松たか子の台詞はなぜ人を涙ぐませるのか(スロウトレインの感想)
2024年末・2025年始は 野木亜紀子アワーでもあった。
年末に「海に眠るダイヤモンド」が大団円を迎え、年明けに本作を見たので、くだらないドラマを観る時間の無駄を、つくづく感じてしまった。
本作はTBSを定年退職する 土井裕泰の最後の企画とのことで、「松たか子に当て書きする日が来るとは!」と野木が意外な呟きをXに投稿しているという記事を読んだ。
土井は「カルテット」のチーフプロデューサーでもあるのだが、松たか子は 坂元裕二と野木をつなぐ女優になるようなのだ。
野木自身は、本作を「コタキ兄弟と四苦八苦」に近いものと位置づけるが(本作には 古舘寛治も出ている)、観る側にとっては、今や野木作品は、長い 新垣結衣時代から「アンナチュラル」「ェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話」を経て、「海の中のダイヤモンド」で3人の女優をみごとに描き、そして松たか子に至って、より大きな物語へ変容しているように思う。
まあ、逃げ恥的な社会と人生の齟齬も抜け目なく(というかごく普通に)背景に織り込む手際の良さも健在ではあるのだが(このへんは主に星野源が担う)。
松たか子が演じるのは、鎌倉在住の編集者である。
両親と祖母を亡くした妹弟に母権をふるう長姉でもあるのだが、妹(多部未華子)は急に韓国に行くと言い出し、弟(松坂桃李)はいつのまにか担当作家の星野源と恋人関係になっていた。
つまり、それぞれが人生の転機にあるわけだが、二人とも結婚しない姉に忖度して先に進められずにいて…というストーリーは、ドラマとしてはありふれたものだ。
しかし脚本は、妹弟や周辺人物(池谷のぶえが良い)との関係の中で思いあぐねる松の心情を細やかに描く。
江ノ電に揺られながら、
ゴールはわからなくても次の駅は見えています。次は、腰越。その次は鎌倉高校前。その次は七里ヶ浜。次は稲村ヶ崎、極楽寺、長谷、和田塚、鎌倉。
と松が幼い妹弟に言い聞かせる回想シーンが終盤にあり、一体この台詞の何が人を涙ぐませるのだろうか、といささか狼狽しながら考えてしまった。
松は美しい「盆石」を取材して企画本を編集しているのだが、このあたりは「海の中の…」で神木隆之介が自らぎやまん作りに没頭するのと通底している。
スロウトレインのあらすじ
渋谷葉子と妹・都子、弟の潮が両親と祖母の二十三回忌を終えて江ノ電に乗っていると、都子が「今度、韓国の釜山に引っ越す…」とサラッと爆弾発言をして葉子と潮(2人は鎌倉の実家に住んでいる)を驚かせる。葉子は都子からなぜ韓国に行くのか聞こうとするが、都子はどうせ話しても説教されるだけだと話そうとしない。また、葉子は前に担当していた人気作家の百目鬼見から、最近恋をしているのか?マッチングアプリを使ってみろとアドバイスされていた。都子は葉子が出張したタイミングを見計らって週末に実家に帰ってくるが、出張は嘘で、クローゼットから葉子が出てきた。潮は週末は1人で過ごすと思っていたので恋人を呼んでいた。その人物はなんと…。
スロウトレインを観るには?
スロウトレインの見どころ
ドラマ『スロウトレイン』は、2025年1月2日にTBS系で放送された新春スペシャルドラマで、脚本を野木亜紀子、演出を土井裕泰が手掛けた。主演は松たか子で、多部未華子、松坂桃李、星野源、チュ・ジョンヒョクなどが共演。物語は、鎌倉に住む3姉弟が両親と祖母を一度に亡くした後、それぞれの人生の分岐点に立ち向かう姿を描いている。
- 見どころ1. 家族の絆と個々の幸せの追求
3姉弟が「3人での幸せ」から「それぞれの幸せ」へと向き合う過程を描いたドラマ。長女・葉子(松たか子)は家族を支える責任感が強く、次女・都子(多部未華子)は自由奔放な性格で、弟・潮(松坂桃李)は控えめながらも家族を支える存在。それぞれが異なる価値観や人生観を持ち、時には衝突しながらも、最終的には互いを理解し、支え合う。 - 見どころ2. 多様性と現代の家族像の描写
潮と作家・百目鬼(星野源)が男性カップルとして描かれており、多様性を自然に取り入れた現代の家族像を表現。葉子が「子を残さない人生」を選択するなど、従来の家族観にとらわれない生き方が肯定的に描かれている。 - 見どころ3. 日常の中の小さな営みの尊さ
特別な出来事ではなく、日常の中の小さな出来事や感情に焦点を当てている。日々を営み、ただ生きているだけでいいというメッセージがある。 - 見どころ4. 映像美と舞台設定の魅力
鎌倉や釜山の風景が物語の舞台。江ノ電や釜山の電車が登場するシーンは、タイトルの『スロウトレイン』とリンクし、物語のテーマを象徴している。
スロウトレインのキャスト
渋谷都子(葉子の妹) – 多部未華子(22年前:毎田暖乃)
渋谷潮(葉子と都子の弟で江ノ電の保線員) – 松坂桃李(22年前:高木波瑠)
周辺人物
百目鬼見(人気作家) – 星野源
オ・ユンス(飲食系投資会社で働く青年) – チュ・ジョンヒョク
目黒時生(葉子の元彼) – 井浦新
矢作カンナ(日々茶書房の編集者) – 松本穂香
二階堂克己(重鎮作家) – リリー・フランキー
浅井道枝(日々茶書房の編集者) – 池谷のぶえ
保坂颯太(江ノ電の保線員) – 倉悠貴
谷(二階堂行きつけのバーのマスター) – 古舘寛治
日々茶書房 社長 – 菅原大吉
エイジ、B作、シーマン(葉子がアプリ「会い活」でマッチングして会った男性たち) – 飯塚悟志(東京03)、有田久徳、宇野祥平
永島(盆石の家元) – 永島三奈子(勝野玄瑛)
江波、荒木、伊藤、宇野(盆石の生徒たち) – 中村優子、大西多摩恵、水木薫、枝元萌
男性(百目鬼見を取材するスタッフ) – 遊屋慎太郎
竹芝、店員(「TOKYO Konoha Sabou」の後任店長と店員) – 野田美弘、藤田宏樹
老夫婦(潮が洗濯物を拾ったことを憶えていて礼を言う老夫婦) – 古川がん、吉田幸矢
ジフン、スンヒョク(オ・ユンスの先輩) – 남지우(Nam Ji Woo)、이진성(Lee Jin Sung)