男性の好きなスポーツの感想
滅多に見られないハワード・ホークス作品がテレビで見られるとは、これは事件と言える。
ロック・ハドソンは二度にわたって倒立するし、バイクに乗った熊は登場するし、ポーラ・プレンティスはパンツ丸出しだし、スラップスティックとして最後まで飽きさせない。ホークスの映画としては後期で、「赤ちゃん教育」の26年後の映画だから、円熟したもので、好きなことをやっている感がある。
男性の好きなスポーツの見どころ
本作のギャグ構造
そもそも、「男性の好きなスポーツ」=釣りと誰もが思い込む常識的仮定を、主人公ロジャー(ロック・ハドソン)がまったく信じていない。
優秀な営業マンである彼は実は釣りが大嫌いで、人生で一度も釣ったことがないのだが、釣りの本の著者としてベストセラー作家となり、地元の釣大会へゲスト参加を依頼されるという展開がギャグになっている。
ロジャー役は当初ケイリー・グラントが想定されていたといい、したがって本編はスタンリー・ドーネン風のスマートで洗練されたギャグ動作が目立つ演出である。
スラップスティックな身体ギャグとウィットに富んだセリフのテンポが融合し、「いい加減な釣りの達人」としての偽装が次々と破綻する過程は本当におかしい。
枠組みとして採用されているのは典型的なロマンティック・コメディだが、それを「スポーツ大会物」の枠組みを当てはめ、しかもしれっと“釣り嫌い”という真逆のギャグを忍ばせている。
さらに、熊が捕まえた魚を横取りして優勝するなどシュールな展開によって、ロジャーの「ウソの名人」が強制的に真の「優勝者」へと変貌させられる皮肉な構成になっている。
「転ぶこと」の系譜~赤ちゃん教育との関係
Wikipediaには、ホークスが自身との『赤ちゃん教育』とのつながりを意図して制作したと書かれている。
『赤ちゃん教育』は古生物学者デヴィッドが、キャサリン・ヘップバーン演じるスーザンに振り回される展開で、本作は、釣り作家ロジャーが、アビゲイルやイージーといった女性キャラによりプライドを崩されるテンポ感が共通している。
たしかにスクリューボール・コメディとしての急展開テンポ、言葉の応酬、淡々と破天荒に進むストーリー展開のリズム感は、『赤ちゃん教育』のままの演出スタイルだ。
釣り場で湖に転落したり、車上やボート上などで演じられるフィジカルな身体ギャグが多数登場することから、「転ぶ」こと自体がギャグの象徴像として機能しているが、これは『赤ちゃん教育』で、豹によるトラブルやスーザンの破天荒な行動で男性キャラが頻繁に転倒・騒動に巻き込まれるのと同じと言える。「ドレスが破れる」「主人公が文字通りひっくり返る」といった場面が意図的に再構築・再演されているのである。
男性の好きなスポーツ あらすじ
釣りに関するベストセラー本の著者でありながら、実は釣り経験ゼロの敏腕セールスマン、ロージャー(ロック・ハドソン)は、ワカプーギー湖の釣り競技会にゲストとして招待される。婚約者のテックス(シャーレン・ホルト)の嫉妬をよそに、主催者のイージー(マリア・パーシー)とアビー(ポーラ・プレンティス)と共に湖へ向かう。競技会中、アビーの誘いをかわすロージャーだが、テックスの誤解を招く事態が続発。奇跡的に好成績を収めるも、アビーとの距離が縮まる。最終的に、熊の魚を横取りして優勝するが、トロフィーを辞退。テックスは新しい婚約者を見つけ、ロージャーはアビーへの本気の愛に気づく。