松本清張の短編小説(初出『小説新潮』1955年12月号、1956年10月に短編集『顔』収録)を原作として、1958年に松竹で映画化されたほか、数度にわたりテレビドラマ化。
松竹大船製作、松竹配給にて1958年1月15日に公開された。野村芳太郎が清張原作映画の監督を務めたのは、本映画が第1作となる。脚本は橋本忍が、クレジットされていないものの助監督は山田洋次[注釈 1]が務めた。1958年度キネマ旬報ベストテン第8位に選出され、1989年「大アンケートによる日本映画ベスト150」(文藝春秋発表)では第94位にランキングされている。
2011年のドラマはこちら
原作は30ページ足らずの短編にもかかわらず、11回もドラマ化されているのは、最初に映像化した本作が念頭に置かれているからだろう。回想シーンなども巧みに取り入れた橋本忍の脚本で、映画は116分楽しませる。
ドラマ諸作では全国各地に置き換えられているが、原作の舞台「S市」は作者も佐賀がモデルと語っている。本作は原作に忠実であり、新聞記者を避けて省線で迂回した二人の刑事が横浜駅から夜行急行「さつま」に飛び乗り(実際には「つくし」らしいが)、半日以上かけて佐賀駅に辿り着くという鉄道ファンが目を離せないシーンが12分も続く。タイトルが出るのは商人宿「肥前屋」に落ち着いてからで、観る者に東京からの「遠さ」を強く印象づける。
肥前屋のシーンは大船で撮影されたものだが、2階に陣取った大木実にも、肩越しに見下ろされる高峰秀子の姿にもピントがあった撮り方をしていて、臨場感たっぷりである。とはいえ、監視対象の高峰の表情はほとんど判別できず、終盤、大木実がついに高峰に声をかけるところで初めて顔がアップになる。驟雨の中で高峰が鼻緒を切らしてしゃがみ込むエロティックなシーンがあるが、そこでも女優の表情はわからない。
終盤に高峰が乗るバスを追って山道を飛ばすタクシーを捕らえた長い空撮シーンがあり、ここらへんの編集は非常に巧い。
キャスト
大木実(柚木隆雄刑事)
宮口精二(下岡雄次刑事)
高峰秀子(横川さだ子)
田村高広(石井キュウイチ)
菅井きん(下岡の妻・満子)
竹本善彦(下岡の長男・辰男)
清水将夫(さだ子の夫・仙太郎)
伊藤卓(仙太郎の長男・隆一)
高木美恵子(仙太郎の長女・君子)
春日井宏行(仙太郎の次男・貞二)
内田良平(石井の共犯者・山田庄吉)
高千穂ひづる(柚木の恋人・高倉弓子)
藤原釜足(弓子の父)
文野朋子(弓子の母)
町田祥子(弓子の妹)
高木秀代(弓子の妹)
磯部玉枝(弓子の妹)
浦辺粂子(旅館の女主人)
山本和子(旅館の女中・秋江)
小田切みき(旅館の女中・喜和子)
川口のぶ(銭湯の娘・信子)
北林谷栄(信子の母)
玉島愛造(銭湯の釜焚き)
南進一郎(深川署署長)
近衛敏明(深川署刑事課長)
松下猛夫(深川署刑事)
土田桂司(深川署刑事)
鬼笑介(深川署刑事)
芦田伸介(捜査第一課長)
大友富右衛門(佐賀署署長)
多々良純(佐賀署刑事)
小林十九二(洗濯屋の主人)
清水孝一(洗濯屋の小僧)
大友純(飯場の親方)
山本幸栄(町工場の主人)
草香田鶴子(製本屋のおかみ)
末永功(血液銀行の係員)
福岡正剛(タクシーの運転手)
今井健太郎(巡査)
竹田法一(関西弁の男)
小林和雄(ある通行人)
稲川善一(郵便屋)
スタッフ
監督:野村芳太郎
脚本:橋本忍
撮影:井上晴二
音楽:黛敏郎
美術:逆井清一郎
録音:栗田周十郎
編集:浜村義康
照明:鈴木茂男