照柿の感想
合田雄一郎ものの2作目で、1作目の「マークスの山」と3作目の「レディジョーカー」は上川隆也(映画は中井貴一と徳重聡)だが、本作は三浦友和。
警視庁捜査一課の警部補だった合田は、本作で被疑者の自白強要をヤクザに依頼したり(100万も私財を投げ打っている)、捜査情報を悪用して友人を左遷させようとしたり、一目惚れした事件関係者(これが田中裕子)と昼下がりの名画座(大島渚の「少年」がかかっている)でよろしくやったりと問題行動を連発したかどで所轄大森署に左遷、「レディージョーカー」では一介の刑事のままなのだが、のちに猛勉して警視庁国際捜査課の警部に昇進する。本作はまさに「堕落の森」をさまよう趣で、これは三浦友和でなければできなかっただろう。
登場人物は三浦と田中、そして野口五郎で、三者とも意思疎通が頑なにすぎる人たちなので、めちゃくちゃ重苦しい。8月の猛暑、それも拝島の熱処理工場とか大阪とかロケ地も暑苦しく、画面はずっと鬱々としていた。全3回を見通すのは体力を要する。
田中裕子のファムファタルぶりは息をのむばかりで、三浦友和や野口五郎ならずとも身を滅ぼしかねない危険な演技。それにしても野口五郎は大変な熱演だった。あと、殺される画廊オーナーを癖のある藤田敏八が演じていた。
照柿 見どころ
- 高村薫原作の重厚な世界観
犯罪と人間の業を深く描く高村薫作品ならではの、骨太で心理的な描写が特徴。単なる事件の謎解きに留まらず、登場人物たちの内面に潜む闇や、抑えきれない情念、道を踏み外していく人間の姿が克明に描かれる。 - 三浦友和、田中裕子、野口五郎の演技対決
このドラマの最大の魅力は、主演の3人の俳優による圧倒的な演技。
三浦友和は刑事としての正義感と、美保子への狂おしいほどの感情に引き裂かれる合田を熱演。田中裕子はミステリアスで、男たちを惑わせる魔性の女・美保子を演じ、その存在感はまさに圧巻。野口五郎は、平凡な男から、愛と嫉妬に駆られて破滅へと向かう達夫を、熱のこもった演技で表現。アイドル野口のイメージを覆すほど強烈だったと評された。 - 愛憎渦巻く濃密な人間ドラマ
刑事と幼なじみ、そして二人の間で揺れ動く女という、禁断の三角関係。嫉妬、執着、そして破滅へと向かう感情のうねりが、見る者の心を締め付ける。 - サスペンスと心理描写の融合
複数の事件が絡み合いながらも、物語の核心は登場人物たちの心理の変化にある。それぞれの「罪」や「業」が絡み合い、それがまた新たな事件へと繋がっていくような、緻密な構成が見どころ。 - 井上由美子の脚本
後に「白い巨塔」「GOOD LUCK!!」などを手掛ける人気脚本家・井上由美子が脚本を担当し、高村薫の原作を、ドラマとして見応えのある形に昇華させた。
照柿 あらすじ
警視庁捜査一課の刑事・合田雄一郎(三浦友和)は、ある駅で女性の転落事故を目撃する。現場から足早に立ち去る謎めいた女の姿が、合田の心に強く焼き付く。
その後、中国人ホステス殺人事件の捜査で大阪へ向かう途中、合田は幼なじみの工員・野田達夫(野口五郎)と、そしてあの転落事故の現場で見かけた女・佐野美保子(田中裕子)に偶然再会。達夫と美保子が過去に関係があったことを知った合田は、美保子に心を奪われ、抑えきれない嫉妬を感じ始める。
ホステス殺人事件の捜査が進む一方で、美保子と達夫にも捜査の手が迫る。達夫が新たな事件を起こしてしまうなど、3人の関係は複雑に絡み合い、それぞれの愛憎と葛藤が深まっていく。真夏のうだるような暑さの中で、男二人と女一人の魂が「照柿の色」に染まっていくように、泥沼のような人間ドラマが展開される。
ドラマ照柿のキャスト
佐野美保子 – 田中裕子
野田達夫 – 野口五郎
有澤三郎 – 大杉漣
林警部 – 河原崎建三
吾妻哲郎 – 頭師孝雄
森義孝 – 長森雅人
加納祐介 – 白竜
野田律子 – 黒田福美
ドラマ照柿のスタッフ
照柿の原作
ホステス殺害事件を追う合田雄一郎は、電車飛び込み事故に遭遇、轢死した女とホームで掴み合っていた男の妻・佐野美保子に一目惚れする。だが美保子は、幼なじみの野田達夫と逢引きを続ける関係だった。葡萄のような女の瞳は、合田を嫉妬に狂わせ、野田を猜疑に悩ませる。