まだ観ていない方は、Amazon Prime Videoで今すぐ視聴できます。
テッテ的に攻撃される男性性(MEN 同じ顔の男たちの感想)
いやはや、凄まじいミサンドリーというべきか。クライマックスでは全裸の男が少年を産み、少年、牧師を産み、牧師、ジェフリーを産み、ジェフリー、元夫を産むのだが(この一連のシーンはかつての「サイレントヒル」に匹敵する衝撃的なもので、つまり「やり過ぎ」である)、「あなたは何が欲しいの?」と問われた夫がしれっと「愛だ」と答えると、「MEN」というタイトルがドーンと出るという按配で、テッテ的に男性性が攻撃されている。
村の男たちを一人で演じているのはロニー・キニアだが(夢に見そうだ)、それが同じ顔かどうかは重要ではなく、ヒロインジェシー・バックリーにはそう見えているというだけで、出てくる男がどいつもこいつも女を支配し、侮蔑し、欲情する男の本性丸出しの怪物なのは、ミサンドリーの産物と言える。全裸男はあろうことかタンポポの種子をバックリーに顔射する。
禁断のリンゴに始まり、グリーンマン化する全裸男やら、陰唇を指で開くシーラ・ナ・ギグ(アイルランドでは珍しくないらしい)やら、白鳥を名乗りレダならぬバックリーを犯そうとする牧師やら、宗教や神話のモチーフは渋滞している。
かつての荘園なのだろう美しい舞台はCotsonと二度説明されるが(cot+sonなのだろう)、撮影されたのはグロスタシャーとウィジントン。映画の前半は完璧な構図で、楽園のような風景を描いている。
MEN 同じ顔の男たち 見どころ
心理的な深層に迫る異色のホラー映画。
- 悪夢のような視覚体験とカルト的な恐怖
美しいイギリスの田園風景の中で、主人公ハーパーが体験する悪夢のような出来事。日常の中に潜む異端者と対峙する恐怖、生命の誕生の生々しく痛々しい側面に目を向けた瞬間の恐怖などが観る者の精神を深く侵食する。自然光をたっぷり取り入れた明るい部屋と、昼間でも薄暗い部屋の「明暗」の表現にも注目。 - 「有害な男性性」の多面的な描写
夫の死を目撃し、心の傷を癒すために田舎を訪れたハーパーは、そこで出会う全ての男性が同じ顔をしているという奇妙な体験をする。親切に見せかけながらも、ハーパーに無神経な言葉を浴びせたり、威圧的な態度をとったり、つきまとったり、女性が男性に対して抱きうる様々な「気持ち悪さ」や「愛憎」が凝縮されて表現される。単なるホラーを超えて、現代社会における「有害な男性性」を訴えている。 - 象徴的なメタファーと多層的な解釈
リンゴの木、トンネル、タンポポの綿毛、古代の彫像(シーラ・ナ・ギグやグリーンマン)など、多くの象徴的なモチーフが散りばめられる。これらはアダムとイヴの物語、生殖、女性性といったテーマと結びついており、様々な解釈が可能。一度観ただけでは全てを理解しきれない、考察のしがいがある作品。 - 強烈なラスト20分
序盤の不穏な雰囲気から一転、終盤に向けては観客の予想をはるかに超える衝撃的な展開が繰り広げられる。ラスト20分は、生理的嫌悪感を刺激するような肉体的な狂気が描かれ、トラウマ級のインパクトを残す。その描写の裏には、愛や後悔、和解といったテーマが隠されているという指摘も。
撮影裏話
- ハーパーがピアノを演奏するシーン。当初の脚本では彼女はピアノが弾けない設定だったが、撮影の休憩中にジェシー・バックリーがピアノを弾いている姿を見た監督が、急遽その場面を撮影することにした
- ロリー・キニアが複数の男性を演じたため、見た目は同じでも、声色や表情、仕草などでそれぞれのキャラクターを演じ分けているのが見事。監督も俳優も、彼らが「違う男である」と意識して演出・演技していた
- アレックス・ガーランド監督は、撮影に入る前のリハーサル期間に、ジェシー・バックリーが言ったことで脚本の一部を変更した
- イギリスの美しい田舎町が舞台となっており、撮影は2021年3月19日に英国で主要撮影を開始し、同年5月22日に終了。具体的な場所は明かされていませんが、絵画のような美しい風景が印象的
トリビア
- 『ミッドサマー』『ヘレディタリー/継承』と同じ、ホラー映画ファンにはおなじみのA24が製作。その独自の芸術性と不穏な世界観が強く反映されている
- アレックス・ガーランド監督は、『エクス・マキナ』『アナイアレイション -全滅領域-』といったSF作品で高い評価を得ている。本作でもホラーの体裁を借りながらも、SF的な哲学や深遠なテーマが込められている
- 冒頭でハーパーが目撃する夫の死は、落下しているシーンと落ちた後の身体の向きが異なっている。ハーパーが夫を落としたのではないか、という説も存在する
- 作中に登場する全裸の男性は、ハーパーが林檎を食べたイヴ、全裸男が林檎を食べていないアダム、夫が林檎を食べたアダム、というような聖書のアダムとイヴの物語になぞらえた解釈も
- パブの店主や客、警官など、ハーパーが出会う男たちはそれぞれ異なる顔をしていて、ハーパー自身は彼らを「同じ顔」だとは認識していない、という解釈も。彼女の心的外傷が現実を歪めて見せているという考え方につながる
MEN 同じ顔の男たちのあらすじ
ロンドンのキャリアウーマン、ハーパーは夫に愛想を尽かして離婚を迫ったが、夫は逆上し、マンションの上層階から転落死を遂げる。心に傷を負ったハーパーは静養のために田舎の豪奢な館を借り、一人で滞在することに。しかし森の散策を楽しんでいると、浮浪者のような全裸の男にストーカーされ、警察を呼ぶ羽目に陥る。この村の男たちは、放浪者も館の管理人も、教会の司祭も警官も、なぜか同じ顔をしていた。しかしハーパーは服や髪型、印象も異なるせいか、気づかない。
ハーパーは癒しを与えるべき司祭から、夫の死について責められたり、警官が夜中に館の庭に現れて、一瞬で消えたり、次々と怪現象に襲われる。女友達ライリーにスマホで連絡したが、電波状態が悪く上手く伝わらない。
同じ顔の男たちは入れ代わり立ち代わり館のハーパーを襲う。男の腹が大きく膨れたかと思うと、次の成人の男が産まれ、最後には死んだはずの夫が現れた。夫から「愛」が欲しいと言われても、溜息しか出ないハーパー。明け方にライリーが車で駆け付けた時、ハーパーは血まみれの館の庭で、一人ポツンと佇んでいた。なぜかライリーは妊娠中で、腹は大きく膨らんでいた。
MEN 同じ顔の男たちを観るには
MEN 同じ顔の男たちのキャスト
ジェフリー(カントリーハウスの管理人、裸の男、牧師、パブのオーナー、警察官、サミュエルの顔、パブの常連客の2人など) – ロリー・キニア
ジェームズ・マーロウ(ハーパーの亡夫) – パーパ・エッシードゥ
ライリー(ハーパーの友人) – ゲイル・ランキン
警察のオペレーターの声 – ソノヤ・ミズノ
MEN 同じ顔の男たちのスタッフ
脚本 – アレックス・ガーランド
製作 – アンドリュー・マクドナルド、アロン・ライヒ
音楽 – ベン・ソールズベリー、ジェフ・バーロウ
撮影 – ロブ・ハーディ
編集 – ジェイク・ロバーツ
公開 – アメリカ 2022年5月20日、イギリス 2022年6月1日、日本 2022年12月9日
上映時間 – 100分
『MEN 同じ顔の男たち』は、観る人を選ぶ作品ではありますが、その深遠なテーマ性、芸術的な映像表現、そして心に残る強烈なインパクトで、多くの映画ファンを惹きつける映画です。この記事で少しでも興味を持たれた方は、ぜひ本編をチェックしてみてください。