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爆弾

4.0
伊藤沙莉(爆弾) 映画
伊藤沙莉(爆弾)
爆弾は、2025年10月31日に公開された。監督は永井聡、主演は山田裕貴。

爆弾についての考察

スズキタゴサクの人物像と動機

本作の舞台の大半が、取調室での佐藤二朗劇場で、そこで演じられているのが「スズキタゴサク」である(最終的に素性不明)。
タゴサクは自身を「くだらない人間」と卑下しながら、強烈な自己承認欲をもつ複雑きわまりない人格であり、じつはレクター博士並みの怪物的天才でもある。
自分と同類であると悟った類家(山田裕貴)は「このドM野郎」とタゴサクを評しており、自虐ぶりをなめてかかった渡部篤郎は倫理観を破壊されて完敗する(余談だが、連続ドラマWでお馴染みの渡部の敗北は、かのドラマ枠を超えようとする意図的なキャスティングと読める)。

タゴサクの心理には「自分を破壊してきたやつらを破壊したい」という欲望が見え隠れするが、実際にやっていることは、他者の怒りや計画を乗っ取り、増幅させることである。タゴサクは石川辰馬(岡千之助)のテロ計画を換骨奪胎して自分のものとし、自身を真犯人として演出するために、秋葉原やドームシティ、代々木での爆発を継ぎ足した(辰馬のテロ計画とは山手線各駅のペットボトル爆弾のみである。
タゴサクに対峙する捜査一課の類家(この人物には下の名前がない)は、爆弾設置場所をクイズ出題しなかったとして「情報共有されていなかった」と推理するが、タゴサクは計画を知らなかったのではなく、「後から乗っ取った」のである)。
タゴサクは、言ってみればソーシャルネットワークにおける「炎上」装置を体現する存在であり、一貫して「霊感」「催眠術」と他責の姿勢を崩さないのも、匿名の悪意の肥大を思わせる。

タゴサクが第3幕と予言した爆弾は、石川明日香が野方署(実在する)に持ち込む爆弾だったが、これはフェイク(不発)だったことから、爆弾の恐怖は恒久的に続くことになる。タゴサクの目的はこの「終わらない不安を世界にもたらすこと」だったと考えられる。

タゴサクの供述の意味

ここでタゴサクの語録(暗号)をチェックしてみよう。

タゴサクの供述 推理ないし結果
「今日の午後10時に秋葉原辺りで、何か事件が起きる」 秋葉原で爆弾事件
「あと3回、1時間ごとに爆発が起こる」「ドームの試合」「プロ野球ニュース」 午後11時、東京ドームシティ付近で2回目の爆破
「坂道を登った先から見下ろす阪神タイガースの試合」
「日本のプロ野球チームはツバメや鯉など弱そうな動物の名ばかりで、ミノタウロスみたいに強そうな動物の名を冠した方がいい。日本にも半牛半人の妖怪がいたが、その肉はどんな味で、特にタンはどんな味がするだろう。」
「神の言葉は母と子のみか、天は気まぐれ」
タイガース=寅→寅の刻の正刻=午前4時
半牛半人の件(くだん)+舌(した)=九段下
濁点をなくすと「新聞紙(しんぶんし)」の回文
以上から「午前4時、九段下の新聞配達所」で3回目の爆破
「近所の幼稚園の子どもの歌声で寝られず、静かにしてくれと言いたくなる」
「最近性欲がなくなりつつあるが、それでも「理性」と「野性」の2つが交互に来る夜があり、それは決まって木曜日」
「二兎を追う者は一兎をも得ず」
「命は平等って本当でしょうか?」
幼稚園・保育園
「よ(夜)」×2=よよ、+木曜日→「代々木」
子どもとホームレスの選択
以上から代々木の幼稚園と代々木公園の南門付近が爆破。
爆弾を仕掛けたのは「全部です」「丸ごとの駅」 4回目の爆破は長谷部が飛び込み自殺した午後4時の阿佐ヶ谷駅→阿佐ヶ谷に加え、山手線各駅
「人といふ人のこころに一人づつ囚人がゐてうめくかなしさ」 石川啄木→最後の爆弾は石川明日香に送られた

爆弾における二人の射精

そもそも、この事件の発端にあるのは、野方署のベテラン刑事・長谷部有孔(加藤雅也)の「事件現場での自慰」という奇癖である。

これが不祥事としてマスコミにリークされたために、長谷部は阿佐ヶ谷駅で飛び込み自殺、一家は過剰報道での果てに離散、世を恨んでテロ計画を立案した長男・辰馬を元妻の石川明日香(夏川結衣)が刺殺、助けを求めたタゴサクがすべての計画を乗っ取ることになった。

長谷部の相棒であった等々力(染谷将太)によれば、奇癖の理由は本人にも「分からない」とされるが、等々力は「わからなくもない」と発言して降格されてしまう。

そして、映画ではもうひとり射精する人物がいる。スズキタゴサクである。

捜査中に爆弾で左足を失う重傷を負った矢吹の仇討ちのため、同じ交番に勤務する同僚・倖田(伊藤沙莉)が取調室に乱入、腰の銃を抜こうとした場面で、倖田の激しい憎悪を受け止めたタゴサクは幸福のあまり射精する。
他者からの強い欲望が満たされることは、自らの存在理由を見出すこと、つまり自己承認欲そのものと言える。その強烈さにこそタゴサクの怪物性があるのだが、同僚の出世を積極的に後押したと説明される長谷部の奇癖の理由もまた自己承認欲にあったと受け取るのには、やや飛躍がある。さらに自己承認欲を満たすのが事件現場だったというのも理解しがたいものであり、結局のところ、たしかに、長谷部もまた別の怪物であったことが想像されるのである。

爆弾のあらすじ

酔った勢いで自販機と店員に暴行を働き、警察に連行された中年男は“スズキタゴサク”と名乗り、霊感が働くと称して秋葉原での爆破事件を予告。さらに1時間おきに3回爆発すると供述し、刑事たちの問いかけをのらりくらりとかわし、爆弾に関する謎めいたクイズを出し始める。

爆弾のを観るには?

爆弾の作品情報

キャスト

類家(警視庁捜査一課) – 山田裕貴
倖田沙良(交番勤務巡査) – 伊藤沙莉
等々力功(野方署刑事) – 染谷将太
矢吹泰斗(交番勤務巡査) – 坂東龍汰
伊勢勇気(野方署刑事) – 寛一郎
石川辰馬(長谷部の息子) – 岡千之助
石川美海(長谷部の娘) – 中田青渚
長谷部有孔(自死した刑事) – 加藤雅也
鶴久忠尚(野方署の刑事課長) – 正名僕蔵
石川明日香(長谷部の元妻) – 夏川結衣
清宮輝次(類家の上司) – 渡部篤郎
スズキタゴサク – 佐藤二朗
井筒柾(野方署刑事) – 遠藤史也
山脇(辰馬のシェアハウス仲間) – 吉田カルロス
梶(辰馬のシェアハウス仲間) – 門田宗大
女性技官(爆弾の説明をする科捜研所員) – 竹崎綾華
杉本朝生(警視庁捜査一課長) – 小沼朝生
和久(辰馬のシェアハウス仲間) – 二村仁弥
ミノリ(スズキの回想の少女) – 平田風果
蓮見(職質を受ける金髪の若者) – 星野翼
風間健介(刑事) – 岡雅史
助友康弘(刑事) – 酒井貴浩
汲田愛美(刑事) – 麻絵
我妻(刑事) – 小澤雄志

スタッフなど

監督 – 永井聡
脚本 – 八津弘幸山浦雅大
原作 – 呉勝浩
製作 – 岡田翔太、唯野友歩
音楽 – Yaffle
主題歌 – 宮本浩次「I AM HERO」
撮影 – 近藤哲也
編集 – 二宮卓
制作会社 – AOI Pro.
製作会社 – 映画「爆弾」製作委員会
配給 – ワーナー・ブラザース映画
公開 – 2025年10月31日
上映時間 – 137分

爆弾の原作(呉勝浩)

◎第1位!『このミステリーがすごい! 2023年版』(宝島社)◎第1位!『ミステリが読みたい! 2023年版』(ハヤカワミステリマガジン2023年1月号)国内篇◎第167回直木賞候補作◎
東京中に爆弾。怪物級ミステリー!
自称・スズキタゴサク。取調室に捕らわれた冴えない男が、突如「十時に爆発があります」と予言した。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。爆破は三度、続くと言う。
ただの“霊感”だと嘯くタゴサクに、警視庁特殊犯係の類家は情報を引き出すべく知能戦を挑む。
炎上する東京。拡散する悪意を前に、正義は守れるか。
【業界、震撼!】
著者の集大成とも言うべき衝撃の爆弾サスペンスにしてミステリの爆弾。取扱注意。――大森望(書評家)
この作家は自身の最高傑作をどこまで更新してゆくのだろうか。――千街晶之(書評家)
登場人物の個々の物語であると同時に、正体の見えない集団というもののありようを描いた力作だ。――瀧井朝世(ライター)
この作品を読むことで自分の悪意の総量がわかってしまう。――櫻井美怜(成田本店みなと高台店)
爆風に備えよ。呉勝浩が正義を吹き飛ばす。――本間悠(うなぎBOOKS)
自分はどちらの「誰か」になるのだろう。――山田麻紀子(書泉ブックタワー)

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