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血の雨が降るクライマックスシーンは圧巻(空中庭園の感想)
最初に見たのは15年ほど前か。見終えた後の印象が不思議に明るいのは、 小泉今日子の作り笑顔が完璧だからだろう。18歳の 鈴木杏が出ていたので驚いた。
当時39歳の小泉今日子は、会社員の夫(板尾創路)、中学生の息子コウ、高校生の娘(これが鈴木杏)と、グランドアーバンメゾンという「団地」に住んでいる。ルーフバルコニーの空中庭園は幸せな家庭生活の象徴だが、長回しのキャメラはファーストショットから大揺れに揺れ(映画館で見て酔ったという人もいる)、いかにも不安定な印象を与える。
家族のモットーは「隠しごとをしないしない」とされていて、鈴木杏は「私はどこで仕込まれたの?」と聞く。それは「ホテル野猿」だと小泉が答えたので、娘は早速、同級生の 勝地涼とそのラブホを訪れるが、そこは板尾創路が仕事をサボって 永作博美や ソニンとしけこむ場所でもあった。ソニンはコウの家庭教師として頻繁に団地を訪れるようになるので、板尾は大いに慌てる。つまり隠しごとがないどころか嘘だらけの家庭なのだ。
映画の舞台はニュータウンの外れで、最寄駅はセンター北(原作では多摩ニュータウン)。実際に観覧車のあるモザイクモールが、劇中の「ディスカバリーセンター(通称ディスカバ)」というショッピングモールになっている。鈴木杏がそこで勝地涼と待ち合わせたりしているが、噴水階段などのある構造は、ダイニング照明を彩るバビロニア宮殿(空中庭園)に似ている。さらに、鈴木杏をナンパして野猿に連れ込む 瑛太も同じ刺青を入れている。
引きこもりだった小泉今日子は、肺癌で入院している 大楠道代の母親が自分を愛してくれなかった(と思い込んでいる)ために、高校時代から理想の家庭を築く計画を立て、その計画通りに、野猿で受胎し、板尾と結婚したのだというモノローグが入る。
板尾とは5年もセックスを拒んでいるが、それは家族の嘘を大体見抜いているからである。その上で、(ソニンが気づいた通りの)家族による学芸会を続けてきたが、きっぷのいい大楠道代とソニンの撹乱によってそれがほころび始める。
──とまあ、大体そんな話(原作は 角田光代)。瑛太は「赤ん坊は血まみれになり泣きながら生まれて来る」と鈴木杏に言うのだが、ラストシーンでは小泉がその通りの演技をする。かなり長いシーンで、「耳にも目にも血糊が入り、三日はにおいが抜けなかった」と小泉は述懐している。
空中庭園 見どころ
本作は、家族の理想と現実、個々の秘密や葛藤を描き、多くの問いかけを投げかけている。
- 1. 「秘密を持たない家族」という理想通りにいかない
京橋家では「何事も包み隠さず、タブーを作らず、できるだけすべてのことを分かち合う」というルールが掲げられているが、実際には各人が秘密を抱えている。夫・貴史は愛人を持ち、娘・真奈は学校をさぼり、息子・航はラブホテルに興味を持つなど、家族全員が何らかの秘密を持つ。理想と現実が乖離している。 - 2. 「空中庭園」としての家庭
母親・絵里子は、家庭を「空中庭園」のように美しく整えようと過剰に努力し、家族にプレッシャーをかける。その行動は、過去のトラウマや理想の家族像への執着から来ており、結果的に家族は崩壊していく。 - 3. 学芸会のような演技性
家族全員が「秘密を持たない」というルールの下で、理想の家族を「学芸会」のように演じる様子が、家族の本質や人間関係の複雑さを浮き彫りにする。 - 4. 不安定な映像表現
揺れるカメラワーク、波形の磨りガラス状の映像処理などが用いられ、家族の不安定さや絵里子の精神状態を視覚的に表現。不安感や緊張感を観る者に与える。ラストシーンでは、ダイニングテーブルの中央に一輪の白い花が置かれる。過剰な装飾を排したシンプルな美しさを象徴しているのか。
空中庭園 あらすじ
母親は「この家に隠し事はない」と常々言っているが、彼女自身が隠し事をしていた。夫婦のなれそめ自体に彼女のたくらみがあった。しかし彼女は「隠し事がない」理想の家庭を築きたいと願っていたのだ。
ややちゃらんぽらんなところがあり、性懲りもなく浮気をしている父親は、数年前から妻に性交渉を拒否される一方、外に作った女に無邪気に甘えている。 そんな男を愛人は冷ややかに見ている。結婚なんてまっぴらごめんだ。しかし、なぜか、女は男の家を覗いてみたくなる。 そして弟の家庭教師になってその家に入り込む。
登場人物それぞれが、家族について、自分の存在の根本部分について不安を感じている。 彼らが愛し、憎み、無関心ではいられない家族とは何だろう。空中庭園のごとき、不安で、だけれども、清潔で美しい佇まいの家族の肖像を描く。
空中庭園を観るには?
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空中庭園 キャスト
京橋マナ – 鈴木杏
京橋貴史 – 板尾創路
京橋コウ – 広田雅裕
京橋絵里子の兄 – 國村隼
テヅカ – 瑛太
サッチン – 今宿麻美
森崎 – 勝地涼
ミーナ – ソニン
飯塚麻子 – 永作博美(特別出演)
木ノ崎さと子 – 大楠道代
山本吉貴
渋川清彦
中沢青六
千原靖史
鈴木晋介
鈴木卓爾
空中庭園 スタッフ
角田光代の連作短編(2002年11月28日文藝春秋刊、第3回(2003年)婦人公論文芸賞受賞作)を原作として、 劇場公開を控えた2005年8月に豊田監督が逮捕され公開が危ぶまれたが、上映を望む声が多数寄せられ、賛否両論の中、公式サイトや各種媒体にて謝罪の言葉を告知した上で公開規模を縮小して劇場公開に至った。
プロデューサー:菊地美世志
ラインプロデューサー:土井智生
原作:角田光代 『空中庭園』(文藝春秋刊)
監督・脚本:豊田利晃
撮影:藤澤順一
照明:上田なりゆき
録音:柿沢潔 美術:原田満生
衣裳:宮本まさ江
ヘアメイク:小沼みどり、徳田芳昌
編集:日下部元孝
音楽監督:ZAK 楽曲:ヤマジカズヒデ(dip)
エンディングテーマ:詞・歌 UA「この坂道の途中で」
広告写真:ホンマタカシ
『空中庭園』は家族の崩壊と再生を描いた人間ドラマ映画です。この記事で少しでも興味を持たれた方は、ぜひ本編をチェックしてみてください。
空中庭園の原作(角田光代)
郊外のダンチで暮らす4人家族・京橋家のモットーは「何ごともつつみかくさず」。15歳の長女マナが“自分はどこで生を授かったか”を訊ねると、ママはラブホテルで、と教えてくれた。自分が仕込まれたのが近所の「ホテル野猿」だと知って、どうしても見てみたくなったマナは、同級生の森崎くんを誘って行ってみた……。家族ひとりひとりが、そのモットーとは裏腹に、閉ざしたドアの中に秘密を持ちながら、仲の良い「家族」を演じているさまを鮮やかに描く連作家族小説。