無敵のミラジョヴォと“時計屋”ピアース・ブロスナンの死闘(サバイバーの感想)
アフガニスタンのカンダハールで米軍ヘリが墜落し、その乗務員がタリバンの人質になるところから映画は始まる。米兵の父親ビル・タボットが在ロンドン米大使館に勤務しており、タリバンに脅されて爆弾製造を担う化学者たちの出入国を手助けしている、というのがストーリーラインの骨格になっているのだが、テロリストたちの目的というか大義が明かされないことで、なんだかよくわからない映画になっている。脚本の失敗だと思う。
ミラ・ジョヴォヴィッチはD.C.から大使館に派遣されている将来の次官候補の外交官。ある日、医療用ガスの専門家バラン博士のビザ申請に不審を感じ、人物照会をしようとする(9.11にトラウマがあることがモンタージュで示される)。実は爆弾テロのために渡米したいバラン博士は黒幕ベンノ・フユルマン(「アイガー北壁」のドイツ系男優)に泣きつき、スコットランドヤードに圧力をかけてもらう。即座にテロ対策の指揮官が大使館を訪れ、懇意の米大使の前でミラジョヴォに詰め寄り、結局、同僚のビルが勝手にバラン博士の審査を通してしまうのだが、あとでミラジョヴォが調べてみると(←しつこい)、ビルは同様に5人の科学者の出国を手助けしていた。
ミラジョヴォの有能さに気づいた黒幕ベンノ・フユルマンは時計屋(Watchmaker)なるテロリストに暗殺を依頼。これがたぶん初めて悪役を演じるピアース・ブロスナンである。爆弾と狙撃が得意で、ミラジョヴォは本作で3回も爆破に巻き込まれることになるが、すぐに立ち上がって逃げたり逆襲したりしており、とてもただの外交官とは見えない(格闘術の心得があるわけではなく、運が良く、しぶといだけなのだが)。
金も武器もないミラジョヴォが爆破テロの犯人と指定され、ハイドパークやチューブの駅構内などを舞台に、アメリカ政府、警察、テロリストたちから逃げ回る中盤はかなり退屈。孤立無援の彼女を上司のディラン・マクダーモットが手助けするものの、肝心なときに昏倒したりして役に立たないのだが、ミラジョヴォはテロリストたちの最終目的が、大晦日のNYタイムズスクエアでのカウントダウンを狙った爆破であることを突き止め、指名手配をかいくぐってアメリカに飛ぶ。あとはクライマックスなのだが、そこに黒幕ベンノ・フユルマンの姿はない。
実はベンノ・フユルマンはテロによる為替変動でひと儲けするのが目的と時計屋に見抜かれて、動機が不純だとばかりに殺されてしまう(ような気がしたが、半睡状態で見ていたのでよくわからない)のだが、そもそもタリバンとどんな関係にあるのか不明だし、スコットランドヤードに圧力をかけられる社会的な立場などについても説明がない。アメリカに個人的な恨みを持つバラン博士(小児科医の妻がアメリカに入国できなかったために患者が死んだ)はともかく、時計屋が主体的にテロに関わり続ける目的も、最初から最後まで謎のままである。
サバイバーのあらすじ
ロンドンのアメリカ大使館駐在の外交官ケイトはある日、伝説のテロリスト・ナッシュによる爆弾テロのターゲットになってしまう。どうにか生き延び難を逃れたものの、爆弾テロ犯の濡れ衣を着せられてしまい、ナッシュのみならず、アメリカ・イギリス双方の当局からも追われる羽目になる。
そんな中、ナッシュが大晦日のニューヨーク・タイムズスクエアで次のテロを計画していることを知ったケイトは、人々の命を救うべく、また自らの汚名を雪ぐべく、たった一人で立ち向かう。
サバイバーを観るには?
サバイバーの見どころ
主演二人の演技力とアクションシーンが見どころ。ストーリーの展開や構成に関しては疑問があるものの、サスペンスとアクションを融合させたエンターテインメントと言える。
- 見どころ1. ミラ・ジョヴォヴィッチの新たな挑戦
『バイオハザード』シリーズでの超人的なアクションヒロインのイメージが強い主演のミラ・ジョヴォヴィッチが、一般人である外交官ケイト・アボットを演じ、爆破テロの濡れ衣を着せられ、逃亡者として追われる展開。 - 見どころ2. ピアース・ブロスナンの悪役としての存在感
伝説のテロリスト「時計屋」ことナッシュを演じるピアース・ブロスナンの冷酷で計算高いキャラが、かつてのジェームズ・ボンド役とは対照的。作品全体の緊張感を高める演技を見せる。 - 見どころ3. 物語の構成と展開に対する評価
ケイトはテロの濡れ衣を着せられ、真犯人を追いながら自身の無実を証明しようとする。ストーリーは予測可能なもので、サスペンスとしての深みや驚きには欠ける。展開の都合の良さやキャラクターの行動も疑問。 - 見どころ4. アクションシーンのリアリティと演出
ミラ・ジョヴォヴィッチの身体能力の高さが際立つが、外交官なのに過剰なアクションとも言える。
サバイバーのキャスト
ナッシュ(伝説のテロリスト) – ピアース・ブロスナン
サム・パーカー(ケイトの上司) – ディラン・マクダーモット
クレイン(駐英大使) – アンジェラ・バセット
ビル・タボット(ケイトの同僚) – ロバート・フォスター
アンダーソン(警部) – ジェームズ・ダーシー
サリー(コンピューター室の管理者) – フランシス・デ・ラ・トゥーア
エミール・バラン(ルーマニア国籍の医師) – ロジャー・リース
サバイバーのスタッフ
脚本 – フィリップ・シェルビー
製作 – チャールズ・ウィンクラー、アーウィン・ウィンクラー、マット・オトゥール、レス・ウェルドン、ボアズ・デヴィッドソン
製作総指揮 – アヴィ・ラーナー、トレヴァー・ショート、ジェイソン・ブルーム
音楽 – イラン・エシュケリ
撮影 – ダニー・ルールマン
編集 – ケイト・ベアード
製作会社 – ミレニアム・フィルムズ
公開 – アメリカ 2015年5月29日 イギリス 2015年6月5日 日本 2015年10月17日
上映時間 – 97分