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シンプルプラン

3.5
ブリジット・フォンダ(シンプルプラン) 映画
ブリジット・フォンダ(シンプルプラン)
『シンプル・プラン』(A Simple Plan)は、1998年のアメリカ映画。スコット・B・スミスの同名小説をサム・ライミ監督が映画化した。

雪に染みる血と、人間の脆さについての冷徹な寓話(シンプルプランの感想)

惜しむらくは「ファーゴ」の後に撮られた映画だということで、サム・ライミは比べられるのを承知で撮っている。

ビリー・ボブ・ソーントンの兄が哀しく、アメリカ人のコンプレックスを直撃するだろう。

「私はお金を返す人」と断言した5秒後に態度を180°変えるブリジット・フォンダがじわじわコワイ。

シンプルプランの見どころ

本作は、人間の道徳心がいかに脆く、いかに簡単に崩れ去るかを冷徹なリアリズムで描きいた道徳的寓話と言える。
 

『ファーゴ』との共鳴、そして決定的な差異

本作を語る上で、コーエン兄弟の『ファーゴ』(1996年)との比較は避けて通れない。両作が共有する要素は多い。

舞台設定 共に、白一色の雪に閉ざされたアメリカ中西部の田舎町が舞台。この純白の雪景色が、これから起こる悲劇によって流される「血の赤」を鮮烈に対比させる効果的なキャンバスとなっている。
主題 平凡な小市民が、大金を前にした出来心から犯罪に手を染め、雪だるま式に事態が悪化していく。計画は綻び、嘘が嘘を呼び、暴力の連鎖に巻き込まれていく様は両作に共通する。

しかし、両者には決定的な違いがある。『ファーゴ』には、コーエン兄弟特有のブラックユーモアと、フランシス・マクドーマンド演じるマージ・ガンダーソンという絶対的な「良識」と「正義」の象徴が存在する。彼女の存在が、どんなに愚かで悲惨な事件が起きても、世界にはまだ救いがあることを示唆してくれる。

対する本作は、どこまでも冷徹で、救いがない。登場人物全員が、程度の差こそあれ、金という魔物に魂を侵食されていく。ここには笑いはなく、あるのは登場人物たちの焦燥と疑心暗鬼、そして観客を襲う息苦しいほどの絶望感だ。いわば、『ファーゴ』が「悲喜劇」であるならば、『シンプル・プラン』は純粋な「悲劇」なのである。
 

ジェイコブが体現する「アメリカの影」というコンプレックス

ビリー・ボブ・ソーントンがアカデミー助演男優賞にノミネートされたその演技は、本作の魂と言っていい。彼が演じる兄ジェイコブは、知性にハンディキャップがあるように描かれるが、決して愚か者ではない。むしろ、彼は誰よりも純粋で、物事の本質を見抜く瞬間がある。

ジェイコブというキャラクターは、アメリカ社会が抱える複雑なコンプレックスを刺激する存在だ。アメリカン・ドリームという言葉に象徴されるように、かの国は「成功者」を称賛する文化が根強いが、その裏で、成功の梯子から滑り落ちた者、社会の主流に乗れなかった者たちは、「敗者」の烙印を押される。ジェイコブは、まさにその「敗者」の象徴である。定職もなく、兄夫婦の家に世話になり、社会から疎外されている。

しかし、物語が進むにつれて、我々は気づかされる。高学歴で安定した職を持つ「成功者」であるはずの弟ハンク(ビル・パクストン)よりも、ジェイコブの方がよほど人間的な良心や罪悪感に苛まれていることを。
「農場を買い戻して、昔のように家族で暮らしたい」という彼の素朴な夢は、拝金主義に染まっていく弟夫婦の欲望とは対極にある。
ジェイコブの悲劇は、アメリカ社会の光が生み出す、濃い影の部分を観る者に突きつけるのだ。
 

5秒で豹変するブリジット・フォンダの恐るべきリアリズム

そして、本作の最も恐ろしいハイライトが、ブリジット・フォンダ演じる妻サラの変貌である。

夫ハンクが440万ドルの大金を見つけて帰宅した当初、妊娠中の彼女は「警察に届けるべきよ。私はお金を返す人間だもの」と、道徳的な正論を口にする。彼女が自身を「善良で正しい市民」であると規定していることの証明だ。

しかし、そのわずか数秒後。ハンクが金の隠匿計画を口にすると、彼女の表情は一変。
即座に計算を始め、「誰も知らないお金なら、返さなくても誰も困らない」「このお金があれば、子供に何不自由ない暮らしをさせられる」という論理で自らを、そして夫を正当化していく。

この態度の180度の転換は、単なるご都合主義な脚本ではない。人間の本質を突いた、恐るべきリアリズムなのだ。
人は誰しも、自分は道徳的で正しい人間だと思いたいが、その自己規定は、目の前にぶら下げられた「人生を一変させるほどの誘惑」の前では、いとも簡単に崩れ去る。
彼女の変貌は、「もし自分だったら?」という悪魔の問いを、観客一人ひとりの心に深く突き刺す。
物語が進むにつれ、彼女は夫以上に冷徹で、計画の綻びを修正するためには非情な判断さえ下す「影の司令塔」となっていく。
この「ごく普通の善人」が、最も恐ろしい存在へと変貌していく過程こそ、本作の真骨頂と言えるだろう。

シンプルプラン あらすじ

ハンクは妊娠中の妻と田舎町で貧しい生活を送っていた。ある日、ハンク、失業中の兄ジェイコブ、そしてジェイコブの友人ルーは、墜落した自家用機から440万ドルの現金を発見する。この大金が彼らの未来を変えると信じた三人は、現金を自分たちの物にするための「シンプル・プラン」を立てる。しかし、この計画は思わぬ方向へと進み、彼らの人生を大きく変えていくことになる。

シンプルプランを観るには?

シンプルプラン キャスト

ハンク・ミッチェル – ビル・パクストン
サラ・ミッチェル – ブリジット・フォンダ
ジェイコブ・ミッチェル – ビリー・ボブ・ソーントン
ルー・チェンバース – ブレント・ブリスコー
ニール・バクスター – ゲイリー・コール
カール・ジェンキンス保安官 – チェルシー・ロス
トム・バトラー – ジャック・ウォルシュ
ナンシー・チェンバース – ベッキー・アン・ベイカー
レンキンスFBI捜査官 – ボブ・デイヴィス
フリーモントFBI捜査官 – ピーター・サイヴァートセン
ドワイト・スティーブンソン – トム・キャリー

シンプルプラン スタッフ

監督:サム・ライミ
原作・脚本:スコット・B・スミス
音楽:ダニー・エルフマン
衣装:ジュリー・ウェイス
美術:パトリシア・フォン・ブランデンスタイン

シンプルプランの原作


平凡な生活は破壊され、しだいに混沌と恐怖の深みにはまり込んでいく。
ある雪の日の夕方、借金を苦にして自殺した両親の墓参りに向かうため、ハンク・ミッチェルは兄とその友人とともに町はずれの道を車で走っていた。途中ひょんなことから、彼らは小型飛行機の残骸とパイロットの死体に出くわす。そこには、440万ドルの現金が詰まった袋が隠されていた。
何も危険がなく誰にも害が及ばないことを自らに納得させ、3人はその金を保管し、いずれ自分たちで分けるためのごくシンプルな計画をたてた。だがその時から、ハンクの悪夢ははじまっていたのだった。
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