キャサリン・へプバーン演じる令嬢は、フィラデルフィアの社交界で浮名を流し、後に原作者バリーの友人と結婚したヘレン・ホープ・モントゴメリー・スコットをモデルにしている。へプバーンは本作の大ヒットによりスター女優となり、それまで映画興行主から着せられていた「ボックス・オフィス・ポイズン(金にならないスター)」の汚名を返上した。
1956年の『上流社会』はこの作品のミュージカル版。
フィラデルフィア物語の感想
それはもちろん「上流社会」のグレース・ケリーのほうが美しいに決まっているのだが、元の舞台から演じているキャサリン・ヘップバーンの「男を理解せず、男に理解されない、フィラデルフィアの我儘な上流階級の女」は素晴らしい。
映画は名場面の宝庫で、ジョージ・キューカーの面目躍如である。
傲慢なケイリー・グラント、不良なジェームス・スチュワート、知的なルース・ハッセイ、芸達者な子役ヴァージニア・ウェイドラー(17歳で引退した)など脇役もすべて完璧で、たいへん贅沢な映画である。
フィラデルフィア物語の見どころ
キャサリン・ヘップバーンが演じるトレイシー・ロードは、非常に多面的かつ象徴的な女性像であり、ハワクシアン・ウーマン(Hawksian woman)の代表格である。彼女は即答・率直・ウィットに富んだ会話で男性と対等に渡り合い、ためらわず自己主張する。裕福で知性的、そして強烈に自立しているキャラクターである。
これはヘップバーンの得意とする役どころでもあり、脚本を書いたフィリップ・バリーはヘップバーンの役者像を念頭において書いている。
ヘップバーンは「自分が画面で転ぶシーン」が観客に愛されることをよく知っていて、オープニングでケイリー・グラントに突き飛ばされる演出を自ら選んだという。
フィラデルフィアの超名門一族の出身であるトレイシーは、社会的地位・教養・マナー全てに精通するパーフェクト人間として登場し、一族からも「氷の女王」と呼ばれているが、社会的地位にはふさわしい婚約者ジョージ・キットリッジが感情的に浅く、結婚生活に幻滅している。
元夫デクスター(ケイリー・グラント)や記者マイク(ジェームズ・スチュワート)との対話・葛藤を通じて心がほぐれ、自身の理想と現実のズレを受け容れるプロセスが映画の肝になっており、「ああいう本を読む女は考え始める、そしてそれは危険だ(=人を厄介にする)」とマイクの台詞などを通じて世界観を揺さぶられ、人間としての弱さや不完全さを認めることで感情を揺らし、唇が震えたり涙をこらえたり、次第に心を解放していく。
本作は、「強い女性」から「人間らしい女性」への変化を、ウィットと風刺とエレガンスを併せ持つコメディの文法のなかで描いた映画である。高貴・聡明・率直でありながら、最終的には脆さをさらけ出し、観客に共感される「完成されたヒロイン」へと昇華されるというスクリューボール・コメディの原点と言える。
フィラデルフィア物語のあらすじ
フィラデルフィアの上流階級の令嬢トレイシーは、石炭会社の重役であるジョージとの結婚を控えていたが、大のマスコミ嫌いだった。結婚式をスクープしようと考えた「スパイ」誌の社長キッドは、2年前にトレイシーと喧嘩別れした前夫デクスターを利用してヘイヴン邸内部の取材を計画。キッドに指示されたコナーとエリザベスは、「トレイシーの兄の友人」と偽りヘイヴン邸に乗り込む。二人の正体を察知したトレイシーは二人を追い出そうとするが、デクスターから「父セスの愛人スキャンダルを雑誌に掲載する」と脅され、掲載取り下げと引き換えに結婚式の取材を引き受けることに。ロード一家は渋々「上品な上流階級」を装うが、気が強くプライドの高いトレイシーはエリザベスのカメラを落としてネガを台なしにする。
フィラデルフィア物語を観るには?
フィラデルフィア物語のキャスト
C・K・デクスター・ヘイヴン:ケーリー・グラント
トレイシー・サマンサ・ロード:キャサリン・ヘプバーン
マコーレイ・”マイク”・コナー:ジェームズ・スチュワート
エリザベス・イムブリー:ルース・ハッセイ
ジョージ・キットリッジ:ジョン・ハワード
ウィリアム・Q・トレイシー(ウィリー叔父さん):ローランド・ヤング
セス・ロード:ジョン・ハリディ
マーガレット・ロード:マリー・ナッシュ
ダイアナ・”ダイナ”・ロード:ヴァージニア・ウェイダー
シドニー・キッド:ヘンリー・ダニエル