フェイク 京都美術事件絵巻の感想
第1回 幻の伊藤若冲|京都の舞台設定が活きている
脚本・東映の制作統括の人が京都で、いわゆる京都モノである。
気の強い女刑事を演じるのが南野陽子、そして傍若無人で空気を読まない探偵役が財前直見。
個性の強い人間同士が出会うところから始まるのはドラマの常道だが、二人とも京女であるというのが物珍しく、緊迫感に満ちていたのはさすがである。
70を超える藤村志保の京女ぶりもコワイ。
財前を留守中に浦沢家を訪ねた南野が、帰ってきたら連絡をと立ち去ろうとすると、壁に額を垂らしながら、皮肉っぽく、人間様はせわしないことだとヤマガラも笑っている、というようなことを京都弁でおっしゃるのであるが、東京の人間からすると、ああいう、いきなり初対面の人間に見下されるような精神戦には勝てないような気がするww
初回の題材は若冲、これは金がかかっていると感じた。
逆に言うと、キャストがいまいちぱっとしないのは、そちらに予算をかかるからではないか。
若冲のブームは2000年秋、京博の没後200年展で全国区となり、2006年に東博での「プライスコレクション」展には累計で32万人が訪れたという。
財前直見という人は個人的にまったく馴染みがないのだが(夥しい出演作リストの中で、見たことがあるのはひとつ[それもゲスト出演]しかなかった)、年齢的な落ち着き具合が心地良い、面白い女優と思った。
それにやはり、京女という設定が興味深いのである。
贋作をテーマというと「ギャラリーフェイク」を思い出してしまうし、地味なドラマであるにもかかわらず天才贋作作家(?)らしい謎の人物Kという妙に大時代な設定が気になるが、面白くなりそうと感じた。
第2回 信長の油滴天目茶碗|情報のフェイク
今回の美術品は戦国時代の茶器、舞台は茶会で、「かえし」だの、「和敬静」だの、「禁花“冬知らず”」だの、「関守石」だのといった用語で煙に巻かれて一段と敷居が高い感がある。
しかも、焦点になる茶道家を淡路恵子が演じていて、南野陽子の茶の飲みっぷりを見て、ずけりと、「そのようなぎこちない手つきで茶を飲んでいた人が、昔、いましたな」と言ったりするのでドキドキしてしまう。
どうもこのドラマは京女くらべみたいなところがあると思うのだが、藤村志保の険のある京女が「うへえ…」と逃げ出したくなるのにくらべ、淡路恵子の京女はなんとも言えない弱さを含んでいて、見る者の心をつかむ。
さて、今回のフェイクは、もちろんこの茶器ということになるのだが、正確に言えば、「偽の情報」のことを指していると思われる。
中盤、文化財のある京都には空襲はなかったんでしょう、という南野の言葉に、そんなことはない、爆弾が落ちてぎょうさん人が死んだのだと藤村志保が諭す。見ているこちらもそう思いこんでいたから、ものを知らない女と南野陽子を馬鹿にはできない。
これはウォーナー伝説と呼ばれているおり、ラングドン・ウォーナーという美術史家が、古都の文化財を保護するために米軍に爆撃を控えるよう進言していたというものである。
この話は敗戦直後から1990年代まで日本全体に広く流布され、法隆寺をはじめ全国6か所にウォーナーに感謝する記念碑まで建てられたが、実はGHQの対日政策による(親米感情を形成するための)真赤なウソであり、当時の朝日新聞などによって広められた「つくられた美談」であった。当のウォーナー博士自身、最初からこの伝説を否定していたというが、逆に謙遜していると思われ、ますますウォーナー恩人説が広がったらしい。
こういった「偽の情報」が、今回の事件にもかかわっていた。
淡路恵子の父・宗久は、出征する若者に、ただの茶碗を「本能寺の変を潜り抜けた」油滴天目茶碗と偽って茶を点てたのである。
つまり茶器がフェイクなのではなく、それが油滴天目茶碗であるという情報がフェイクなのだ。
宗久の目的が、当時の禁句である「生きて帰れ」のメッセージを若者に伝えることにあった、という筋書きは、なかなかよくできている。
事件が解決した後、南野と酒盛りをしながら、財前は
売ることの理不尽、
購い得る者は所有し得る者
所有は隔離、
美の監禁に手渡すもの、我
という高村光太郎の詩を朗じる。
智恵子抄中の「美の監禁に手渡す者」であり、「納税告知書の赤い手触りが袂にある、」で始まる詩だから、滞納した税金を払うために美術品を友人に売りに歩く寒夜の心情をよんだものだ。
美術品を所有することはほんらい罪で、ときには罰を受けねばならないのかもしれない、と財前は謎めいた台詞を口にする。
先のウォーナー博士は、ウォーナーリストと呼ばれる日本の文化財の一覧表を作成していた。
それらを保護することが目的だったわけではなく、戦争終結後に、アメリカが賠償金代わりに日本から取り上げるためのリストであった。
第3回 釈迦如来像の謎|さすがに地味すぎるんじゃないかな
今回は謎の男Kの話は出ず…全6回だから半分を越えたわけだが、つかまえる気ありそには見えない。
そしてフェイクは「模刻」と「贋の娘」。
って、先週も「情報の嘘」だったわけだが、犯罪物だからたいてい嘘や贋はあるんじゃないの…?
もえ少し贋作の話に戻ってほしいなあ。
美術品も辛気臭い方向ばかりだし。
手塚理美は歳をとってもキレイだねえ。
倉科カナは京都弁をもっとちゃんと練習すべきだったと思う。
ラストカットで財前直見がくまのぬいぐるみにかぶりつくのかと期待したが、そういうことはしないらしいので残念であった。
第4回 尾形乾山誘拐事件|一般人には「何が楽しいのやら」
だいぶ前に見たのに書きそびれていた、記憶が薄れている…
今回のフェイクは、乾山の水指「誘拐」事件の狂言、そして柳生みゆの父親が死んだという情報の嘘。
しかしこれは冒頭ですぐ見当がついてしまう。
藤村志保の骨董店に尾形乾山の鉋目皿を探しに来た男、ついで柳生が同じ皿を探しに来て、先客がいたと聞いて外へ走り出るくだりである。
柳生は帰ってきた財前直見と鉢合わせになり、財前はカップ酒の入ったビニール袋を取り落とすが、拾って無事を確かめてニッコリ。
「誘拐」事件自体は狂言、というか内部の人間である柳生の仕業ということがわかるが、狂言の協力者が殺されてしまう。
「誘拐」事件は、謎かけの手紙が届いたりして、骨董趣味のお遊びなのだが、一般人には何が楽しいのやら、というものである。
南禅寺の群虎図、弘法大師筆風信帖、乾山の窯跡がある鳴滝の法蔵禅寺など。
途中、乾山の水指の贋作が現れて、夫を思いやる床嶋佳子がそっと本物に差し替えたりする。
このへんは微かに心憎い演出なのだが、こういうものが響く視聴者というのも貴重であろう。
第5回 能面の告白|ムリのある変化球
財前直見が付けボクロをつけて、まさかの二役の上、序盤で逮捕されてしまうという変化球の回である。
美術品は江戸期の能面「深井」で、フェイクとしては、この面の「写し」が使われたからである。
つまり面は二枚あったというわけ。


