ミッキー17の感想
中盤までのネタバレ
主人公ミッキーはギャングの高利貸しのからの取り立てから逃れるため、使い捨て作業員のエクスペンダブルとして植民惑星行きの船に乗り込む。率先して危険な作業を担当し、死んだら「リプリント」で蘇り、記憶も引き継ぐという一種のバックアップシステムであり、この職名の作業員は他にいない。船を支配するのは宗教を背景とした専制的政治家マーシャル夫妻であり、特権階級と搾取される労働者的な構図がベースになっており、17回も死んで再生しているミッキーはさながら最底辺の存在として印象づけられる。
到着した惑星ニヴルヘイムは氷の惑星で、探検中に氷の割れ目に落下した17番目のミッキーは、先住生物(マーシャルはクリーパーと命名する)に襲われ死を覚悟するが、なぜか彼らは無傷のままミッキーを送り返す。這々の体で船に戻ったミッキーは、早合点した科学班が早々にリプリントしたミッキー18と遭遇する。
…という話で、ここまでで半分くらいか。
この映画を観た理由
ここで急に私事になるのだが、7月に32歳で病死することになる次男が、6月頃、「この映画知ってる?」と送ってきたのに対して、そっけなく知らないと返したことがあったのだが(手が離せない作業中だった)、よく考えたらポン・ジュノの新作SFというレビュー記事を読んで、私はこの映画を観たいと思っていた。
持病があった次男は十数年前に手術をしたのだが、進行性ではないものの、生存に必要な機能を失っていて、当人は長生きできないという覚悟をかためていたと思う。
そんな彼の言葉を思い返し、供養のようなつもりで本作を観たのだが(しかし彼はおそらく本作を観ないまま身罷ったと思う)、もし観ていたらどんな感想をもっただろうかと考えた。というのも、本作は奇しくも死についての映画だったからだ。
ミッキーが17回も死ぬ前半は、上にも書いたように、搾取され顧みられない虫けらのような存在として描かれる。契約書を読みもせずに自らエクスペンダブルを志願したとはいえ、ミッキーはこの運命を驚くほどあっさりと受け入れ、諦観の中で死に、復活を繰り返す。
ストーリーの路線が変わるのはミッキー18と遭遇する中盤である。
重複存在はタブーであり即座に抹消されねばならないルールなので二人は慌てるが、恋人ナーシャ(ナオミ・アッキー)は意に介さず、二人を平等に愛そうとする。ここらへんはスラップスティック調で、ミッキー(と仲間)を追ってきたギャングが脅してきたり、マーシャル夫妻の悪趣味なディナーで死にかけたり、ミッキー18がマーシャルを暗殺しようとしたり、あげく、船に潜り込んだベビークリーパー2体のうち1体を射殺してしまう。
この流れの中で、いつのまにかミッキーは自我を取り戻し、死にたくないと考えるようになるのだった。
(映画のラストカットで「Mickey 17」が「Mickey Barnes」に変わる)
つまりこれは死を取り戻すストーリーだと思う。
クライマックスはハッピーに
ベビークリーパーを殺されたクリーパーたちは船を取り囲んで威嚇。マーシャルはいきり立って、毒ガス(ミッキーを殺しながら開発を進めてきた兵器)でクリーパーたちを一掃しようとする。
一触即発の空気の中で、ミッキー17と18は爆弾を着せられた状態でママクリーパーに釈明すると、ママは、もう一体のベビークリーパーの返還と二人のミッキーのいずれかの死を要求する。
ベビーがハリウッド的ななりゆきで返還され、ミッキー18はマーシャルを組み伏せて自ら爆死し、植民船が民主化されるというとってつけたようなハッピーエンドは、映画としての後味が重くなりすぎないように考慮されたものだろう。
リプリントされる存在について
過酷な作業をさせるために使い捨て労働力を開発する、という設定についても書いておきたい。
これは「エイリアン」のアンドロイドと同じで(「エイリアン:ロムルス」では、ヒロインの弟であるアンドロイドが奴隷のような環境で鉱物採取に従事していた)、ウェイランド・ユタニ社は、エイリアンを兵器というより、人間にとって劣悪すぎる環境に耐える強靱な生命として捉えているフシがある。
そうした存在が反乱を起こすという本作のストーリーは、「ブレードランナー」におけるハリソン・フォードとルトガー・ハウアーの死闘に通底するものである。
ところで、本作におけるリプリントは、あくまでバックアップシステムであり、厳密には蘇生しているわけではない(死んだときの記憶が引き継がれるわけではない)。
その意味ではクローンに類似しており、代(バージョン)の異なるクローンが遭遇したり、周囲の人々が異なるバージョンに混乱したりする話は萩尾望都作品などにもあった。
興味深いのはリプリントされたミッキーの性格がまちまちだということだ。
映画を観る者は17と18のキャラが違うことにすぐに気がつくが、ミッキー1から付き合っている恋人ナーシャによれば、それまでのミッキーの性格もまちまちだったという。
ミッキー17と18は、マルチプル状態を維持して、偶数と奇数を担当して仕事と復活をラクにしようと考えるのだが、リプリントはあくまでも独立した生だということなのだろう。
ミッキー17のあらすじ
不幸続きの男・ミッキーはこの境遇から脱するために、死しても生き返る仕事を得る[6]。ある日、彼のコピーが本人の前に現れる。ただ一人しか生き残れないことを知ったミッキーは自分を搾取する権力者たちに反撃する
ミッキー17を観るには?
ミッキー17 キャスト
ナーシャ・バリッジ – ナオミ・アッキー
ケネス・マーシャル – マーク・ラファロ
イルファ・マーシャル – トニ・コレット
ティモ – スティーヴン・ユァン
ドロシー – パッシー・フェラン
アーカディ – キャメロン・ブリットン
プレストン – ダニエル・ヘンシャル
ジーク – スティーブ・パーク
カイ・キャッツ – アナマリア・ヴァルトロメイ
レッド・ヘアー – ホリデイ・グレインジャー
チャーリー – アンガス・イムリー
ハトの着ぐるみ男 – ティム・キー
バズーカ・ソルジャー – トーマス・ターグーズ
ダリウス・ブランク – イアン・ハンモア
マシュー – マイケル・モンロー
ジェニファー・チルトン – エレン・ロバートソン
ミッキー17 作品情報
原作 – エドワード・アシュトン『ミッキー7』
製作 – デデ・ガードナー、ジェレミー・クライナー、ポン・ジュノ、チェ・ドゥホ
製作総指揮 – ブラッド・ピット、ジェシー・アーマン、ピーター・ドッド、マリアンヌ・ジェンキンス
音楽 – チョン・ジェイル
撮影 – ダリウス・コンジ
編集 – ヤン・ジンモ(朝鮮語版)
製作会社 – プランBエンターテインメント
配給 – ワーナー・ブラザース映画
公開 – 韓国 2025年2月28日、アメリカ 2025年3月7日、日本 2025年3月28日
上映時間 – 137分