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啓示

4.0
シン・ヒョンビン(啓示) 映画
シン・ヒョンビン(啓示)
『啓示』は、2025年3月21日(金)より配信中のNetflix映画。監督はヨン・サンホ、『地獄が呼んでいる』でもヨン・サンホ監督とコンビを組んだチェ・ギュンソクが共同脚本、映画『ゼロ・グラビティ』、ドラマ『ディスクレーマー 夏の沈黙』などで知られるアルフォンソ・キュアロンがエグゼクティブ・プロデューサーとして参加。リュ・ジュンヨル、シン・ヒョンビン、シン・ミンジェが白熱の演技を見せている。

啓示の感想

拘束された女刑事、それと向かい合うように足輪を付けた男が椅子に縛りつけられていて、二人の間に立つ牧師は刑事を黙らせようと銃を撃ち、刑事は頭を下げてそれをよけ、牧師に体当たりする。縄を抜けて揉み合いになったところを、足輪の男が椅子に縛られたまま、脚を伸ばして鋸を蹴る。
床を滑った鋸を刑事が掴み、牧師に斬りかかる。と、牧師の劣勢に喜んでいた足輪の男の椅子が後ろに引かれ(椅子に挟まっていた布が掛けてあった脚立が倒れたのだ)、壁のない、廃屋ビルの外の中空に椅子ごと投げ出される。女刑事は身を躍らせて飛びつこうとするが間に合わない。

――という長回し(このくだりまで数分に及ぶ台詞の応酬がある)がクライマックスにあり、思わず、巻き戻して再確認してしまった。

主な登場人物は上記の3人のみだ。
牧師は息子が誘拐されたと誤解して足輪の男(再犯防止のために位置情報を管理されている)を山中で崖から突き落とした。これが事件の発端である。ところが男は生き延び、瀕死の状態で保護されていた。偶然それを知った牧師は男を誘拐し、上記の廃屋に連れてきた。

女刑事(シン・ヒョンビン)は、男が足輪を付けることになった監禁事件の被害者身内(被害者は妹で、脱出後に自死した)であり、男の再犯を信じて監視を続け、この事件(足輪の男の失踪)の真相に辿り着いて、牧師を追って廃屋に来たところをつかまり、拘束されていた。

足輪の男は、牧師の息子ではなく、実は教会に通う女子を誘拐・監禁しているのだが、その場所を白状しようとしないまま、廃屋で墜落死してしまう(監禁場所はヒョンビンが推理するのでバッドエンドではない)。

タイトルの啓示とは、崖の上と誘拐の際に、牧師が目にした森や山の影に牧師が見出した神の姿を指す。ラストシーンでも、牧師は独房の壁に神の横顔を見るが、それを手でこすると、途端に恐ろしい悪魔の顔に変わる。

こうしたアポフェニア、パレイドリアは足輪の男や刑事にとっても無縁ではない。足輪の男は自分を虐待する父親の影を、啓示は死んだ妹の影から逃れられないのだ。

というシャマランが飛び上がって喜びそうな映画だった。画面設計、脚本とも、すごく練られたものである。

啓示の見どころ

本作で描かれているの、自然現象や偶然を「神の意図」と勝手に解釈する人間の思考のクセ──パレイドリア/アポフォニア。
宗教的啓示と妄信のあいだを揺れ動き、牧師ミン・チャンが“背後にあるものを見た”と信じる姿から、啓示とは、必ずしも超自然ではなく、「信じたいから見えるもの」であるという構造が浮かぶ。
人間の“欲望による信仰”を宗教現象として炙り出しているのである。

このため、本作は、クリスチャン系メディアで「若き牧師の堕落と教会批判」として扱われたが、監督自身は「教会そのものより、個々人が見たいものだけを見る現代精神」を批評していると語っている。つまり、制度的宗教の枠に囚われない、「自己中心的信仰」が本作の本質であり、個人と宗教のズレを描いたにすぎないと。

教会のトップになりたいという出世欲が、牧師ミン・チャンの暴走を招くというプロットは、単なる個人の野心ではなく、“宗教的権威”が暴走するとどうなるかという危険性を表すものである。
聖職者が「神の代行」として行使できる権力が、いかに容易に歪むかを描いたものだ。

ミン・チャンの行動は「神に許された罰」なのか、それともただの人間の暴走なのか。
物語の終盤、精神科医が「悪魔やモンスターは人間が作り出した方便」と語るシーン(聖書ヤコブの手紙的には「欲から生じる罪」)は、超自然的な啓示よりも、人間的な欲望や責任の方が根深いという哲学的メッセージが貫かれている。

シン・ヒョンビンは、妹の死に対し宗教的慰めではなく、行動(事件解決)を通じてしか癒されない刑事だ。
彼女の救済は「儀式」ではなく「行動」によって実現され、宗教的癒しの限界と倫理的行動の対比になっている。

本作は現代における“見たいものだけを信じる”傾向を宗教的寓意として可視化している。
教会や神学の枠を超え、我々自身が「フィルターを通して信じる存在」であるという問いを投げかける作品だ。

まとめ

  • 啓示とは神話ではなく、自己の投影である
  • 宗教権威は救いにも裁きにも、両刃の剣となる
  • 贖罪や救済は形式ではなく行為にある
  • 信仰という“フィルタ”を通して生きる我々への批評的寓話

啓示 あらすじ

ソン・ミンチャン牧師(リュ・ジュンヨル)の教会に信者たちがたくさん集まっていた。そこへ怪しい男性クォン・ヤンレ(シン・ミンジェ)がやってくる。クォンは少女シン・アヨンが教会に入っていくのを見かけ、衝動的に教会に入ってきたのだ。ミンチャンはそうとは知らず、彼にコーヒーを飲ませた。クォンが帰る時、ミンチャンは彼に電子足輪(性犯罪など再犯率が高い人の監視用)が付けられているのを見て驚く。
イ・ヨニ刑事(シン・ヒョンビン)はクォンの動向を監視していた。
その日の夜、ミンチャンは妻から、息子のヨヌが帰って来ないと連絡を受ける。ミンチャンは息子がクォンに誘拐されたのでは?と考えてクォンの住所を調べ、彼の車を尾行。クォンの車は山の中へ。そして最悪の啓示がミンチャンを待ち受けていた。

啓示を観るには?

啓示 キャスト

ソン・ミンチャン(牧師) – リュ・ジュンヨル
イ・ヨニ(刑事) – シン・ヒョンビン
クォン・ヤンレ(前科者) – シン・ミンジェ

啓示 スタッフ

監督 – ヨン・サンホ
製作総指揮 – アルフォンソ・キュアロン、ガブリエラ・ロドリゲス
原作 – ヨン・サンホチェ・ギュソク
脚本 – ヨン・サンホチェ・ギュソクリュ・ジュンヨルシン・ヒョンビンシン・ミンジェ

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