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私をくいとめて

のん(私をくいとめて) 映画
のん(私をくいとめて)
私をくいとめては、2020年12月18日公開。監督・脚本は大九明子、主演はのん。
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エヴァのシンジ君の病(私をくいとめての感想)

何年もトイレに置きっぱなしだった「勝手にふるえてろ」が結局存外に面白かったので、同じ系譜と思われる本作を見てみた(どちらも大九監督である)。

ヒロインはのんで、思わず唸ってしまい、見るのをやめていたドラマ「キャスター」ののんがゲスト出演した第3話を配信で見てしまった。この人以外での映画化がありえないほどのマッチ度にたじろぎ、そもそもこの女優は脇役ができるのだろうかと思ったからである(その結果は「キャスター」の記事に追記する)。

本作はコロナ禍真只中に撮影された映画で、イタリアに嫁に行った橋本愛を訪ねるシーンは、イタリアから送ってもらった映像と国内撮影で成り立っている。旧友と再会したのんが妊娠した橋本の姿に言葉を失うのは、まさに橋本の変化を「うけとめ」きれないからだ。しかし橋本もまた自身の変化ををうけとめきれずにいることを知り、二人は和解する(かに見える)。つまりここで表現されているのは、変わってしまうことへの恐怖である。

のんは期待した通りに晴れて恋人になった林遣都の変化にも敏感だ。道に迷って苛つく林の言葉に傷ついた彼女は、氷を取りに行くホテルの廊下でメチャクチャにキレる。

Aというイマジナリーフレンド(声は中村倫也)がいないと生きていけないのん(「勝手にふるえてろ」のヨシカも同様である)は、エヴァのシンジ君と同じ自意識の澱の中にあるが、最後にAが前野朋哉のダラシナイ身体で現れる.「ちょうどいい」と呟くところが面白い。

苦手だという飛行機の中で、苦悶しながらも巨大な「く」(君は天然色の歌詞の冒頭の文字)が飛んでくるシーンは最高。

私をくいとめて 見どころ

30歳を過ぎて「おひとりさま」生活を謳歌する主人公・みつ子(のん)の脳内にいる相談役「A」との会話を通して、彼女が年下の男性・多田くん(林遣都)に恋をする中で生じる葛藤と成長を描いたロマンティック・コメディ。

  1. 「脳内相談役A」という斬新な設定
    みつ子の頭の中には、長年彼女を見守り、時には厳しく、時には優しくアドバイスをくれる「A」という存在がいる。無意識の「脳内会議」を具現化したもので、このAとのユーモラスな会話が、みつ子の内面や心理状態を非常に分かりやすく、かつコミカルに表現している。Aの声は中村倫也が担当しており、そのイケボも魅力の一つ。
  2. のん(能年玲奈)の新境地
    久しぶりの主演映画となったのんさんが、30代の「おひとりさま」女性のリアルな日常と、恋に臆病になりながらも一歩踏み出そうとするみつ子の複雑な感情を、繊細かつ感情豊かに表現。脳内相談役Aとの会話シーンでは、一人で二役を演じるような高い表現力が求められた。
  3. 林遣都の「年下男子」ぶり
    林遣都演じる多田くんは、みつ子とは対照的にストレートで純粋な年下男性。彼のみつ子へのまっすぐなアプローチや、時折見せる可愛らしい一面が。みつ子とのすれ違いや、むずがゆい恋模様がリアルに描かれた。
  4. 共感度の高い「おひとりさま」のリアル
    映画は、一人でいることの心地よさ、自由さ、そしてそこから一歩踏み出すことへの不安や抵抗を丁寧に描く。多くの「おひとりさま」が「わかる!」と感じる日常の小さな幸せ、人間関係の悩み、恋愛への臆病さなどが表現されている。
  5. 大九明子監督と綿矢りさのタッグ
    『勝手にふるえてろ』でも高い評価を得た大九明子監督と綿矢りさのタッグが、本作でもその相性の良さを発揮。独特な視点から描かれる女性の内面、コミカルな中に潜む切ない感情の表現がこのコンビならではの魅力。
  6. 「くいとめる」ことの意味
    タイトル「くいとめて」は、みつ子が自分の殻に閉じこもりがちな自分を、誰かに、あるいはAに「食い止めてほしい」という願いを意味する。

トリビア・撮影裏話など

  • のんは役作りのために、みつ子がコーヒー派か紅茶派かといった細かい設定まで監督に確認した。感情の高ぶりを表現する演技では、普段の透明感に加え、喜怒哀楽を感情豊かに表現する新たな境地を見せている
  • 脳内相談役「A」の声は中村倫也が担当したが、実際にはのんが一人でカメラに向かってAと会話するシーンが多く、撮影現場ではのんさんの頭の中に中村倫也さんの声が響いている状態だったとのこと
  • みつ子の部屋のインテリアは美術チームのこだわりにより作り上げられた。特定のスタイルにとらわれず、みつ子の趣味や性格が反映された「雑多ながらも心地よい」空間を演出。壁に貼られたショップカードやポストカード、枕元のスピーカーなど、細部までみつ子らしさを表現した
  • みつ子がイタリアへ旅行するシーンはコロナ禍の影響で実際のロケが難しく、和歌山県の「ポルトヨーロッパ」というテーマパークで撮影された

  • 東京タワーでの撮影は、コロナ禍の中でお客さんがいない時間帯を選んで行われた
  • 多田くんがコロッケ屋でみつ子にコロッケを渡すシーンなど、年下男子としての不器用さや可愛らしさが際立つ場面での林遣都の演技も、監督や共演者との綿密なやり取りの中で生まれた
  • 原作者の綿矢りささんは、映画の出来栄えについて「楽しいセリフが沢山で、シリアスなシーンでも皮肉なユーモアが滲んでいて、どうやって解釈しようかと嬉しくてニヤニヤしながら読みました」とコメント
  • 私をくいとめて あらすじ

    黒田みつ子(32歳)は“おひとりさま”生活を満喫し、悩みは脳内の「相談役A」に相談していた。Aは常に味方で、正しい選択を導いてくれる存在。しかし、年下の営業マン・多田くんに恋をし、アラサーからのアプローチに戸惑いながらも、両想いと信じて一歩踏み出す決意をする。

    私をくいとめてを観るには?

    私をくいとめて キャスト

    黒田みつ子:のん
    多田くん:林遣都
    ノゾミさん:臼田あさ美
    カーター:若林拓也
    前野朋哉
    山田真歩
    吉住(本人役):吉住
    コロッケ屋店主:岡野陽一
    A:中村倫也(声の出演)
    澤田:片桐はいり
    皐月:橋本愛

    私をくいとめて スタッフ

    原作:綿矢りさ『私をくいとめて』(朝日文庫 / 朝日新聞出版刊)
    監督・脚本:大九明子
    音楽:高野正樹
    劇中歌:大滝詠一「君は天然色」(THE NIAGARA ENTERPRISES.)
    製作:鳥羽乾二郎、多湖慎一、與田尚志、永田勝美、川村岬、竹内力
    エグゼクティブプロデューサー:福家康孝
    企画・プロデュース:谷戸豊
    プロデューサー:永井拓郎、中島裕作、矢野義隆
    アソシエイトプロデューサー:福嶋更一郎、菅谷英智
    ラインプロデューサー:氏家英樹
    撮影:中村夏葉
    照明:常谷良男
    美術・装飾:作原文子
    録音:小宮元
    編集:米田博之
    音響効果:岡部泰輝
    CG / VFX:高橋良明
    衣装:宮本茉莉
    ヘアメイク:清水美穂
    助監督:成瀬朋一
    制作担当:原田博志
    宣伝プロデューサー:滝口彩香
    制作プロダクション:RIKIプロジェクト
    企画協力:猿と蛇
    製作幹事・配給:日活
    製作:『私をくいとめて』製作委員会

    『私をくいとめて』は、現代に生きる「おひとりさま」の心の機微をユーモラスかつ繊細に描き出した、温かくも切ない、共感度の高い作品です。この記事で少しでも興味を持たれた方は、ぜひ本編をチェックしてみてください。

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    私をくいとめての原作(綿矢りさ)


    黒田みつ子、もうすぐ33歳。一人で生きていくことにも抵抗はなく、悩みは脳内の分身「A」に相談。でも、いつもと違う行動をして何かが決定的に変わってしまうのが怖いんだ……。同世代の気持ちを説得力をもって描く著者の、待望の文庫化。(解説:金原ひとみ)
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