映画1980年代の映画1986年の映画

悪魔のいけにえ2

4.0
キャロライン・ウィリアムズ(悪魔のいけにえ2) 映画
キャロライン・ウィリアムズ(悪魔のいけにえ2)
1986年のアメリカ映画。原題は「The Texas Chainsaw Massacre 2」。1974年のホラー映画『悪魔のいけにえ』の続編。

デニス・ホッパーが塔を上りつめる終盤の充実シーン(悪魔のいけにえ2の感想)

朝の通勤電車に揺られながら、先ごろDVDで見た「ミスティック・リバー」(テレビ画面で見る映画ではない)を反芻するうち、自然、この監督の処女作「恐怖のメロディ」のいくつかのシーンが脳裏に去来し、次いで、眠気のとれない朦朧とした意識に、なぜかよりによって、「悪魔のいけにえ2」の、DJが闇の中で語りかける深夜の地方局スタジオ、じつに執拗に描写されたあの階上の空間が浮かんできて、しかしそれにしても、あの空間は南部テキサス風ではなかったと考える(「恐怖のメロディ」の舞台は、たしかカリフォルニアである)。

DJのヒロインは、十数年前に撮られた前作に絶えまなく流れていたラジオ放送の演出から登場することになったのかもしれないが、それにしても、アメリカ人の、おそらく都市的想像力(なつかしい言葉だ)を刺激した南部テキサスの描写がその続編には希薄で、デニス・ホッパーがくそまじめに被るカウボーイハットぐらいしか記憶に残っておらず、つまりギャグサービスにあふれていて、もしやトビー・フーパーは前作もまたすべてユーモアのつもりで撮っていたのではないかという疑念(それはそれでコワい)が生じる。

カウボーイハットを目深にかぶったデニス・ホッパーが荒唐無稽にチェーンソーを振り回しながら遊園地の地下坑を突き進み、工事中の塔の先端にのぼりつめていく神々しいシーンの充実ぶりを思い出したところで、いかにもトビー・フーパーが好きそうな安手の奇譚を最近テレビで見たことに気がついた。

地方巡回のテントの見世物小屋だかお化け屋敷だかで、アルバイトの少年が人形の腕を過って折ったことから、その人形が本物のミイラだと判明したという事件で、ミイラはじつは西部開拓時代の伝説的なおたずね者のものであり、1950年代まではマンハッタンの片隅にある見世物小屋で展示されていた――番組では、その小屋の入口を写したモノクロ写真がそこで挿入される――というのだが、それにしても、保安官が撃ったライフルの弾がミイラの体内から発見されたことが真相を明かす決め手になったとかいう、その話のなんと映画的なことか。

悪魔のいけにえ2 見どころ

本作は1974年の『悪魔のいけにえ』の続編ではあるが、リアリズムと冷酷な恐怖から一転、ブラックコメディとスラップスティックなゴア表現が全面に押し出された異色作としてホラー映画史に刻まれている。

「スプラッター・コメディ」への方向転換

前作は低予算ながらもドキュメンタリー的な演出で、「実話なのでは?」と思わせるリアリズムが恐怖の核心にあった。
本作は一転、ゴア描写を前面に出し、そこに悪趣味なユーモアを注入している。
トム・サヴィーニによる特殊効果は血まみれかつグロテスクで、人体破壊描写の「見せる恐怖」に振り切っているし、ショッキングなのに笑ってしまうシーンが多く、「恐怖」と「笑い」の間を揺れ動く異様な空気感を生み出している。
この方向性は当時の観客と批評家を二分し、「これはホラーか、コメディか」という論争を巻き起こした。

レザーフェイスの“人間性”の強調

前作ではただの無感情な殺人マシーンだったレザーフェイスが、本作ではどこか思春期の少年のように繊細なのだ。
ヒロインのストレッチに恋心を抱き、チェーンソーを性的なメタファーとして扱うシーンは、純粋さとおぞましさが同居している。彼の内面の「幼児性」と「怪物性」のギャップが、シリーズに独特な不安感をもたらしている。この人間味の付与は、後のシリーズ作品のレザーフェイス像にも影響を与えた。

ソーヤー一家の“グロテスクな家族劇”

本作の大きな見どころは、ソーヤー一家の描写である。
食肉加工場の地下に広がる「カニバルの王国」は、悪夢的なアートディレクションが光る空間であり、一家のリーダー的存在ドレイトン(ジム・シードウ)の「バーベキュー・ビジネス」が示すのは、アメリカの消費文化へのパロディと言える。家族内のやり取りは狂気じみているが、どこかユーモラスで、観客は不気味さと笑いの間で引き裂かれることに。

ストレッチとチョップトップの対決

キャロライン・ウィリアムズ演じるラジオDJのストレッチは、本作の能動的なファイナルガールである。彼女と対峙するのがビル・モーズリイ演じるチョップトップ。
チョップトップは前作にはいなかった新キャラだが、ヒッピー文化の残骸のような狂人で、金属板が入った頭蓋骨をワイヤーハンガーでこすり続ける姿はトラウマ級のショッキングな映像。彼の異常なテンションと、ストレッチのパニックがぶつかり合うシーンは、本作最大の「恐怖と笑いのミクスチャー」と言えるだろう。

80年代ホラーの象徴としての役割

なぜこのようながが生まれたのか。
1980年代のホラー映画が歩んだスラッシャー路線・ゴア志向・メタ的ユーモアのすべてを、本作が体現しているからだろう。
その結果、『死霊のはらわた2』(1987)に先駆けて、スプラッターとコメディの融合に挑戦することになった。“過剰な描写”による恐怖表現の限界突破は、その後のホラーに大きな影響を与えた。
『悪魔のいけにえ2』は、正統派続編を期待した観客を裏切った問題作だが、その異様なユーモア、過剰なゴア、そしてサブカル的カルト性は、公開当時こそ酷評されながらも、今では80年代ホラーのカルト的金字塔として再評価されている。
ホラーにおける「恐怖と笑いの紙一重」を体感したい観客にとって、絶対に外せない一本と言えるだろう。

悪魔のいけにえ2のあらすじ

1974年、サリーは兄や仲間たちを失いながらも、殺人狂のソーヤー一家から逃れ生還を果たした。その後、生き残った彼女はテキサス州で起こったソーヤー一家の事件を警察に通報するが、仲間たちの遺体は発見されず、一家もまた失踪していた。1か月に及ぶ捜査にもかかわらず、未解決のまま事件は幕を閉じた。
それから13年の月日が流れ、テキサス州では旅行者の謎の失踪事件が相次いでいた。テキサス拠点のラジオ局レッド・リバー・ロックンロールのDJをしているストレッチは、ラジオの生出演中に若者たちがソーヤー一家に殺害される実況中継を耳にする。
一方、サリーとフランクリンの叔父レフティは、13年間ものあいだ甥のフランクリンを殺害したソーヤー一家を1人で探していた。一家の殺人中継を聴いたレフティは、親戚の復讐のためホームセンターからチェーンソーを手に入れ、彼らのアジトに乗り込む。

悪魔のいけにえ2を観るには?

悪魔のいけにえ2のキャスト

主要人物
 レフティ・エンライト(前作に登場したサリーとフランクリンの叔父) – デニス・ホッパー
 ヴァンティア・“ストレッチ”・ブロック(テキサス拠点のラジオ局レッド・リバー・ロックンロールのDJ) – キャロライン・ウィリアムズ
 LG(エンジニア担当) – ルー・ペリーマン
ソーヤー一家
 レザーフェイス(殺人鬼) – ビル・ジョンソン
 チョップトップ(前作のヒッチハイカーの双子の兄) – ビル・モーズリー
 コック(ドレイトン)(遊園地「バトルランド」経営者):ジム・シードー
 グランパ(ソーヤー一家の父) – ケン・エヴァート
その他
 バズ(男子高校生) – バリー・キンヨン
 リック(男子高校生) – クリス・ドゥリダス

悪魔のいけにえ2のスタッフ

監督 – トビー・フーパー
脚本 – L・M・キット・カーソン
製作 – メナハム・ゴーラン、ヨーラン・グローバス
製作総指揮 – ヘンリー・ホームズ、ジェームズ・ジョーゲンセン
音楽 – トビー・フーパージェリー・ランバート
撮影 – リチャード・クーリス
編集 – アラン・ヤコボビッツ
製作会社 – キャノン・フィルムズ
配給 – アメリカ合衆国の旗 キャノン・フィルムズ
日本の旗 日本ヘラルド映画
公開 – アメリカ合衆国の旗 1986年8月22日
日本の旗 1986年10月25日
上映時間 – 100分
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