2010年代の映画2018年の映画

アンブレイカブル

4.0
ロビン・ライト(アンブレイカブル) 2010年代の映画
ロビン・ライト(アンブレイカブル)
アンブレイカブルは、2000年公開のアメリカ合衆国のサスペンス映画。原題は「Unbreakable」。『シックス・センス』に続いて、M・ナイト・シャマラン監督、ブルース・ウィリス主演のSFサスペンス映画。公開当初は単独作品であったが、後に2016年公開の『スプリット』において、本作と共通した世界であることがエピローグで明かされた。その後、2019年公開の『ミスター・ガラス』と合わせ三部作のシリーズものになっている。

アメコミ神話の解体と再構築(アンブレイカブルの感想)

前に見たとばかり思っていたが最後まで見ていなかったことに気がついた。アメコミのヒーローはなぜここまで屈折しなければならないのか。

アンブレイカブルの見どころ

本作は『シックス・センス』の歴史的成功の直後に制作された映画である。今でこそ百花繚乱のスーパーヒーロー映画の時代が到来する遥か以前に、シャマランは、アメコミという文化そのものを解体し、その神話を我々の住む現実世界に静かに、そして痛々しいほどのリアリズムで再構築した。

「アンチ・アメコミ映画」という、最も誠実なアメコミ映画

本作の最大の見どころは、これが「アメコミを原作としない、最高のアメコミ映画」であるという点にある。
監督は派手なCGやアクションではなく、アメコミが持つ「構造」と「神話性」にこそ着目した。

ヒーローの誕生譚(オリジン・ストーリー)の再定義

主人公デヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス)は、自分が不死身に近い肉体を持つことに気づいていない。むしろ、その異常なほどの頑丈さが、彼を人生に倦んだ無気力な男にしている。
本作は、彼が自身の能力を自覚し、受け入れるまでの苦悩と葛藤を、ヒーローの誕生譚として丹念に描く。それは決して華々しいものではなく、家族との不和や自己不信に満ちた、痛々しい自己発見の旅路である。

コミックは「現代の神話」である

サミュエル・L・ジャクソン演じるイライジャ・プライス、またの名を「ミスター・ガラス」は、本作のテーマを語る預言者。骨形成不全症という極端に脆い身体を持ち、自分とは正反対の「壊れない人間」が世界のどこかにいるはずだと信じ、その答えをアメコミの中に見出す。
彼のアートギャラリーでのセリフは、コミックがいかにヒーローとヴィランの対比構造、弱点の重要性といった普遍的な神話の法則を受け継いでいるかを説く、見事な映画講義となっている。

現実世界における「記号」

デヴィッドがまとう警備員の緑色のレインポンチョは、スーパーマンのマントやバットマンのマスクに相当する「コスチューム」の記号である。なんと日常的なみすぼらしいアイテムであることか。この映画のリアリズムが象徴されている。
彼の弱点が「水」であることも、アメコミにおけるヒーローの弱点(クリプトナイトなど)の法則を、現実的な設定に落とし込んだものである。

『アンブレイカブル』は、アメコミの「もしも」を、私たちの退屈な日常の延長線上に描き出した。それは後の派手なヒーロー映画とは全く異なる、内省的で哲学的なアプローチと言える。

三部作における「創世記」としての位置づけ

本作が真にその恐るべき全貌を現したのは、16年の時を経て『スプリット』(2016)が公開され、さらに『ミスター・ガラス』(2019)で完結した時です。
この三部作の中で、本作がどのような位置づけにあるのかを振り返っておこう。

『アンブレイカブル』(現実世界の神話)

三部作の「創世記」である。
トーンは極めてシリアスなサスペンス・ドラマ。
「超常的な能力を持つ人間は、ひょっとしたら実在するかもしれない」という世界の法則を、静かに提示する。ヒーローとヴィランが、光と影のように互いを必要とする存在であることを定義づけた、全ての始まりの物語。

『スプリット』(ジャンルの反転と世界の拡張)

巧みな偽装を施した「黙示録」。
観客は最後まで、これがサイコ・スリラー映画だと思い込まされるが、ラストシーンでブルース・ウィリスが登場することで、この物語が『アンブレイカブル』と同じ世界で起きていたことが明かされ、認識は根底から覆される。
多重人格者ケヴィン(ジェームズ・マカヴォイ)の「ザ・ビースト」という能力は、精神的な苦痛が肉体を変容させるという、デヴィッドとは全く異なるアプローチで「超人」が生まれる可能性を示した。これにより、シャマランの世界は一気に拡張された。

『ミスター・ガラス』(神話の激突と暴露)

三部作の「最終戦争(ラグナロク)」であり、メタ的な総括。
デヴィッド(ヒーロー)、イライジャ(知能犯)、ケヴィン(怪物)という異なるジャンルのキャラクターが一堂に会し、激突する。
本作のテーマは、「ヒーローたちの神話を、秘密の物語から公の伝説へ」と昇華させることだった。
イライジャの最終目的は、ヒーローの存在を世界に証明することにある。その意味で、静かに神話を描いた『アンブレイカブル』に対し、神話を白日の下に晒そうとする『ミスター・ガラス』は、最も野心的で、最も「アメコミ的」な展開を見せる作品であった。

ぜひ三部作で鑑賞を

『アンブレイカブル』は、単体で観れば、ある男の悲哀に満ちた自己発見の物語として完結した傑作だが、三部作という壮大なタペストリーの最初の糸として見るとき、その深みと先見性は驚くべきものがある。
スーパーヒーローがスクリーンを席巻する現代において、そのジャンルの本質を誰よりも早く、そして誰よりも深く見つめていたシャマランの慧眼は素晴らしい。

アンブレイカブルのあらすじ

フィラデルフィアの列車事故で唯一無傷で生き残ったデヴィッドは、難病を抱える漫画画商のイライジャから接触を受ける。イライジャは、デヴィッドが怪我や病気をしない「ヒーロー」と確信するが、デヴィッドは最初は否定する。しかし、自分に超人的な能力があると自覚し、少女暴行監禁犯を救出する。イライジャと再会したデヴィッドは、彼が列車事故を仕組んでいたことを知り、通報する。イライジャは「Mr.ガラス」と呼ばれ逮捕され、精神病院に入れられる。デヴィッドは、自分がヒーローであることを自覚し、イライジャの狂気と対峙する物語。

アンブレイカブルを観るには?

アンブレイカブル キャスト

デヴィッド・ダン – ブルース・ウィリス
イライジャ・プライス – サミュエル・L・ジャクソン
オードリー・ダン – ロビン・ライト・ペン
ジョセフ・ダン – スペンサー・トリート・クラーク
イライジャの母 – シャーレイン・ウッダード
マシソン医師 – イーモン・ウォーカー
ケリー – レスリー・ステファンソン
13歳のイライジャ – ジョニー・ヒラム・ジェイミソン
ベビーシッター – ミケリア・キャロル
学校の看護師 – エリザベス・ローレンス
オレンジ色の服の男 – チャンス・ケリー
デュービン医師 – マイケル・ケリー
ジェンキンズ – ジョーイ・ペリロ
ビジネスマン – ファードス・バンジ
老秘書 – サリー・パリッシュ
ノエル – リチャード・E・カウンシル
ドラッグの売人 – M・ナイト・シャマラン

アンブレイカブル スタッフ

監督 – M・ナイト・シャマラン
脚本 – M・ナイト・シャマラン
製作 – バリー・メンデル、サム・マーサー、M・ナイト・シャマラン
製作総指揮 – ゲイリー・バーバー、ロジャー・バーンバウム
音楽 – ジェームズ・ニュートン・ハワード
撮影 – エドゥアルド・セラ
編集 – ディラン・ティチェナー
製作会社 – タッチストーン・ピクチャーズ、ブラインディング・エッジ・ピクチャーズ、バリー・メンデル・プロダクションズ、リミテッド・エディション・プロダクションズ
配給 – アメリカ ブエナ・ビスタ・ピクチャーズ、日本 ブエナ ビスタ インターナショナル(ジャパン)
公開 – アメリカ 2000年11月22日、日本 2001年2月10日
上映時間 – 106分
タイトルとURLをコピーしました