人が暴力とどう対峙するか」など、より深いテーマを立ち上げている。前半の閉塞感と後半の解放感、その緩急の対比こそが本作最大の見どころと言える。
パート1(第1〜6話):タクシー密室劇の極限
- 閉ざされた空間での緊迫感
善良なタクシー運転手・オ・テク(イ・ソンミン)が「金運が上がる」と信じる豚の夢を見た翌日に、木浦(ムクポ)行きの高額運賃の客・ヒョクス(ユ・ヨンソク)を乗せるが、その客は連続殺人犯だった……という導入から、物語は終始タクシー車内の密室空間で進行する。閉鎖された環境だからこそ生まれる恐怖と心理戦が極限まで高まる。 - 登場人物の立ち位置と危険度の明示
ヒョクスのサイコパス性が徐々に露出し、運転手・オ・テクは次第に追い詰められていく。緊迫する会話や視線の駆け引きが生み出す緊張感が秀逸で、「どこまで耐えられるか」という観客の焦りを巧みに煽る。
パート2(第7〜10話):舞台が広がり物語が反転
- パート2への大胆な展開転換
第7話以降、舞台はタクシー外に拡がり、追跡する母親ファン・スンギュ(イ・ジョンウン)が登場する。彼女もまたヒョクスへの復讐を果たすべく奔走し、オ・テクはその攻防に巻き込まれていく。物語がタクシー内部から外の世界へと移ることで、緊迫感の質も大きく変化する。 - テーマの深化:善人の変化と“悪”との境界
パート2では“善人は悪に染まるのか”というコアテーマが本格的に浮かび上がる。ヒョクスはタクシー内で繰り返しオ・テクを試し、「悪へと向かわせる」挑発を続けた。一方でスンギュは「現実的な復讐は難しい」と悟りながらも行動する姿が描かれ、善悪の境界が曖昧になる群像劇へと展開していく。
二部構成によって際立つ見どころ
一部と二部とで、ドラマの展開がどのようなダイナミズムで変化しているのかを見てみよう。
パート1 | パート2 | |
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空間設計 | タクシー車内の密室スリル | 路上~追跡劇への舞台転換 |
ドラマの焦点 | サイコパスとの心理戦 | 復讐者・被害者母の視点加味 |
テーマ進行 | 生存への恐怖と心理耐性 | 善悪の変容・群像の葛藤 |
物語のリズム | 静かな緊迫 → 突発的衝撃 | 移動と対峙を伴う動的展開 |
まずドラマの舞台(空間設計)は、タクシー車内からソウル全域に広がる。
焦点も、ヒョクスとの心理戦から、追う者と追われる者が随時入れ替わりながら、複雑さを増している。
二部構成の効果と魅力
二部構成による本作の面白さをまとめると次のようになる。
- 密室による心理的緊張
静かなタクシー車内で予期せぬ緊急事態が訪れる恐怖の描写はパート1ならではの迫力。 - 展開のダイナミズム
物理的移動に伴い展開も舞台も変化し、ストーリーの幅が一気に広がる。 - テーマの深化と応答
“善人の限界”というテーマが新たに登場するスンギュによってより立体的に語られる。 - 観客の視点のシフト
第1部ではオ・テクに感情移入させつつ、第2部ではスンギュと二元的に物語を追わせる構成が巧妙。
運の悪い日 あらすじ
人間味あふれる平凡なタクシー運転手、オ・テク(イ・ソンミン)のやけに”運が良かった日”。その日の最後に、ムクポへ行く長距離客、クム・ヒョクス(ユ・ヨンソク)を乗せたが…。その男は、親しげな顔で近づき完全犯罪を行うサイコパスで、連続殺人犯だった。クム・ヒョクスに息子を殺されたファン・スンギュ(イ・ジョンウン)は、唯一の追跡者として二人を追い続ける。
運の悪い日を観るには?
運の悪い日 キャスト
ユ・ヨンソク – イ・ビョンミン(連続殺人犯、クム・ヒョクスと名乗る)
イ・ジョンウン – ファン・スンギュ(息子を殺した犯人を追う母親)
チョン・マンシク – キム・ジュンミン(刑事)
ナム・ユンホ – パク刑事(パク・ソンイル)(刑事)
イ・ファジョン – イ刑事(イ・ジウン)(刑事)
シン・ヒョンジョン – ソムン(チーム長)
ホン・サビン – オ・スンヒョン(テクの息子)
チョン・チャンビ – オ・スンミ(テクの娘)
ウ・ミファ – チャン・ミリム(テクの元妻)
イ・ガンジ – ナム・ユノ(スンギュの息子)
パク・ファンソク – チョン・エデン(ナム・ユノの後輩)
ウォン・ミウォン – ビョンミンの祖母
チョン・ユンソ – ビョンミンの母で判事
ハン・ドンヒ – ユン・セナ(ビョンミンの初恋相手、現在はソン・ミンソン)
チュ・ヨヌ – コン・チャンソク(ユン・セナの彼氏)
オ・ヘウォン – ノ・ヒョンジ(ビョンミンの妻)
テ・ハンホ – ヤン・スンテク(タクシー運転手)
チェ・ドクムン – コ・ジュファン(テクの友人)
キ・ウンス – コ・チェリ(コ・ジュファンの娘、オ・スンヒョンの彼女)
チョン・ヒョンム – チョン・ヒョンム(タクシーの客)
ユン・サンファ – テクの助力者
キム・ジェボム – チョン社長(密航ブローカー)
ヤン・ヒウォン – オ・スンヒョンの少年時代
イ・スンジュ – オ・スンミの少女時代