市長死すの感想
舞台となる「静岡県の志摩川温泉」というのは原作(1956年の短編)からして架空の温泉町。ロケ地は愛知の湯谷温泉らしい。鉄道は大井町鉄道。
失踪していた市長(イッセー尾形)が温泉町で転落死し、その謎を甥の市議(反町隆史)が追う、という話。
現代の話に置き換えられているため、市長が元商社マンで、駐在先の東南アジアで政変が起き、現地の日本食堂の女(木村多江)が現地交渉用の裏金5億円が消えた、というエキゾチックな話になっているが、原作では市長は南朝鮮司令官で、女は現地の愛人、持ち去られた金は軍の金である。
市長がテレビの観光番組で女の姿を発見し、市議会を放り出して温泉町に向かったというところは原作通り。ドラマでは旅館の主人が石黒賢なのですぐに先が読めてしまう。
問題は木村多江の悪女ぶりである。ほとんど「演技のできる壇蜜」とも言える木村は、「伯父を愛していたのですか」という反町の質問に「…気持ち悪い」とアスカのように呟き、ラストシーンで、それまで足を引き摺っていたのに急にスタスタと歩き出している。原作ではこの女の心情描写はないので、これはいかにもテレビ的な結末の付け方で、木村の存在がドラマの性格を変えてしまっている。
イッセー尾形と反町隆史は熱演しており、この二人の関係がドラマ上のテーマのはずだったと思う(一番の蛇足は飛び入りの倍賞美津子)。原作では血縁関係などなく、なぜ市長の事件にのめり込んでいくのかわからないので、事件解決後に反町が「ただいま」と妻に告げるシーンで終わるべきだったのだ。
なお、本作は珍しく映像化が乏しく、映画化はなし、先行ドラマも1959年の1本のみである。
市長死すの見どころ
- 松本清張らしい「悪女」の存在
木村多江演じる藤島芳子が物語の鍵を握る「悪女」。彼女がどのように市長を翻弄し、その死に関わっているのかが最大の焦点である。「可哀そうと思わせた方が勝ち」というセリフが示すように、計算高く、男を惑わす女性の恐ろしさが描かれる。 - 実力派俳優陣の競演
主演の反町隆史は知的好奇心と正義感を持つ市議会議員を好演。謎を追う過程での葛藤や、真実に近づくにつれて見せる表情の変化が見どころ。イッセー尾形が演じる、真面目ゆえに秘められた欲望に囚われていく市長の姿、そして倍賞美津子演じる家政婦との絶妙なやり取りも見どころ。木村多江、石黒賢といった実力派俳優たちの演技合戦も大きな魅力。 - 地味だが奥深いミステリー
派手なアクションやトリックに頼るのではなく、登場人物の心理描写や、人間関係の複雑さから生まれるサスペンスが中心。地道な調査から少しずつ真相が明らかになっていく過程は、松本清張作品の醍醐味。 - 現代的な設定へのアレンジ
ドラマは舞台を放送当時の2010年代に置き換え、捜査に現代的な手法(VTRの活用など)を取り入れることで、現代の視聴者にも馴染みやすいようにアレンジされている。
市長死す あらすじ
主人公の笠木公蔵(反町隆史)は、花屋を営む市議会議員。ある日、彼の伯父である横川市の市長・田山与太郎(イッセー尾形)が突然姿を消す。真面目一辺倒だった市長が、公務中に6日も無断で議会を欠席し、数日後、志摩川温泉で転落死体として発見される。警察は事故として処理しますが、真面目な伯父の不可解な行動に疑問を抱いた笠木は、独自に真相を探り始める。捜査を進める中で、笠木は市長の遺品である日記を発見し、そこに書かれていた「芳子(木村多江)」という女性の存在を知る。市長が密かに思いを寄せていたらしいその女性が、市長の失踪、そして死と関係があるのではないか?
笠木は、市長宅で家政婦をしていた手塚スミ子(倍賞美津子)の協力も得ながら、市長の足取りを追い、事件の裏に隠された衝撃的な真実へと迫っていく。
市長死すのキャスト
藤島芳子: 木村多江
浜本繁雄: 石黒賢
笠木みゆき: 白石美帆
矢崎すすむ: 春海四方
松本三郎: 近江谷太朗
笠木浩美: 兎本有紀
加藤警部補: 佐藤誓
田山明子: おぐりちえこ
佐和:
警部補の部下: 高嶋寛
紀藤総一郎: きたろう
島津: 酒井敏也
望月: 京本政樹 ※友情出演
黒崎: 升毅
竹井洋介: 佐久間哲
署長: 山崎大輔
釣り人: 斉藤直樹
フロント: サンヨウコ
レポーター: 市川円香
藤関商事の経理部長: 福井謙二
手塚スミ子: 倍賞美津子
田山与太郎: イッセー尾形
市長死すのスタッフ
演出:西浦正記(フジクリエイティブコーポレーション)
編成企画:水野綾子(フジテレビ)
プロデューサー:竹田浩子(フジクリエイティブコーポレーション)
技術協力:ビデオスタッフ、ブル
照明協力:ザ・ホライズン
企画協力:ナック・菊地実
撮影協力:湯谷温泉(愛知県)、富士市、成田市議会、鴻巣市、川根本町まちづくり観光協会、大井川鐵道 ほか
制作:フジテレビ
制作著作:フジクリエイティブコーポレーション
市長死すの原作(松本清張)
市長死すの原作のあらすじ
九州のある市の市長・田山与太郎は、市議会議員と秘書を連れて陳情で上京したが、地元に帰る前夜に議員たちを新国劇へと招待し、二幕目が開いたところで市長はホテルへ戻り、急な用件で志摩川温泉へ行くと言い出して議員と秘書を地元に帰してしまう。三、四日過ぎても市長は帰ってこなかった。地元紙が騒ぎかけた時、田山市長の転落死体が志摩川温泉で発見された。
醬油屋を営む若き市議会議員・笠木は、市長の奇妙な行動の裏に疑問を抱き、調査を始める。