ミュージアムの感想
犯人、あの人だったのか! そう言われれば、たしかに扱いがスターだった。
いかにもヤンマガ的なシリアルキラー物だが、猟奇犯行の荒唐無稽さに反する、何のオドロキもないストーリーで、(原作通りの)退屈な脚本。132分あるのだが、終盤の館内部のシーンなどを短くしてどうして110分ほどにできなかったのか。
犯行日が雨の日限定という設定だから照明は凝っていたし、“尾野真千子にいつもの過剰な芝居をさせなかった演出は好感。それが途中で見やめなかった理由かな。
ミュージアムの見どころ
日本映画としては珍しく フィンチャーの「セブン系」のハードサスペンスに挑戦し、日本独自の「家族愛」や「社会の閉塞感」を盛り込んだ野心作。
小栗旬演じる沢村刑事は、家庭を顧みず仕事に没頭する刑事。捜査にのめり込みすぎるあまり、犯人の思惑に絡め取られていくので、観る者は「コイツもまた罰せられるべきでは?」と感じる。
物語はサスペンスだけでなく、沢村の家庭(妻・尾野真千子、息子)を軸に進んでいる。沢村が「家族を守るため」に追い詰められていく展開は、単なる刑事vs犯人の枠を超えた人間ドラマをなしている。
カエル男の「あなたは家族にとって良き父でしたか?」という言葉は、視聴者にも刺さるものだ。
妻夫木聡はこれまで好青年役から異様な猟奇犯に転身。愉悦と冷徹を行き来する演技、マスク越しに伝わる狂気は、日本映画史に残るサイコキラー像と言える。
この二人の「執念対執念」の対立が、後半になるにつれて息苦しいほどの緊張感を生み出す。
カエルのレインコートとマスクを被った犯人・佐土原(妻夫木聡)が、独自の“罰”をテーマに被害者を選び、猟奇的な方法で殺害していく。
「母の痛みを知るべし」「無関心の罪」といった各犯行には、社会のモラルを問いかける寓話性も。
陰鬱な雨が降り続く都市描写が、圧倒的な閉塞感と冷たさを付与しており、フィンチャー作品の影響を感じさせながらも、東京特有の喧騒と静寂が混ざる街の空気感が活かされている。
カエルマスクの不気味さは原作のイメージを忠実に再現しつつ、映画的な異様さが強調されたもの。雨、闇、緑の配色が画面全体に広がり、“カエル”というモチーフの象徴性を強調している。さらに被害者の“展示”がまるで現代アートのようで、映画タイトルの「ミュージアム」とリンクしている。
日本映画としては異例のグロテスクかつ生々しい描写だが、単なる見世物ではなく、「暴力が社会に与える恐怖」をリアルに描写している。特に「母の痛み」のシーンは観る者に強烈なトラウマを残しそうだ。
以上の結果、『ミュージアム』はポップコーンムービーではない“観る者を試す映画”に仕上がっていると言える。「恐怖は外ではなく自分の内側にある」と気づかせる、極めてパーソナルで哲学的なスリラーだ。
ミュージアム あらすじ
雨が降る日のみに起こる連続猟奇殺人事件。現場には必ず謎のメモが残されていた。捜査に当たる刑事の沢村は、殺人アーティストと名乗る犯人「カエル男」に自分の妻子が狙われていると知り、その男を必死で追う。やがて沢村は、被害者の共同点を突き止める。
ミュージアムを観るには?
ミュージアムのキャスト
沢村遥 – 尾野真千子
西野純一 – 野村周平
菅原剛 – 丸山智己
石井 – 淵上泰史
風間 – 平原テツ
大西武志
山形 – 本田大輔
工藤 – 佐久間哲
田辺 – 野中隆光
沼田 – 小久保丈二
堀川 – 吉原光夫
高梨 – 増田修一朗
阿南健治
秋山佳代 – 田畑智子
橘幹絵 – 市川実日子
沢村将太 – 五十嵐陽向
今森由希 – 高橋ユウ
大橋茂 – 三浦英
瀬戸内綾子 – 滝沢涼子
小泉勤 – 山元隆弘
上原あけ美 – 佐藤聖羅
堤優一 – 田口巧輝
真矢恒彦 – 重松隆志
中田長治 – 内藤トモヤ
佐藤義彦 – 巴山祐樹
石野吉松 – 久松信美
小泉愛美 – 舞優
沢村久志の父 – 大森南朋
岡部利夫 – 伊武雅刀
関端浩三 – 松重豊
カエル男(霧島早苗) – 妻夫木聡
ミュージアムのスタッフ
監督 – 大友啓史
脚本 – 髙橋泉、藤井清美、大友啓史
音楽 – 岩代太郎
選曲 – 石井和之
製作 – ミラード・エル・オゥクス、大村英治、井上肇、古川公平、下田淳行、牧田英之、荒波修、髙橋誠、江守徹
エグゼクティブプロデューサー – 小岩井宏悦、青木竹彦
プロデューサー – 下田淳行、下枝奨
撮影 – 山本英夫(J.S.C.)
Bキャメラ – 佐藤有
照明 – 小野晃
録音 – 益子宏明
美術 – 磯見俊裕
セットデザイナー – 将多
装飾 – 渡辺大智
衣裳デザイン・キャラクターデザイン – 澤田石和寛
ヘアメイクデザイン – ShinYa
特殊メイク・造形デザイン – 百武朋
編集 – 今井剛
VFXスーパーバイザー – 小坂一順
スーパーヴァイジングサウンドエディター – 勝俣まさとし
スクリプター – 生田透子
助監督 – 稲葉博文
制作担当 – 高瀬大樹
制作管理 – 鈴木嘉弘
ラインプロデューサー – 鎌田賢一
配給 – ワーナー・ブラザース映画
制作プロダクション – ツインズジャパン
製作 – 映画「ミュージアム」製作委員会(ワーナー・ブラザース映画、WOWOW、パルコ、トライストーン・エンタテイメント、講談社、ツインズジャパン、ニッポン放送、GYAO、KDDI、巖本金属)
ミュージアムの原作
週刊ヤングマガジン連載2013年35号~2014年10号、2016年43号・44号掲載
悪魔の蛙男、“私刑”執行。“ドッグフードの刑”“母の痛みを知りましょうの刑”“均等の愛の刑”“針千本のーますの刑”“ずっと美しくの刑”――。すべては、ある1つの裁判から始まった。超戦慄連続猟奇サスペンスホラー、絶望大解禁!!!
警察官の沢村久志は家庭不和で妻の遥と息子の将太に去られていた。一方、「カエル男」と呼ばれる殺人犯が雨の日に凶行を繰り返し、被害者はすべて「幼女樹脂詰め殺人事件」の裁判員だった。沢村の妻もその一人だった。
当初は被告・大橋茂の遺族による復讐と思われたが、実は「カエル男」こそが真犯人で、自分の「芸術」を他人の犯行と決めつけた裁判員への報復だった。「カエル男」の魔の手は沢村の周囲に及び、同僚が殺害され、妻子も危険に晒される。
沢村は光線過敏症の手がかりから、幼少期に両親を殺された霧島早苗が「カエル男」だと突き止める。最終的に霧島は快晴の中で倒れ、意識不明となる。事件から1年後、警察を辞めた沢村は家族との生活を取り戻そうとしていた。