あれこれの映画をつき混ぜたような……(バード・ボックスの感想)
謎の異変(“外”を見ると自死衝動が止まらなくなる)のために文明が崩壊するという話で、この映画の10年前に公開された「ハプニング」に酷似している。ナイト・シャマランの映画では植物相の叛乱がほのめかされていたが、本作では木々のそよぎでも日光でもなく、昼夜も関係なく、何がどう“外”なのか、まったく定かではない。
家に閉じこもってカーテンを閉めれば安全なのだが、外に出るときは目隠しが必須という設定で、視界を奪われた人々がフラフラ歩く姿は「ブラインドネス」(これも「ハプニング」と同じ年)を思い出させる。
電子カメラの映像なら外を見ても大丈夫なんじゃね?と言い出す人物が序盤にいて、「おお!」と思ったらやっぱり狂ってしまった。あと食料調達にスーパーに行くために車を出すのだが、前後左右の窓を覆い、カーナビ画面だけで運転するのがちょっと新鮮だった。
前半はパニック映画の籠城パターンで、サンドラ・ブロック(なぜか妊娠している)をはじめとする十数人のコミュニティを描いており、その平穏が闖入者によって破られ、クライマックスはついに一人になったサンドラが生まれた子どもたちと新天地を目指す展開になる。
新天地にたどり着くために急流川下りをしなければならない(メリル・ストリープの「激流」を彷彿とさせる)という展開はかなり唐突なのだが、このクライマックスは、映画の始まりから半回想シーンで入れ子になっているので観客は受け入れざるを得ない。そしてたどり着いたのはほとんど天国、というハッピーエンドで終わるのだが、ここまでの説明を読めばわかるように、あれこれのジャンル映画をつき混ぜたような映画である。
サンドラは「父親(カウボーイ)が特殊だった」「狼と育った」という野生的な女の設定で、これはかなり似合っている。さまざまな顔を見られる映画としてサンドラファンには外せないところだ。
バード・ボックスのあらすじ
未曾有の謎の異変に襲われ、世界の終焉と人類の滅亡が迫る近未来世界。異変が次々と起こる中、生き残るためにできることは、決して“それ”を見ないということだけだった。
思いがけず子供を身ごもったマロリーは、幼い命を守るため、目隠しをして命懸けの逃避行に出る。
バード・ボックスを観るには?
バード・ボックス 考察のポイント
『バード・ボックス』は、視覚という感覚を制限することで、現代社会の問題や人間の内面を浮き彫りにしており、多くの視聴者に衝撃と考察を与える。続編として『バード・ボックス バルセロナ』も制作され、さらなる世界観の拡張も図られた。
- 見ることの危険性と情報社会への風刺
本作の最大の特徴は、「見ること」が死に直結するという設定。現代の情報過多な社会において、過剰な視覚情報やSNSの影響が人々の精神に与える負荷を象徴している。目を閉じることで初めて他者との真のつながりや自己の内面と向き合えるというメッセージが込められている。 - タイトル「バード・ボックス」の意味
劇中で登場する鳥たちは、見えない脅威の接近を察知し、人々に警告を与える。鳥は古来より自由や希望の象徴とされており、閉ざされた世界の中での希望の光である。、鳥たちが収められた箱(バード・ボックス)は、人間の心の中にある希望や感情を閉じ込めた象徴と解釈できる。 - 人間関係と孤独のテーマ
主人公マロリーは、他者との関係を避け、孤独を選んで生きてきたが、終末的な状況の中で他者と協力し、子供たちと心を通わせることで徐々に変化していく。困難な状況に直面した人間にとって、他者とのつながりや共感がいかに重要であるかを示している。 - 謎の存在「それ」の正体と精神的影響
劇中で人々を死に至らしめる「それ」は、具体的な姿を持たず、見る者の最も深い恐怖やトラウマを引き起こす存在。個人の内面に潜む不安や罪悪感が外的な脅威として現れるという心理的なメタファーと解釈できる。「それ」は宗教的な堕天使や悪魔の象徴であり、人間の弱さや罪を映し出す存在であるのかもしれない。 - 結末と希望の象徴
終盤、マロリーたちは視覚障害者のコミュニティにたどり着き、そこでは「見ること」が必要とされず、人々が平和に共存している。この結末は、視覚に頼らずとも他者とつながり、共に生きることの可能性、希望の象徴であろう。
バード・ボックスのキャスト
トム – トレヴァンテ・ローズ
ダグラス – ジョン・マルコヴィッチ
ジェシカ – サラ・ポールソン
シェリル – ジャッキー・ウィーヴァー
ルーシー – ローサ・サラザール
オリンピア – ダニエル・マクドナルド
チャーリー – リル・レル・ハウリー
ゲイリー – トム・ホランダー
フェリックス – コルソン・ベイカー
グレッグ – B・D・ウォン
リック – プルイット・テイラー・ヴィンス
少女 – ヴィヴィアン・ライラ・ブレア
少年 – ジュリアン・エドワーズ
ラファム医師 – パーミンダ・ナーグラ
リディア – レベッカ・ピジョン
サマンサ – エイミー・ガメニック
ジェイソン – テイラー・ハンドリー
リバーマン – ハッピー・アンダーソン
マローダー – デヴィッド・ダストマルチャン
バード・ボックスのスタッフ
脚本 – エリック・ハイセラー
原作 – ジョシュ・マラーマン
製作 – ディラン・クラーク、クリス・モーガン、バルバラ・ムスキエティ、スコット・ステューバー、クレイトン・タウンゼント
製作総指揮 – サンドラ・ブロック、スサンネ・ビア、エインズリー・デイヴィス、アレクサ・フェイジェン、ライアン・ルイス、エリック・ハイセラー
音楽 – トレント・レズナー、アッティカス・ロス
撮影 – サルヴァトーレ・トティーノ
編集 – ベン・レスター
公開 – アメリカ 2018年12月14日
上映時間 – 124分
バード・ボックスの原作を英語で読もう!
もし外を見たら…もう手遅れだ
マロリーは、できる唯一の方法で子供たちを育てる。室内で扉に鍵をかけ、カーテンを閉め、窓にはマットレスを釘で固定。子供たちは廊下の向かい側の寝室で眠っている。彼女は彼らを起こし、目隠しをしなければならなくなる。今日は、すべてを賭ける日――家を出る日だ。
ジョシュ・マラーマンのニューヨーク・タイムズベストセラー『バード・ボックス』は、読んだ後も余韻の残る恐ろしい心理スリラーである。