幻夜の感想
「白夜行」はドラマ版が優れていて、今だに綾瀬はるかの代表作だろうと思うのだが、本作はその続編という位置付けになっている。
原作ではその辺ぼかされているらしいのだが、最終回には笹垣潤三刑事も出てくるし(残念ながら武田鉄矢ではなく、映画版で笹垣を演じた船越英一郎)、またしても「風とともに去りぬ」が参照される(いささか唐突なオマージュなのだが、好きでもない男と3度も結婚するスカーレット・オハラが、雪穂=美冬の原型らしいのだ)。
続編として見れば、綾瀬はるかが阪神淡路大震災の瓦礫の中からR&Y2号店を潰した過去を清算し、深田恭子となって甦り、塚本高史を山田孝之に代わる新たなしもべに、再び悪の限りを尽くしてのしあがる、という趣向になっている。
地下鉄サリンを思わせる事件まで起こす徹底ぶりであり、深田の完璧な美貌が悪女ぶりを際立たせている。
前作の綾瀬は、山田を「太陽に代わるもの」と口にするような血の通う面も描かれていたが、本作では、深田が「幻の太陽」として塚本を支配しつつ、「結局失ったものの代わりにはなれなかった」と残酷に告げる孤独な物語であり、そこには前作のような運命的なものはなく、前作を補強する終わりかたになっている。
幻夜のあらすじ
1995年の阪神・淡路大震災から2000年1月1日まで、現実と虚構が交錯する物語。大震災の翌朝、水原雅也は借金返済を迫る叔父を衝動的に殺害する。その場に居合わせた新海美冬との出会いが、震災という過酷な状況下での奇妙な縁となる。二人は互いに依存し、東京へと向かうが、そこでも不可解な事件と陰謀に巻き込まれる。刑事の加藤亘は、一連の出来事に潜む奇妙な偶然に気づき始める。大震災を起点に、運命に翻弄される人々の物語が展開される。
幻夜を観るには?
幻夜 キャスト
新海美冬 – 深田恭子(東海地方の震災の被災者。震災を機に雅也と行動を共にする)
水原雅也 – 塚本高史(東海地方の震災の被災者。父の通夜の夜に被災し、自宅が倒壊した)
水原家
水原幸夫 – 小倉一郎(水原雅也の父)
米倉俊郎 – 岩松了(水原幸夫の弟。雅也の叔父)
小谷佐貴子 – 佐藤仁美(米倉俊郎の娘)
小谷信二 – 菅原大吉(小谷佐貴子の夫)
警察関係
加藤亘 – 柴田恭兵(警視庁捜査一課刑事)
加藤千沙子 – 奥貫薫(加藤亘の妻)
西崎貴仁 – 黄川田将也(警視庁捜査一課刑事。加藤のパートナー)
西崎貴仁の母 – 中田喜子
捜査一課 – 中村育二(警視庁捜査一課課長。加藤の上司)
捜査一課 – 加藤満(警視庁捜査一課主任。加藤の上司)
鑑識課 – 本城丸裕
村上 – 浅見小四郎(相葉署の刑事)
相葉署の刑事 – 大西武志
元刑事 – 船越英一郎(特別出演)
Sky Jewelry
畑山彰子 – みさきゆう(Sky Jewelry売り上げNO.1)
坂井静子 – 石原あつ美(Sky Jewelry売り上げNO.2)
浜中洋一 – 吹越満(Sky Jewelry 店長)
浜中洋一の妻 – 比企理恵
秋村隆治 – 鈴木一真(Sky Jewelry 社長)
倉田頼江 – 根岸季衣(秋村隆治の姉)
秋村隆治の祖父 – 織本順吉
フクタ工業
福田 – 河原さぶ(フクタ工業社長)
安浦 – でんでん(フクタ工業従業員)
曽我家
曽我孝道 – 尾美としのり(新海美冬と不倫関係)
曽我恭子 – 鈴木砂羽(孝道の妻)
曽我ハルカ – 内村つぐみ(孝道と恭子の娘)
その他
倉沢克子 – 森下千里(パシフィックテレビリポーター。避難所で美冬を取材)
美冬の隣人の女性 – 内田春菊
岡田有子 – 市川由衣(下総屋食堂の娘)
青江真一郎 – 菊田大輔(美冬が設立したヘアサロンset’sで働く)
飯塚千絵 – 佐藤千亜妃(ヘアサロンで働く。青江の恋人)
大田先生 – 品川徹(新海美冬の中学時代の担任)
松島 – 大島蓉子(保険会社社員)
店員 – さくら(かつての美冬の経営していた店の隣の店の店員)
幻夜 スタッフ
監督 – 猪崎宣昭、麻生学、猪原達三
脚本 – 渡邉睦月
音楽 – 溝口肇
主題歌 – 珠妃「光の彼方へ」
プロデューサー – 井上衛
制作協力 – ホリプロ
製作著作 – WOWOW
幻夜の原作
おまえは俺を殺した。俺の魂を殺した――
1995年、阪神淡路大震災。その混乱のまっただ中で、衝動的に殺人を犯してしまった男。それを目撃していた女。二人は手を組み、東京に出ていく。女は、野心を実現するためには手段を選ばない。男は、女を深く愛するがゆえに、彼女の指示のまま、悪事に手を染めていく。やがて成功を極めた女の、思いもかけない真の姿が浮かびあがってくる。彼女はいったい何者なのか――謎が謎を呼び、伏線に伏線が絡む。驚愕のラストシーンまで一気呵成の読みごたえ。ミステリーの醍醐味にあふれた傑作大長編。あの名作『白夜行』の興奮がよみがえるミリオンセラー。
【「週刊プレイボーイ」2001年No.19/20号~2003年No.16号連載、2004年1月26日単行本刊、2004年に第131回直木賞にノミネート】