深夜にようこその感想
山田太一三回忌でBS TBSで再放送。
私がろくにテレビを観ていなかった80年代中期のドラマで、山田太一特有の理屈っぽいメンドクサイ若者を、松田洋治というヴェテラン(当時19歳)が演じている。コンビニで働くこの学生は、高校で同窓だった松本伊代(写真館の娘)に告白するも振られ、精神的バランスを取り戻すために長身でソバージュの名取祐子を「征服しなければならない」と不穏なことを口走る。
本作の舞台は品川区西大井のコンビニだが、実際には石川台の駅近くの坂道などでも撮影されている。坂の上には名取裕子の住むマンションがある。29歳の名取はモデルで「ニューヨークにもパリにも行った」らしいのだが、乳がんの手術をしたらしく、左胸がないことから辞めたのか、何をしているのかわからない女である。異常に敷居の高い女として登場し、松田洋治に「私をどう抱くつもりか」と詰問するのだが、最終回ではまぶしい笑顔になっていて、この変わりようが凄味を感じさせる。21歳の松本伊代も輝いていた。
主役は47歳の千葉真一で、すでにアクションスターを究めて「サニーチバ」として世界的に認知されつつも、80年代には人間ドラマに積極的に出演していた。本作でも不良を相手にしたアクションがちゃんとある。
本作での千葉は、ある夜、いきなり新人として配属された中年男なのだが、実はコンビニチェーンの親会社である商事会社の人事部長。当時はバブルの始まりだが(プラザ合意の翌年)、急激な円高による輸出産業は不況に陥りリストラを始めていた。人事部長として非情なリストラを主導させられた千葉もまた、精神的バランスを取り戻すために、対面販売のファンタジーを求めてコンビニで働いてみたくなったことが最終回で空かされる。といってもたいしてことをやるわけではなく、深夜にレジの近辺にパイプ椅子を置いて常連客とお茶会をやるぐらいなのだが、雇われ店長の角野卓造は本部にバレたらクビだと恐々である。結局、千葉の夢はかなわず、内緒でお茶会を開いているのがラストシーン。
セブンイレブンの1号店が江東区に開店したのが1973年。本作の年にはすでにPOSを導入し、公共料金収納代行も始めている。かくいう私も学生時代(1982年頃)にサンチェーン(キャバレーハワイを運営したTVBという会社のコンビニで、ダイエー傘下入りを経てのちにローソンとなった)でバイトしていたことがある。レジのお金がちっとも合わずに苦労したり、勝手にお菓子を食べたりしてもバレなかったりして、管理はいい加減だったが、本部から「次の選挙で公明党に入れるように」との指示が出たので辞めてしまった。深夜営業のコンビニはすでに珍しいものではなくなっていたと思うが、ドラマのモチーフになったのは本作が初めてだという。
深夜にようこそのあらすじ
大学生の矢崎省一(松田洋治)がアルバイトをしている24時間営業のコンビニエンス・ストアに村田耕三(千葉真一)と名乗る男が現れ、今日から働くことになっているアルバイトだという。耕三は本部からの紹介状を持っていたが、省一は働き盛りのいい年の男がやるような仕事ではないとことを思い知らせたいと考え、店員の心得や店のルールなどを矢継早にまくし立てるが、夜更けには万引きグループを耕三がねじ伏せたのを機に態度が軟化していく。同級生のマドンナ・由子(松本伊代)に失恋したことなどを話す省一を耕三は応援する、絶対に諦めるなと励ますのだが……。
深夜にようこそ キャスト
松本伊代 – 有馬由子
松田洋治 – 矢崎省一
冨士真奈美 – 矢崎咲子
山田吾一 – 定岡曽一
角野卓造 – 英原店長
正司花江 – パン屋のおばさん
三好美智子 – 有馬夏子
志賀真理子 – 矢崎俊江
風見章子 – 芳賀リン
下元勉 – 境田基三郎
渕野直幸 – 片岡幸男
草薙良一 – 土工A
徳川龍峰 – 土工B
大島宇三郎 – 土工C
加藤登紀子[注釈 2] – 篤子
名取裕子 – 中山絹代
深夜にようこそ スタッフ
音楽 – 池辺晋一郎
技術 – 中村秀夫
カメラ – 佐藤賢二郎・太田博・大場俊
映像 – 安藤絋平
照明 – 加藤静夫・久保田芳實・正木正登
音声 – 八木沢正、山田紀夫
音響 – 大鐘信慶・斎藤功
美術 – 丸谷時茂
デザイン – 桜井鉄夫
化粧 – 兵庫谷幸子
編集 – 矢島和男、鉄尾直司
衣裳 – 坂下英明
装飾 – 多田亮次・小川満政
大道具 – 加藤智通
持道具 – 赤塚佳仁
タイトル – 小河原義一
擬闘 – 西本良治郎(JAC)
合唱 – 慶応義塾大学ワグネルソサエティー
制作補 – 岩本貞己
演出補 – 桐ヶ谷嘉久・斎藤雄樹
記録 – 原田康子
衣裳協力 – shozo tsujimura、P-4、SUZUYA、鈴乃屋
協力 – 緑山スタジオ・シティ
プロデューサー – 大山勝美・市川哲夫
製作著作 – TBS
