アンナチュラルの感想
初話を観て感動したのは、まるでドラマというもののお手本のようによくできている脚本(野木亜希子、)が気持ちがいい、ということだった。
石原さとみと市川実日子は「シンゴジラ」に出たばかりだったのだが、このコンビがすごく楽しい。
最終回まで観て、これは今季の大当たりドラマだったので、大いに賞賛したい。
長い間、原作物で力を蓄え続けてきた野木亜紀子が(逃げ恥だって原作物なのだ)、いかにドラマというジャンルを愛しているのかよくわかり、こちらも毎週見るのが楽しみになった。
一方で、湊かなえ物で鍛えた塚原あゆ子の余韻を活かした演出との相性も良かった。
この二人は「重版出来」コンビでもあり、石原さとみ・市川実日子と合わせ、2組のコンビがこのドラマの成功要因だったと言える。
とはいえ、6・7話あたりは中だるみしたし、最終話に3話(2話半)かけたり、ロケもしていないアメリカのシーンが挟まったりしたのも少々しらけはした。再見に値する冒頭4話ほどのクオリティを保ってほしかった。
(追記)
いまだにparaviをやめられないので(毎月もらうチケットで「アカギ〜鷲巣麻雀完結編〜」を1話ずつ見ているから)、「アンナチュラル 」の出来が良かった回を見直した。
アンナチュラルより
写真の3人がラインのフルフルをしている場面は名シーンと言っていい。
そして1話の完成度の高さにはやはり感心する。
アンナチュラルの見どころ
本作は、脚本の教科書のようなドラマである。
毎回、UDIラボに持ち込まれる「死」をテーマにした異なる事件。死因究明が進む過程で被害者の人生、生きている者の苦悩、法医学の社会的役割が浮き彫りになるというのが1話完結のパターンとなっている。それにプラスして、各話の裏で進行する「中堂の婚約者の事件」「ミコトの過去」といった縦軸ストーリーが展開していき、最終話に向けて全てが収束し、“偶然の連なり”が必然に変わる構成がみごと。一見バラバラの事件が「不自然な死」をキーワードに繋がり、“生と死の物語”として完成する。
自殺、過労死、殺人、医療事故、家族の問題……。個々の“死”が社会の構造問題を反映し、観客に問いを投げかける。法医学ミステリーのサスペンス感、人間ドラマとしての泣きの要素、コメディパートの緩急というバランスが絶妙で、「社会派なのに重すぎない」のが野木作品らしい魅力である。
温かさと冷静さを併せ持つヒロインである三澄ミコト(石原さとみ)、トラウマを抱えた偏屈な法医の中堂系(井浦新)、未熟だが成長する若者である久部六郎(窪田正孝)、軽妙さでチームに潤滑油をもたらす東海林夕子(市川実日子)、とUDIラボのメンバーはいずれもキャラ立ちしており、この4人が事件解決の中で衝突し、理解を深める様が「科学者チームもの」としても見応えがある。
会話には軽妙なユーモアとシリアスが同居しており、重苦しいテーマの中にも笑いの余白があり、視聴者の感情を呼吸させる。
キャラの背景や価値観が台詞に滲んでおり、短い会話でも物語の深みが増している。
神回の脚本分析
“静”と“動”を象徴する両極として、第6話と第9話を例に脚本を見ていこう。第6話は完全な1話完結だが、第9話は縦軸と1話事件の融合である。
第6話「友達じゃない」
第6話は、法医が“仲間の命と名誉を救う”ために戦う回。東海林の笑顔の裏の孤独を掘り下げ、UDIラボの絆が深まる傑作である。
Unnatural Death #6 友達じゃない
東海林は合コン後、見知らぬホテルで権田原の遺体と目覚める。記憶を失った東海林はミコトを呼び、UDIの中堂と六郎は権田原と道端で死んだ男性の関連性を発見。警察は連続殺人事件と断定し、東海林を容疑者と疑う。中堂は東海林に逃亡を促し、ミコトらは東海林の無実を証明するため死因究明に奔走する。
- キャラ同士の関係性を最大化
コメディリリーフだった東海林が一気に物語の中心へ。事件を通じ、東海林とミコトの“女同士のあ・うんの呼吸”が深まる。
「友達じゃない」と言いながら、ミコトは全力で彼女を守ろうとする。中堂の「逃げろ」発言も印象的。無愛想な彼が見せる不器用な優しさは、キャラクターの多面性を際立たせる。 - 構造美:密室劇×サスペンス
東海林の記憶喪失→事件現場検証→死因特定まで、緊張感が途切れない。同時に、UDIラボという閉ざされた空間の“密室劇”でメンバーの絆が描かれる。 - テーマ性:法医の力で“無実”を証明
法医学は「死の真実を暴く」だけでなく、「生きている者の未来を守る」役割もあると示す。これはシリーズ全体を貫くメッセージでもある。
第9話「Unnatural Death #9 敵の姿」
第9話は、法医ドラマとしての面白さとミステリーとしての深みが同居する回。中堂の個人史がついにUDIラボの物語と交錯する。
Unnatural Death #9 敵の姿
スーツケースから発見された女性の遺体に、中堂の死んだ恋人・夕希子と同じ「赤い金魚」の印が。UDIは同一犯の可能性を訴えるが、証拠不足で却下。ミコトらは解剖で死因究明を進め、胃の内容物の腐敗臭に違和感を覚える。神倉は過去のUDI関連記事に疑念を抱き、警察庁で驚くべき記事を発見。ミコトと中堂は証拠を見つけ、事件は急展開。中堂の恋人を殺した犯人の正体が明らかになる。
- 構造:1話完結と縦軸の融合
「企業の毒物汚染事件」から始まるが、夕希子事件の手がかりが発見されて、物語の縦軸が急展開へ。1話完結だった事件が縦軸に絡んでくる脚本の真骨頂がクローズアップされる。 - キャラクター心理の重層化
中堂は「赤い金魚の死体」に動揺しながらも冷静を装う。ミコトは中堂の異変に気付き、チーム全体の“人間的結束”が強調される。 - サスペンスの濃度
ミコトが毒の発生源を突き止める過程は、法医学サスペンスとしても見応え十分。夕希子の死に絡む“何者かの意志”が感じられるラストとなり、緊張感がピークに達する。
アンナチュラル あらすじ
「不自然死究明研究所」(UDIラボ)を舞台に、日本の低い解剖率問題に取り組む物語。法医解剖医の三澄ミコトを中心に、ベテラン医師・中堂系、技師の東海林夕子、記録員の久部六郎、所長の神倉保夫らが様々な死の謎を解明していく。一家心中の生存者であるミコトの過去や、中堂の恋人・糀谷夕希子の殺害事件が連続殺人である可能性も浮上。証拠不在で罪を逃れようとする26人の女性を殺した犯人に、UDIラボのメンバーは組織存続を賭けて挑み、勝利する。
アンナチュラルを観るには?
アンナチュラル キャスト
中堂系(UDIラボの法医解剖医) – 井浦新
久部六郎(医大生) – 窪田正孝
東海林夕子(臨床検査技師) – 市川実日子
坂本誠(検査技師) – 飯尾和樹
神倉保夫(所長) – 松重豊
木林南雲(フォレスト葬儀社) – 竜星涼
末次康介(週刊ジャーナル編集者) – 池田鉄洋
三澄夏代(ミコトの養母・弁護士) – 薬師丸ひろ子
三澄秋彦(ミコトの義弟・予備校講師) – 小笠原海
宍戸理一(フリー記者) – 北村有起哉
毛利忠治(西武蔵野署刑事) – 大倉孝二
向島進(毛利の相棒) – 吉田ウーロン太
門松(週刊ジャーナル記者) – 今井隆文
糀谷夕希子(絵本作家) – 橋本真実
アンナチュラル スタッフ
音楽 – 得田真裕
主題歌 – 米津玄師「Lemon」(ソニー・ミュージックレコーズ)
法医学監修 – 上村公一、鵜沼香奈(東京医科歯科大学)
警察監修 – 石坂隆昌
感染医学監修 – 髙山陽子(北里大学)
科学監修 – 岩尾徹(東京都市大学)
科学捜査監修・火災取材協力 – 山崎昭(法科学鑑定研究所)
暗号通貨監修 – 株の学校ドットコム
殺陣指導 – 剣武会
法歯学監修 – 櫻田宏一(東京医科歯科大学)
医療監修 – 原義明(日本医科大学)
消防監修 – 永山政広
法律監修 – 國松崇
取材協力 – 北里大学医学部、海外医療情報センター
プロデュース – 新井順子(ドリマックス)、植田博樹(TBS)
演出 – 塚原あゆ子(ドリマックス)、竹村謙太郎(ドリマックス)、村尾嘉昭(ドリマックス)
製作 – ドリマックス、 TBS