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やさしい猫

優香(やさしい猫) ドラマ
優香(やさしい猫)
やさしい猫は、2023年6月24日から7月29日まで、NHK総合の「土曜ドラマ」枠で放送。主演は優香。

やさしい猫の感想

優香は「ハクバの王子サマ」(2013)を見て以来、好きな女優。地味なように見えて活動は結構華々しい。

ドラマは中島京子原作で、「入管物」である。

やさしい猫 見どころ

  1. 心温まる家族の絆と、それに立ちはだかる社会の壁
    優香演じるリサとオミラ・シャクティ演じるクマラ、そして伊東蒼演じるマヤが織りなす家族の温かい関係性が丁寧に描かれる。その幸せな日常が一転、入管という大きな壁に直面し、家族が引き裂かれそうになる姿が胸を打つ。
  2. 入管問題のリアリティと葛藤
    本作は、実際に日本が抱える入管問題を深く掘り下げている。外国人に対する日本の制度や社会の目が、ときに非情な現実として突きつけられる。収容された外国人が直面する困難や、その家族が味わう苦悩がリアルに描かれ、視聴者に日本の国際社会における現状を考えさせるきっかけとなる。吉岡秀隆演じる入管職員の複雑な立場も描かれ、一方的な悪役ではない多角的な視点も特徴。
  3. 優香さんの熱演
    愛する夫を救うために奔走する妻の姿を、優香が情熱とリアリティをもって演じる。感情豊かな演技に引き込まれる。
  4. 社会派ドラマとしてのメッセージ性
    単なる家族の物語にとどまらず、差別や偏見、人権といった普遍的なテーマに切り込んでいる。社会の「やさしさ」とは何か、多様性を受け入れることの難しさと重要性を問いかける。
  5. 原作の持つ温かさと鋭さ
    中島京子の原作小説が持つ、温かいまなざしと、社会の不条理を鋭く切り取る視点がドラマにも生かされている。心温まる描写の中に、厳しい現実が提示されることで、より深い感動と問題提起が生まれている。
  6. 「やさしい猫」における入管問題とは?

    本作では、リサとクマラ、そして娘のマヤが、温かい家庭を築き始めた矢先、クマラが「不法滞在」の疑いで入管に収容されてしまう。観光ビザで来日し、その後労働ビザを取得したものの、工場閉鎖で職を失い、新しい仕事が見つからずに在留期限が切れてしまったことが原因だった。結婚後、在留資格を「配偶者ビザ」に切り替えようとしていた矢先の出来事である。
    このような悲劇が起こる背景には、日本の入管制度の構造的な問題が深く関わっている。

    入管問題が引き起こす悲劇の要因

    1. 「全件収容主義」と無期限収容
      日本の入管法は、在留資格のない外国人を原則として全員収容する「全件収容主義」をとっている。これは刑事事件における逮捕・勾留とは異なり、司法審査を経ずに入管側の判断で身体の自由が奪われるもの。しかも収容期間に上限がないため、数年にわたる長期収容が常態化している。
      クマラは「不法滞在」という入管法違反により、問答無用で収容される。彼が善良な市民であり、日本人の家族がいるにもかかわらず、その状況は考慮されず、一度収容されるといつ出られるか分からないという絶望的な状況に追い込まれる。これは人間の尊厳を軽んじる行為として国際社会からも批判されている。
    2. 在留資格の厳格な運用と柔軟性の欠如
      日本の在留資格制度は非常に細かく分類されており、いったん在留資格を失うと、再び取得するのは極めて困難とされる。たとえ日本人との間に家族ができたとしても、在留資格の変更や特例許可の要件は厳しく、個別の事情や人道的な配慮が十分にされるとは限らない。
      クマラは結婚し、日本に定住する意思があり、家族も日本にいる。しかし在留期限が切れた時点で「不法滞在」という「ルール違反」と見なされ、その後の手続きや配慮が極めて限定的になる。彼のようなケースで、スムーズに配偶者ビザに切り替えられず、収容という事態に発展してしまうのは、制度に柔軟性が欠如していることが原因と言える。
    3. 司法審査の不在と入管職員の裁量
      入管による収容や退去強制の決定には、原則として、裁判所のような第三者機関による司法審査がない。収容の必要性や期間、仮放免の許可・不許可などが、すべて入管職員の裁量に委ねられている。これにより、恣意的な判断や人権侵害につながる可能性が指摘されている。
      リサがいくらクマラの状況を訴えても、入管側の判断は揺るがない。収容の長期化や、仮放免が認められない状況は、入管の「閉鎖性」と「不透明性」を示している。家族が人権侵害を訴えても、それを是正する仕組みが十分に機能しないことが、悲劇を深刻化させている。
    4. 社会の偏見と無関心
      「不法滞在者=悪」という根強い偏見や、「外国人問題は自分たちには関係ない」という社会の無関心が、入管制度の厳格化を許容する土壌となっている。メディアで報じられる入管施設の状況や、外国人への人権侵害の実態が、なかなか一般市民に届いていないのが現状である。
      リサやマヤは、クマラが「不法滞在」であることを知った周囲からの冷たい視線や、助けを求めても理解されない壁に直面する。これは、外国人やその家族が社会から孤立し、支援の声が届きにくい現実を示唆する描写である。ウィシュマさんの死亡事件のように実際に命を落とすケースが起きても、社会全体の意識が大きく変わるには時間がかかるのである。
    5. 難民認定制度の厳しさ
      日本は国際的に見て難民受け入れが非常に少ない国であり、難民認定の基準が厳しいと指摘されている。難民申請中の人も収容されることがあり、申請回数が多いと「濫用」と見なされ、さらに審査が厳しくなる。
      「やさしい猫」には難民問題は出てこないが、もしクマラが「自国に帰るのが困難な事情」を抱えていたとしても、日本の難民認定制度が彼を救う可能性は低い。

    ドラマ「やさしい猫」が訴えるもの

    「やさしい猫」で描かれたような悲劇は、単一の要因によって起こるものではなく、上記のような「全件収容主義」「在留資格運用の硬直性」「司法審査の不在」「社会の偏見」といった、日本の入管制度が抱える複合的な問題が絡み合ったものが原因である。
    家族の温かさや個々の事情よりも、「ルール」と「管理」が優先される制度のあり方が、クマラのような善良な外国人と、彼を愛する日本人家族の絆を理不尽に引き裂くことになる。
    本作は、私たちに「やさしい社会とは何か」を問いかけ、入管問題が「他人事」ではなく、私たち自身の社会が抱える課題であることを強く訴えかけた。

    やさしい猫 あらすじ

    主人公のリサ(優香)は、ある日、シングルマザーとして娘のマヤ(伊東蒼)と穏やかに暮らしていた。そんな彼女の前に、スリランカ人の男性クマラ(オミラ・シャクティ)が現れ、彼の優しさと誠実さに惹かれたリサは結婚し、マヤもクマラに懐き、新しい家族として幸せな日々を送り始める。
    しかし、ある日突然、クマラは出入国在留管理庁(入管)に収容されてしまう。観光ビザで来日し、不法滞在の状態にあったことが理由だった。リサとマヤは、愛する家族を取り戻すため、厳しい現実と向き合うことになる。日本の入管制度の壁、外国人をめぐる社会の偏見、そして家族の絆が試される中で、彼らは懸命に戦い続けることになる。

    やさしい猫を観るには?

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    やさしい猫 キャスト

    主要人物
    奥山ミユキ(シングルマザーで保育士) – 優香
    首藤マヤ(ミユキの娘で高校生) – 伊東蒼(小学生時代:太田結乃)
    クマラ(自動車整備工場で働くスリランカ人) – オミラ・シャクティ
    ミユキの関係者
    奥山マツコ(ミユキの母) – 余貴美子
    水上(ミユキ親子が住むアパートの大家) – 池津祥子
    ほなみ(ミユキが働く保育園の同僚保育士) – 石川恋
    マヤの関係者
    ナオキ(マヤの小学校時代の同級生) – 南出凌嘉
    ハヤト(埼玉生まれ埼玉育ちのクルド人) – ラディン
    クマラの関係者
    ペレラ(クマラの先輩友人) – にしゃんた
    恵法律事務所
    恵耕一郎(人権派弁護士) – 滝藤賢一
    江藤麻衣子(弁護士) – 山田真歩
    入管
    上原賢一(入管の職員) – 吉岡秀隆
    占部(入管側の代理人) – 麻生祐未

    やさしい猫 スタッフ

    原作 – 中島京子『やさしい猫』(中央公論新社)
    脚本 – 矢島弘一
    音楽 – 林正樹
    制作統括 – 倉崎憲
    プロデューサー – 伴瀬萌大久保篤
    演出 – 柳川強安藤大佑
    制作・著作 – NHK

    『やさしい猫』は、優しさと厳しさ、希望と絶望が入り混じったヒューマンドラマです。この記事で少しでも興味を持たれた方は、ぜひ本編をチェックしてみてください。

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    やさしい猫の原作


    家族三人で暮らしたい、ただそれだけの望みを叶えるのがこんなに難しいなんて
    シングルマザーの保育士ミユキさんが心ひかれたのは、八歳年下の自動車整備士クマさん。娘のマヤも面倒見のいいクマさんに懐いて、すったもんだはありつつも、穏やかな日々が続くはずだったのに……。

    出会って、好きになって、ずっと一緒にいたいと願う。
    そんな小さな幸せが突然奪われたのは、クマさんがスリランカ出身の外国人だったから。

    〈ハラハラしてます〉〈ラストがよかった〉〈知らないって恐ろしい〉
    読売新聞連載中から反響続々
    中島京子の長編小説最新刊

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