もともとは韓国のインディペンデント映画祭であるチョンジュ映画祭で「三人三色」というプロジェクトの依頼を受けて作った25分の作品で、その後、49分のロングバージョンが2005年ロカルノ国際映画祭コンペティション部門に出品された。狭いコンクリート空間に閉じ込められた男の密室劇を描いており、小型のビデオカメラを駆使し撮影。フィルムで映画を撮り続けてきた塚本晋也が初めてオールデジタル作品に挑んだ。狭い空間の恐怖を描いたスリラー映画だが、この作品を作った塚本自身も閉所恐怖症である。
HAZEの感想
2006年の塚本晋也作品で、「悪夢探偵」より前ということになる。塚本のドアップが9割を占める短編で、痛さの共感を観客に強いる。人間は、というか生き物ってタイヘンだなと思わされる。
HAZEの見どころ
『鉄男』などで知られる塚本晋也が監督・脚本・主演を務めた本作は、肉体の拘束と痛み、そして閉所恐怖を極限まで描き出した短編スリラー。
主人公(塚本晋也)は、暗く狭いコンクリートの空間で目覚め、体を傷つけながらも脱出を試みる。観客もまた、主人公と同じ視点で狭い空間を這いずり回り、痛覚を想像させられるような恐怖を味わう。
カメラは常に主人公に密着し、狭い通路や鉄パイプ、突起物だらけの壁を克明に映し出す。音響は金属音や呼吸音、軋む音が強調され、視覚と聴覚の両方で観客を圧迫し、観る者に息苦しさを体感させる。
主人公がなぜこの場所に閉じ込められたのか、そこがどこなのか、物語の背景はほとんど語られない。
塚本作品の特徴である「観客の想像力に委ねる語り口」により、閉塞した空間が現実なのか悪夢なのか、さらには人間存在の暗喩なのかなど、多義的な解釈が可能だ。
狭い空間を進む過程で出会う血や肉片、そして謎の女性(藤井愛希子)との邂逅は、さながら文明社会のすべてのルールが崩壊した、原始的な世界を思わせる。
塚本は一貫して「肉体と都市」「人間の生存」をテーマにしており、本作はそれを最もミニマルな形で表現した作品といえる。
この映画はわずか数日の撮影期間・低予算で制作されたというが、その極端な空間演出と体感的ホラーは国内外で高く評価された。観客に“痛み”や“息苦しさ”を想像させる体験型映画として、塚本作品の中でも異彩を放っている。
HAZEのあらすじ
目が覚めると、体を動かすこともできないコンクリートの密室に閉じ込められていた男。記憶が曖昧な中、腹部の出血により死が迫っていることを理解する。