パフューム ある人殺しの物語の感想
見ていなかったのをついに鑑賞。
原作を読んだのは20数年前、書棚をちょっと探してみてはや見つけられなかったんだけど、小説の方が面白かった気がする。大乱交シーンなんてあったっけ??
パフューム ある人殺しの物語 見どころ
18世紀フランスとは、「衛生革命」前夜の世界である。パリの下水は溢れ、屍臭と糞尿の匂いが入り混じる不衛生な都市が描かれている。序盤、グルヌイユが生まれる魚市場のシーンは、原作以上に“嗅覚の地獄”を視覚的に表現している。18世紀後半のヨーロッパ、パストゥール以前の“臭気理論”の時代を正確に反映していると言える。当時は「悪臭が病をもたらす」と信じられており、都市改造(パリのオスマン化)前夜のパリはまさにこのようなものであった。本作のテーマである抽象的な“匂いの世界”を、都市史的リアリズムで補強している。
さらに「官能と暴力」表現が視覚で強化される。原作はグルヌイユの内面描写に多くが費やされているが、映画は官能的な映像と暴力の美学にシフト。少女の皮膚から香りを抽出する場面は、18世紀の医学や錬金術的世界観を想起させる。これは近代科学(化学・解剖学)の黎明期における“身体の物質化”と重なる。
こうした中で、原作のグルヌイユは「人間性の欠如した純粋な嗅覚の怪物」として描かれ、ほとんど無感情である。その視点は超人的であり、読者は常に第三者として立たされた。
映画でベン・ウィショー演じるグルヌイユは、これに対してより人間的であり、脆さが強調される。ラストの「群衆による崇拝とカニバリズム」のシーンは、原作では超然と描かれているが、映画ではグルヌイユの孤独と欲望の儚さが際立っている。この改変は、18世紀フランス革命前夜の「民衆の狂騒」の歴史的イメージとも共鳴している。
ラスト、原作のグルヌイユは香水で民衆を魅了し、最終的に“愛されることで自己嫌悪し、自滅”するが、映画では、より劇的な宗教的儀式が描写される。群衆はグルヌイユを取り囲み、彼を“聖性を帯びた存在”として食べ尽くす。この光景は「キリストの聖体拝領」や、近世ヨーロッパの魔女裁判・集団ヒステリーを想起させるものだ。“理性の時代”における感情と身体の暴走を表している。
最後に、肝心の「匂い」について。
原作では言語でしか表現されなかった“匂いの世界”を、映画は色彩・光・カメラワークで可視化した。グルヌイユが香りを嗅ぐシーンでは、被写界深度を浅くして香りが漂う“空気の揺らぎ”を表現。18世紀の香料産業の発展(グラースを中心とした香水文化)と地続きとなっている。
映画『パフューム』は、18世紀の“臭気の時代”を背景に、理性の時代が押し込めた“感覚と身体”をスクリーンに解き放っている。
パフューム ある人殺しの物語のあらすじ
18世紀パリの魚市場で生まれたジャン=バティスト・グルヌイユは、超人的な嗅覚を持つ。赤毛の少女の香りに魅了され、誤って殺してしまうが、その香りを再現しようと調香師バルディーニに弟子入りする。天才的な嗅覚で新たな香水を生み出し、バルディーニの店を繁盛させる。グラースへ旅立ったグルヌイユは、自分に体臭がないことに気づき、商人リシの娘ローラの香りが赤毛の少女と同じだと知り、究極の香水を作ろうと決意。高度な調香法「冷浸法」を習得し、美少女たちを次々と殺害し、禁断の香水作りを始める。グラースの街は恐怖に陥り、グルヌイユの狂気は深まっていく。
パフューム ある人殺しの物語を観るには?
パフューム ある人殺しの物語のキャスト
ジュゼッペ・バルディーニ – ダスティン・ホフマン
リシ – アラン・リックマン
ローラ – レイチェル・ハード=ウッド
ナレーション – ジョン・ハート
パフューム ある人殺しの物語のスタッフ
脚本 – トム・ティクヴァ、アンドリュー・バーキン、ベルント・アイヒンガー
原作 – パトリック・ジュースキント『香水 ある人殺しの物語』
製作 – ベルント・アイヒンガー
製作総指揮 – フリオ・フェルナンデス、アンディ・グロッシュ、サミュエル・ハディダ、マヌエル・マーレ、マーティン・モスコウィック、アンドレアス・シュミット
音楽 – トム・ティクヴァ、ジョニー・クリメック、ラインホルト・ハイル
撮影 – フランク・グリーベ
編集 – アレクサンダー・ベルナー
製作会社 – コンスタンティン・フィルム
配給 – ドイツ コンスタンティン・フィルム、アメリカ ドリームワークス、世界 サミット・エンターテインメント、日本 ギャガ
公開 – ドイツ 2006年9月14日、日本 2007年3月3日
上映時間 – 147分
パフューム ある人殺しの物語の原作
奇想天外! 「鼻男」の一代記
あらゆる匂いをかぎわけ、彼ひとり匂わない。
至高の香りを求めて、異能の男の物語がはじまる──。
18世紀のパリ。孤児のグルヌイユは生まれながらに図抜けた嗅覚を与えられていた。真の闇夜でさえ匂いで自在に歩きまわることができるほどの嗅覚──。異才はやがて香水調合師として、あらゆる人を陶然とさせていく。さらなる芳香を求めた男は、ある日、処女の体臭に我を忘れる。この匂いをわがものに……欲望のほむらが燃えあがり、彼は、馥郁たる芳香を放つ少女を求めて次々に殺人を犯す。稀代の“匂いの魔術師”をめぐる大奇譚。
2007年公開の映画『パフューム ある人殺しの物語』(出演:ベン・ウィショー、ダスティン・ホフマンほか)の原作