空中ブランコの感想
ノイタミナのアニメ(2008)に先立つこと3年、徳重豊の「Dr.伊良部一郎」(2011)の6年前、2005年にスペシャルドラマが制作されていた。
なぜ今頃再放送したのかというと、阿部寛・堺雅人共演ということで「VIVANT」にあやかろうというのだろう。見当違いも甚だしい。
二人ともかなり若く見えるが、阿部はもう「TRICK」で成功した後であり、堺のほうは「新撰組!」で話題になった直後ではあるが、まだ模索中だった頃と思われる。
原作はいまだに読んだことがないのだが、メンタル不全で職業的な危機に陥った患者を伊良部一郎医師が狂躁的な「治療」で治癒に導くというもの(原作は短編集で直木賞受賞作)。
ノイタミナ版も徳重豊版も、その狂躁ぶりが物語のトーンを支配しており、阿部寛もそれに挑戦しているのだが、やはり徳重豊(その後はすっかりバイプレイヤーになってしまった)の演技がふさわしかったように思う。
狂った治療の表徴として、開いた白衣からFカップのバストがこぼれるお色気ナースが、太い注射(中身はビタミン剤)を患者に打つというのがお約束なのだが(色のついた液体が注入されるのを伊良部医師が固唾を飲んで見守る)、本作では釈由美子が、徳重版では余貴美子がこのナースを演じている。
これも、余のほうが圧倒的に良い。
伊良部医師の治療は意識したものではなく、ドタバタの中でなぜか患者が快癒してしまうというのが原作の面白さなのだが、本作ではまるで阿部寛に洞察力があるかのような演出になっていたのが、やや興醒めであった。
空中ブランコのあらすじ
突然ジャンプが成功しなくなり不眠症で悩む空中ブランコのフライヤー・公平、尖端恐怖症のヤクザ・猪野、誇大妄想で自意識過剰なモデル・広美たちがそれぞれに悩みを抱え精神科医・伊良部のもとを訪れ、カウンセリングを受ける。ところが治療はいつもビタミン注射を打たれるばかりで、その後は好奇心旺盛な伊良部の奇想天外な行動により面食らう患者たちは皆ハプニングに巻き込まれていく。果たして彼らの心の病は治るのか?
空中ブランコを観るには?
空中ブランコ キャスト
マユミ(看護師) – 釈由美子
山下公平(空中ブランコの天才フライヤー) – 堺雅人
安川広美(モデル) – 佐藤仁美
猪野誠司(ヤクザ) – 遠藤憲一
エリ(公平の彼女) – 国分佐智子
内田(空中ブランコのキャッチャー) – 飯沼誠司
丹羽 ‐ 光石研
羽鳥(小児科医) – 西川忠志
原口みどり(健太の母) – 浅野麻衣子
原口健太(みどりの息子) – 武井証
吉安(ヤクザ) – 松重豊
その他 – 俵木藤汰、一青妙、隈部洋平、野口かおる、鈴木葉月、戸沢佑介、渡部彩 ほか
空中ブランコ スタッフ
脚本 – 橋本裕志
演出 – 村上正典(共同テレビ)
サーカス協力 – インターナショナルスーパーサーカス
スタントコーディネーター – 釼持誠
スタント – 伊勢田隆弘
プロデューサー – 関口静夫、橋本芙美(共同テレビ)
企画 – 荒井昭博、保原賢一郎(フジテレビ)
制作 – フジテレビ、共同テレビ
空中ブランコの原作(奥田英朗)
伊良部総合病院地下の神経科には、跳べなくなったサーカスの空中ブランコ乗り、尖端恐怖症のやくざなど、今日も悩める患者たちが訪れる。だが色白でデブの担当医・伊良部一郎には妙な性癖が…。この男、泣く子も黙るトンデモ精神科医か、はたまた病める者は癒やされる名医か!?直木賞受賞、絶好調の大人気シリーズ第2弾。
サーカスの花形、空中ブランコでフライヤーを務める公平は最近失敗ばかり、原因は自分にあるらしい。困り果てて伊良部を訪ねたが、伊良部が自分も空中ブランコに乗ってみたいと言ってきかず……(「空中ブランコ」)
ほかに「ハリネズミ」「義父のヅラ」「ホットコーナー」「女流作家」を収録、直木賞を受賞した絶好調シリーズ第2弾!


