しとやかな獣は、1962年12月26日に公開された日本映画。キネマ旬報ベストテン6位。新藤兼人の脚本を、大映と仕事をし始めていた川島雄三が首脳部に企画提案して映画化した。
しとやかな獣の感想
昨年、若尾文子特集としてテレビ放映されたのを今頃見て、若尾より肉感的な浜田ゆう子のほうが魅力的だったのだが、やはり青年座の舞台でも同じ役を務めた山岡久乃と、高松英郎の悪びれたところのない、すっとぼけた芝居が愉快。
原作・脚本は新藤兼人で、舞台は晴海高層団地(普通の会社員の2倍の収入がないと入居できなかったそうだ)。登場人物は全員小悪党だが、戦争体験者の高度成長期を描いたコメディとして大変興味深い。
たしか家族全員でオレオレ詐欺をやる単発ドラマを見た覚えがあるのだが、あれはこの映画へのオマージュだったのかな。
しとやかな獣 見どころ
本作の登場人物は全員「しとやか」な顔をしていながら、内面は獣のように利己的であり、三谷家は善良な市民の仮面を被ったペテン師一家と言える。
- 三谷幸枝(若尾文子)──しとやかな悪女
表の顔は旅館開業の夢を語る“美女”だが、裏の顔は、息子を横領に駆り立て、貢がせてきた冷酷な計算家である。ピノサク(小沢昭一)など男たちを手玉に取り、体と甘言を使い金を巻き上げる。お前のためお前のためって。それはみんなご自分のためじゃなかったんですか?ご自分の?
男性社会に抗う「したたかな女」ではあるが、その野望と冷徹さは時に“猛獣”そのものだ。
- 三谷時造(伊藤雄之助)
元海軍中佐だが、今は稼ぐ力ゼロ。息子の横領を黙認し、娘の愛人からの金銭援助で寄生している。言い訳と居直りの巧さは圧巻。息子に限ってそんな事するはずがゴザイマセン!
善良な父親の仮面を被った“ずうずうしさの化身”と言える。
- 三谷よしの(山岡久乃)
古き良き母親のように見せかけて、実は一家で最も冷徹。終盤、船越英二の自殺を無視する冷たい視線がオソロシイ。
全てを見通し、計算づくで生き延びる“真のしとやかな獣”である。 - 三谷実(川畑愛光)
芸能プロ勤務で横領犯。若尾文子の美貌に溺れ、親に支えられて欲望のままに行動する。稚拙さゆえの悪。だが最も悲哀も帯びる。 - ピノサク・パブリスタ(小沢昭一)
胡散臭いジャズシンガー。四六時中うがいをし、バルコニーで歌う。一家の秘密を嗅ぎ回り、持ち込む噂話は家族の平穏を揺るがす。コミカルでありながら「外界からの邪悪な風」の象徴。 - 前田友子(浜田ゆう子)
作家の愛人であり、家族の生活資金源。物語の大半で入浴や無言の食事に徹し、映画に積極的に関わらない。黙っていても共犯であることが際立つ存在。 - 作家・吉沢駿太郎(山茶花究)
娘のパトロンとして公団を与えた張本人。社会的地位を笠に着ているが、金と肉欲に溺れた俗物。文化人を装った“知的な獣”。
このように、欲望に忠実で滑稽な小市民たちが描かれる。全員が“獣”。ただし笑顔と敬語で覆い隠しているから怖い。
しとやかな獣のあらすじ
元海軍中佐の前田時造は、家族と共に他人の金を巻き上げる生活を送っている。息子・実は芸能プロから金を横領し、娘・友子は小説家の愛人に。時造夫婦は、実の恋人や友子の愛人らを言いくるめ、金を巻き上げる。会計係の三谷幸枝は、男性関係を利用して資金を貯め、実と別れる。時造は、実の詐欺や三谷の不正を隠蔽し、税務署員の神谷の自殺を恐れる。神谷は警察へ行くが、屋上へ上がり、救急車のサイレンが響く。時造一家は、他人の不幸を利用し、自分たちの利益を追求する強欲な家族の物語。
しとやかな獣を観るには?
しとやかな獣のキャスト
三谷幸枝 – 若尾文子
神谷栄作 – 船越英二
前田友子 – 浜田ゆう子
香取一郎 – 高松英郎
前田実 – 川畑愛光
前田時造 – 伊藤雄之助
前田よしの – 山岡久乃
ピノサク・パブリスタ – 小沢昭一
吉沢駿太郎 – 山茶花究
マダムゆき – ミヤコ蝶々
神谷栄作 – 船越英二
前田友子 – 浜田ゆう子
香取一郎 – 高松英郎
前田実 – 川畑愛光
前田時造 – 伊藤雄之助
前田よしの – 山岡久乃
ピノサク・パブリスタ – 小沢昭一
吉沢駿太郎 – 山茶花究
マダムゆき – ミヤコ蝶々