『コード・アンノウン』ってどんな映画?
ミヒャエル・ハネケが、パリの路上で起きたある小さな諍いを起点に、異なる背景を持つ人々の断絶と繋がりの欠如を描いた群像劇。全編が長回しのワンシーン・ワンカットの積み重ねで構成されており、観る者に息の詰まるような緊張感を強いる衝撃作。
ジュリエット・ビノシュが演じる女優アンヌの、日常の脆さと不条理に直面した時の揺らぎが素晴らしい。地下鉄の車内で執拗な嫌がらせを受けるシーンは、彼女の恐怖が画面を超えて伝わり、観客に強烈な不快感と問いを突きつける。
ハネケは、世界が抱える人種問題、格差、コミュニケーションの不全をあえて説明せず、突き放したような客観性で描き出す。「コード(暗号・規律)」が「アンノウン(不明)」であるために、隣人同士が理解し合えない現代社会の深淵をアーカイブした一作である。
カットを割らず、観客が登場人物たちと同じ「気まずい時間」を共有する演出が、ドキュメンタリーのような生々しさを映画に与えている。
戦場カメラマン、ルーマニアからの不法入国者、アフリカ系の青年……。それぞれの物語が「紙屑を投げ捨てた」という一つの行為によって一瞬だけ交差する構成は、グローバル社会の危うさを鋭く告発しているようだ。
「わからないこと」への恐怖と、それでも共生しなければならない人間の業。ハネケ作品の中でも、特に「現代の縮図」を鮮やかに切り取った映画である。
あらすじ
【女優のアンヌとジョルジュ兄弟】 虚構を演じるアンヌ、戦場の現実を撮りながら私生活では冷淡なカメラマンのジョルジュ、そして父と反目し居場所をなくす弟ジャン。彼らは身近な人間の苦悩に気づきながらも、寄り添うことができない。
【移民のアマドゥとマリア】 正義感から騒動に巻き込まれ、理不尽な差別に直面するアマドゥ。不法入国ゆえに強制送還され、再入国しても居場所を失う物乞いのマリア。彼らは社会の境界線で翻弄されます。
【断絶の象徴】 意味の通じない聾唖の子供たちのクイズ、地下鉄での嫌がらせ、誰とも繋がらないメモ。
それぞれの物語は、他者とのコミュニケーションが成立しないまま、聾唖の子供たちによる激しい太鼓の合奏の中で収束を迎える。
キャスト
ジョルジュ – ティエリー・ヌーヴィック
農夫 – ヨーゼフ・ビアビヒラー
ジャン – アレクサンドル・ハミド
マリア – ルミニシャ・ゲオルギウ
アマドゥ – オナ・ル・イェンケ
「コレクター」に囚われたビノシュ。ディスコミュニケーションの罠。
いくつかの話が並行していて、つながりは、ありそうで、ない。どのシーンも結構な長回しである。途中でズームインや切り返しが入って、オッと思ったら、それはジュリエット・ビノシュ演じるアンヌという女優が出演している映画のシーンなのだった。
○冒頭とラストに映る、聾唖の女の子のジェスチャー。最初のはなにか恐れているような感じ、最後のはなんだか長い物語ふうのものだが、意味はわからない。
○ジョルジュの弟ジャンがアンヌを頼ってパリに来たものの、(恋人と)三人で暮らすのは無理よといなされてむしゃくしゃし、路傍の物乞いの女性マリアにごみをなげつける。それをみとがめた黒人アマドゥと諍いになり、アマドゥは警察に連行され、マリアはコソボに強制送還されるという事件。
○女優であるアンヌが出演している映画(題名は「コレクター」だと彼女はジョルジュの父親に教える)の撮影風景。彼女の演じる女性はとある屋敷の窓のない音楽室に閉じ込められる。恋人(夫?)と高層階にあるプールで戯れ、手すりから二人の子供が落ちそうになる場面もある(別な映画なのか?)
○ジャンと父親の二人暮らしの描写。ジャンは一度は戻ってくるが、父親にバイクを買わせたりして、やがて本当にいなくなってしまう。一人になった父親は世話をしていた牛を全部撃ち殺してしまう。
○アンヌの部屋に子供が虐待されている声が聞こえる。またそれを訴える手紙がドアに挟まれていた。アンヌはジョルジュに相談するが、恋人は相手にしてくれない。フランソワーズという子供(虐待されていた子供?)の葬儀に参列するアンヌ。
○戦場キャメラマンであるジョルジュがコソボからアンヌに送ってきた手紙。ヘラートで監禁された話をした後に続く、「口では映像の生態とか伝達されぬ情報とか言える。だが結果だけが重要だ。彼女が厄介と思う点だ。ただし知識がすべてか? 平穏な生活が苦手だ。誰にも共通する平和が」というような文章の意味は何を指しているのかわからない。パリに帰ってきたジョルジュはアンヌに何か隠しごとをしているようで、地下鉄で隠し撮りをしたりしている。
○アマドゥの母親が、私たちは何もしていないと誰かに訴えている。またアマドゥの弟は学校でフランソワという白人の子に上着をとられ、金を要求されるなどしている。アマドゥには聾唖の妹がいる。
○アマドゥが若い白人の女の子とデートをしている。女の子はアマドゥのために腕時計を捨てる。
○アンヌが地下鉄の中でアラブ系の若者にからまれるが、やはりアラブ系の男性に助けられる。
○コソボに帰ったマリアの話。夫や子供と暮らす彼女は、パリでゴミ扱いされたことに深く傷ついているが、もう一度パリに出てくる。しかし送還前の彼女の居場所はすでに他のホームレスに占拠されていた。
○パーカッション演奏パフォーマンスの練習と、市街での本番。
こうした「つながらないエピソード」の連鎖自体が “code: unknown” でもあるが、どのエピソードもディスコミュニケーションというか、入っていけない殻のようなものを感じさせる。
『コード・アンノウン』を観るには?
『コード・アンノウン』作品情報
脚本 – ミヒャエル・ハネケ
製作 – マリン・カルミッツ、アラン・サルド
製作総指揮 – イヴォン・クレン
音楽 – ギバ・ゴンカルヴァ
撮影 – ユルゲン・ユルゲス
編集 – カリン・マルトゥシュ、アンドレアス・プロハスカ
製作会社 – Bavaria Film、Canal+、Filmex
配給 – フランス:MK2、ドイツ:Prokino Filmverleih
公開 – フランス:2000年5月19日(CIFF)、フランス:2000年11月15日、ドイツ:2001年2月1日
上映時間 – 113分

![\コード:アンノウン[DVD]はコチラ/](https://dramatic-impress.net/wp-content/uploads/41k2jcDXH2L._AC_.jpg)


コメント