2000年のアメリカ映画。原題は「Memento」。ジョナサン・ノーランによる短編小説『Memento Mori』(当時未公開)をクリストファー・ノーラン脚本・監督で映画化。妻を殺されそのショックから10分間しか記憶を保てないという記憶障害を抱えることになった主人公レナード・シェルビーが、妻を殺害した犯人を探す過程を描き、ストーリーの時系列を逆向きに映す革新的な内容が口コミで広がり、封切り時に11館だった上映劇場が500館以上に拡大、10週目に全米チャート8位にランクインした。アカデミー賞において脚本賞、編集賞にノミネートされるなど、興行的にも批評的にも高く評価された。
メメントのあらすじ
本作品は、物語が逆行するカラーシークエンスと、時系列順に映し出される白黒シークエンスを交互に展開し、最終的に両者が一体となる構造をとっている。
記憶が短く持続する主人公レナードの視点で進行し、彼は強盗事件後の前向性健忘症に苦しみながら、全身に刻まれたタトゥーやポラロイド写真、メモを頼りに「妻を強姦し殺害した犯人『ジョン・G』」を追う。電話で協力者から、かつて保険調査員として出会った記憶障害の男「サミー」の話や、犯人に関する情報を得たレナードは、テディやナタリーと関わりながら事件の真相へ迫る。
次第に、テディが実は麻薬捜査官であり、真犯人は既に殺されていたこと、またレナード自身が語るサミーのエピソードは罪の意識を逃れるための作り話であり、実は妻が絶望の果てに自らの手で彼に致死量のインスリンを注射した結果であることが明かされ、現実と記憶の境界に苦悩するレナードの姿が浮かび上がる。
たえず失われていく始まり(メメントの感想)
フィルムノワールふうのタイトルバック映像(ポラロイドを振る指先のせっかちで薄情な動きが、なんとも官能的なのだが)を除けば、この映画を最後まで見届けた観客がそう思い込んでしまうように、実際にリバースしている映画というわけではない。
つまり、ガイ・ピアースやキャリー=アン・モスが後ろ向きに歩いたり、吸っている煙草の灰が次第に短くなっていく様子が映し出されているわけではなく、あくまでも10分間で区切られたシークエンスが逆の順番で並んでいるに過ぎない。
したがってこれは決して編集の映画なのではなく、やはりというか、脚本の映画であると言える。
実際、多くの観客は、映画がどのように撮影されているかを知っており、それはもちろんプロットの時系列順に行われたりしない。
プロット自体、回想や場所の異なる同時間の出来事などを扱い、それを恣意的に混乱させることによる、いわゆる「どんでん返し」をちょうどクライマックスにあたる箇所に設けたりもするのだから、プロットと時系列はさして関係があるわけでもなくて、時系列を意識するのはきまって観客なのである。
そう考えれば、「メメント」は、時系列が恣意的に乱されているさまを描いた映画──「スローターハウス5」や「キャッチ=22」、あるいは(この映画を引き合いに出すのも、もう飽きたが)「マルホランドドライブ」のような)映画──と同列に論じられなければならないのかもしれない。
ただし、「メメント」においては、恣意的なシークエンスを生きているのは主人公だけであって、観客にとって各々のシークエンスはあくまでも律儀に逆順に並んでいる。この律儀さは、たとえば完全に不可逆な時間軸のプロットをなぞるヒチコックの「ロープ」の軽妙な律儀さとくらべると、重く残酷なものであり、それが「メメント」の暗さを生んでいる。
シークエンス内の10分間において、時間は損なわれることなく流れるわけなのだが、実際の順行性健忘症とは、エスカレータのように特定の区間からあふれる記憶がつねに失われていくというものなのではないか。
映画の中でそれは「人と会話しているうちに話題を忘れてしまう」と二度説明されるが、たえず失われていく時間(はじまりが失われていく記憶)は映像化できないもののように思える。
もっとも、そんな言い方もまた不毛なのであって、じつはあらゆる映像は記憶にとどめることなどできず忘れ去られる運命にある。だから人は繰り返し映画を見続け、新しい記憶を見出しつづけるのだ。
銃弾に追われながら自動車の間を走りぬけるガイ・ピアースが唐突に「なぜ俺は走っているのか」と自らに問う瞬間、映画は、見とどめようもなく、観客の記憶を更新しているのである。
メメントのキャスト
レナード・シェルビー(保険会社の調査員) – ガイ・ピアース
ナタリー(謎の女性) – キャリー=アン・モス
テディ(刑事) – ジョー・パントリアーノ
バート(モーテルのフロント係) – マーク・ブーン・ジュニア
レナードの妻(故人) – ジョージャ・フォックス
サミュエル・“サミー”・ジャンキス(レナードがかつて担当していた顧客) – スティーヴン・トボロウスキー
ジャンキス夫人(サミーの妻) – ハリエット・サンソム・ハリス
ドッド(レナードを襲う謎の男) – カラム・キース・レニー
ジミー(ナタリーの行方不明の恋人) – ラリー・ホールデン
ウェイター – ラス・フェガ
ドクター – トーマス・レノン
ブロンドの娼婦 – キンバリー・キャンベル
刺青師 – マリアンヌ・メラリー
メメントのスタッフ
監督 – クリストファー・ノーラン
脚本 – クリストファー・ノーラン
原作 – ジョナサン・ノーラン『Memento Mori』
製作 – ジェニファー・トッド、スザンヌ・トッド
製作総指揮 – クリス・J・ボール、アーロン・ライダー、ウィリアム・タイラー
音楽 – デヴィッド・ジュリアン
撮影 – ウォーリー・フィスター
編集 – ドディ・ドーン(英語版)
制作会社 – サミット・エンターテインメント、チーム・トッド
配給 – アメリカ サミット・エンターテインメント、日本 東芝、アミューズピクチャーズ
公開 – アメリカ 2000年9月3日、日本 2001年11月3日
上映時間 – 113分
メメントを観る
メメントを観た人の感想
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1回目の鑑賞では
時空と色彩と思惑が入り混じって、
未知の世界で迷子になってしまうような感覚を
味わうかもしれません。
私もそうでした。それも一興。
【映画掘り下げ】「メメント」の超難解な謎解きをすっきりさせる地図を描いてみました。(たくまる) -
記憶で自分が作られている、と最後にレナードは語ります。では記憶のないレナードは何者なのでしょうか。
映画『メメント』解説&考察 ※ネタバレ有り(さとこ・ゴリラ) -
もしレナードが、『インセプション』のエンディングと同じようにコマを回したらば、そのコマは回り続けるのか、それともやがて止まるのか。その正解は世界でただ一人、クリストファー・ノーランが知るのみである。
超・難解映画『メメント』時系列を整理すると…?実は全てが存在しない?もう一つの“新解釈”とは?図解ありで徹底考察【ネタバレ解説】(竹島ルイ FILMAGA)