『ラヂオの時間』ってどんな映画?
生放送スタートまであとわずか、深夜のラジオ局。平凡な主婦が書いたありきたりなラジオドラマが、わがままな出演者たちの要求や大人の事情によって瞬く間に姿を変え、制御不能のパニックへと転がり落ちていく。三谷幸喜の記念すべき映画監督デビュー作であり、伏線回収の妙と人間味あふれる笑いを詰め込んだシチュエーション・コメディの傑作だ。
見どころは、熱海を舞台にしたささやかなメロドラマが、アメリカを舞台にした大スペクタクルアクションへと変貌していく狂気的なドタバタ劇。
編成部長の堀ノ内修司(布施明)ら上層部のプレッシャーのなか、野田勉(小野武彦)や、何役も兼任する作家バッキー(モロ師岡)、アナウンサーの保坂卓(並樹史朗)らがマイク前で大混乱。さらに、音効の大田黒春五郎(梶原善)とミキサーの辰巳真(田口浩正)が、あり合わせの道具でダム崩壊や飛行機墜落の「音」を即興で作り上げていく職人技のサスペンスと爽快感が素晴らしい。
APの永井スミ子(奥貫薫)や、のっこのマネージャー古川(梅野泰靖)、後輩タレントの一之瀬弥生(遠藤久美子)らが楽屋裏で火花を散らし、みやこの夫・鈴木四郎(近藤芳正)や守衛の伊織万作(藤村俊二)が局内をウロウロするなか、局内アナウンスが静かに流れる。
さらに、主調整室の斎明寺公彦(市川染五郎)、別番組スタッフの鴨田巌(佐藤B作)、清掃員の山崎ルミ子(宮本信子)、そしてラジオを聴くトラック運転手の大貫雷太(渡辺謙)ら豪華な顔ぶれが、この奇跡の生放送をそれぞれの場所で支え、あるいは見届けていく。
バラバラだった大人たちが、一つの「作品」のためにプライドを捨てて熱くなっていくラストの感動。誰もが妥協を重ねる現実社会のなかで、もの作りの意地と情熱を最高のユーモアで包み込んだ、今なお色褪せないノンストップ・エンターテインメントの傑作だ。
あらすじ
主婦の鈴木みやこが書いたラジオドラマの生放送当日、主演女優・千本のっこのわがままを発端に、役名が外国人になり、舞台はニューヨークへ変更、さらに相手役の浜村錠の対抗心から職業がパイロットへと、設定がなし崩し的に書き換えられていく。プロデューサーの牛島がその場しのぎで要求を呑み続けるため、舞台はシカゴへ移り、挙句の果てには宇宙で遭難するという荒唐無稽なストーリーへ変貌。原作者のみやこが涙を流して抗議するなか、冷徹だったディレクターの工藤は彼女の情熱に動かされ、物語を本来のハッピーエンドへ戻すため、生放送の裏で一世一代の強硬手段に出る。
生放送のタイムリミットが迫るなか、アドリブと即席の効果音、そして全員の意地が奇跡的なラストを紡ぎ出し、ドラマは出番を削られ続けた神父のセリフで感動的に締めくくられる――。
キャスト
鈴木みやこ(ラジオドラマの原作者) – 鈴木京香
牛島龍彦(プロデューサー) – 西村雅彦
■ラジオドラマの出演者
千本のっこ[律子] → メアリー・ジェーン(女優) – 戸田恵子
浜村錠[寅造] → マイケル・ピーター → ドナルド・マクドナルド([律子]の相手役] – 細川俊之
広瀬光俊[ハインリッヒ](タレント) – 井上順
野田勉[丸山神父] → マルチン神父 – 小野武彦
■ラジオ弁天の局員・関係者
堀ノ内修司(編成部長) – 布施明
保坂卓(アナウンサー) – 並樹史朗
バッキー[裁判官、被告人、副操縦士役など端役](放送作家) – モロ師岡
大田黒春五郎(音効スタッフ) – 梶原善
辰巳真(ミキサースタッフ) – 田口浩正
永井スミ子(AP) – 奥貫薫
古川清十郎(のっこのマネージャー) – 梅野泰靖
■その他
鈴木四郎[ジョージ](みやこの夫) – 近藤芳正
伊織万作(守衛) – 藤村俊二
一之瀬弥生(のっこと同じ事務所の後輩タレント) – 遠藤久美子
局内に流れるアナウンスの声 – 八木亜希子、野島卓
■特別出演
斎明寺公彦(主調整室スタッフ) – 市川染五郎
鴨田巌(中浦たか子の番組スタッフ) – 佐藤B作
山崎ルミ子(清掃係) – 宮本信子
大貫雷太(トラックの運転手) – 渡辺謙
テレビ的な発想による、「音」ではなく、「喋り」の映画。
なるほど三谷幸喜というのは長回しにこだわっているのだった。特典として収録されていた「The有頂天ホテル」のスタジオセット紹介を見て初めて気がついた(三谷本人が「ぼくがなぜ長回しにこだわるかというと…」と解説しているのだ)。三谷はそこで、「編集」には、自分が挑戦できるような余地はないと謙遜してみせている。
この映画でも長いワンカットのシーンから入るのだが、監督が認めるであろうように、映画的ななまめかしさといったものは感じられない。
「編集」をあえて捨て去った三谷は、舞台演出に由来するものとして長回しにこだわるわけなのだが、たしかにそこでは芝居のテンポの妙が長回しのリアルタイムの中で再現されているにすぎない。画面のつらなりが計算されたふうもなく(ただし「アングル」にはこだわってみせる)、やはりテレビ的なのである。
じつは伊丹十三の映画を見るのに似たいらだたしさを感じるのだが(宮本信子が出ているのは、伊丹映画になぞらえてもらいたいからではないかと勘ぐってみる)、伊丹のような映画的な画面設計へのこだわりはない。伊丹の場合は、そのこだわりにもかかわらず、結局フィルム的体験とでもいうべきものから隔たっていくところがいらだたしかったわけだが。
ラジオドラマの話であるわけなので、ここでは何よりも「音」が問題になるはずなのに、藤村俊二(奇妙な役者だ)の演じるリタイアした音響マンの、とってつけたような活躍だけでお茶を濁しているのはいかがなものか。
…なんてわざわざ言わなくてもいいように、三谷は「音」の映画ではなく「喋り」のドラマとしてこれを作ったのである。
この発想は、やはりテレビ的であろう。
先日見た「テープ」がモーテルの狭い一室を舞台としながら映画以外の何ものでもなかった(ただし原作は舞台戯曲)のと好対照である。
『ラヂオの時間』を観るには?
『ラヂオの時間』作品情報
脚本 – 三谷幸喜
原作 – 三谷幸喜、東京サンシャインボーイズ
製作 – 石原隆、佐倉寛二郎
製作総指揮 – 松下千秋、増田久雄
音楽 – 服部隆之
主題歌 – 布施明
撮影 – 高間賢治
編集 – 阿部浩英
制作会社 – プルミエ・インターナショナル
製作会社 – フジテレビジョン、東宝
配給 – 東宝
公開 – 1997年11月8日
上映時間 – 103分




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