「なぜ」の答えはなく、ただ受け入れるしかない映画(Cloud クラウドの感想)
「 Chime」はまだだけど、本作と「 蛇の道」はすでにアマプラで見ることができてしまうのである。映画館でないのは残念だけど、テレビスクリーンで見られることを想定しているような映画ではあった。
いつもと少し違う空気をまとう 菅田将暉は転売ヤーで、買い叩いた商品を高値で売って小金を稼いでいるのだが、それ以外のすべてに無関心なため、無自覚なまま次々と敵を作っていく。恋人の 古川琴音のことは大事にしているようでもあるが、それでも転売商品の方が大事なようで、古川が出ていってもさほどショックは受けていない。
そこで後半は菅田をリンチにかけようとネットで盛り上がった者らをはじめ、ライフルを持った 荒川良々(工場勤務の元上司)、同じ転売ヤーの 窪田正孝(高専の元先輩)などに拉致られることになり、このあたりから違う映画になっていく。前半には不穏さが満ち満ちていたのだが(中でも格別に不穏なのは「自動車」である)、それが顕在化する格好である。
菅田が拉致された工場に駆けつけるのが、転売仕事のために菅田が雇ったバイトの 奥平大兼(「 御上先生」にも出ている)で、裏組織?につながる 松重豊から受け取ったピストルを乱射して、やたらと長い銃撃戦シーンになる。これがやりたかったのかと思いつつ、それにしてもあまりの不均衡ぶりに観る者は唖然とし、ただそれを見つめるしかない存在になる。
なぜ助けてくれるのかと問う菅田に、奥平は「アシスタントですから」と答えて爆笑を誘うのだが、それがオカシイのは全然答えになっていないからだ。「なぜ」の答えはないのである。
銃撃戦は定石通りに決着し(ボス格の窪田正孝がロッカーに隠れているのは誰にでもわかる)、情勢を見きわめていた古川琴音も定石通りに裏切って死ぬ。観る者はここでもそれを受け入れるしかない。
ラストはスクリーンプロセスに映るこの世の終わりのような空に向かって(菅田は「地獄」と言っている)車を走らせる菅田と奥平の二人を映して映画は終わる。奥平は地獄の使者なのだろう。
Cloud クラウド 考察ポイント
『Cloud クラウド』は、現代社会の闇や人間の内面に潜む恐怖を鋭く描いた作品であり、多くの考察や議論を呼んでいる。観客に明確な答えを提示するのではなく、様々な解釈の余地を残すことで、より深い思索を促す映画と言える。
- タイトル「Cloud」の多層的な意味
「Cloud」というタイトルは、インターネット上のクラウドサービスを指すと同時に、曖昧で実体のない「雲」のイメージとも重なり、現代のネット社会における匿名性や、実体のない情報の拡散が引き起こす恐怖を象徴している。劇中で描かれる「見えない悪意」が、まるで雲のように広がっていく様子ともリンクしている。 - 主人公・吉井の転売業と現代社会の風刺
吉井は、転売で生計を立てる若者であり、ネット上では「ラーテル」というハンドルネームで活動している。その行動は現代の消費社会や物質主義、そして他者への無関心を象徴しており、その結果として彼自身がネット上の憎悪の対象となっていく。この描写は、現代社会における人間関係の希薄化や、自己中心的な行動がもたらす危険性を浮き彫りにする。 - 佐野の正体と象徴性
吉井が雇うアシスタントの佐野は、物語の中で重要な役割を果たしている。その正体や目的は明確ではないが、吉井の良心や救済を象徴する存在であるようだ。佐野の登場によって物語が急展開し、吉井の運命が大きく変わっていく。 - ジャンルの転換と演出手法
前半がサスペンス、後半がアクションと、ジャンルが大きく転換する。黒沢作品に特有の「半透明のシートを使った演出」が、本作でも効果的に用いられており、現実と非現実の境界を曖昧にしている。観客に不安感や緊張感を与えると同時に、物語の象徴性を高める効果がある。 - ラストシーンの解釈とメッセージ
吉井は、ラストで車で雲の中を走りながら「地獄だ」とつぶやく。この場面は、彼が逃れようとした社会や自分自身の行動が、結局は自らを追い詰める結果となったことを示す。雲の中を走る車は、現代社会における人々の孤独や不安、そして逃れられない現実を暗示している。
Cloud クラウドのあらすじ
吉井良介(菅田将暉)は町工場で働きながら「ラーテル」というハンドルネームで転売業を営んでいるが、工場での昇進の打診を断り、転売業に専念するため恋人の秋子(古川琴音)と郊外の湖畔に移住する。地元の青年・佐野(奥平大兼)をアシスタントに雇い、順調に見えた新生活だったが、次第に吉井の周囲で不可解な出来事が起こり始める。吉井が知らぬ間に撒き散らした憎悪がネット上で増幅し、実体を持つ集団狂気へと変貌し、吉井は“狩りゲーム”の標的となって、日常が急速に崩壊していく。
Cloud クラウドを観るには?
Cloud クラウド キャスト
秋子(吉井の恋人) – 古川琴音
佐野(バイト青年) – 奥平大兼
三宅(ネットカフェで生活する青年) – 岡山天音
殿山宗一(町工場の社長) – 赤堀雅秋
矢部(謎の男) – 吉岡睦雄
井上(人生を見失った男) – 三河悠冴
殿山千鶴(殿山の妻) – 山田真歩
北条(警察官) – 矢柴俊博
室田(模型店店主) – 森下能幸
猟師 – 千葉哲也
松重豊
滝本(工場社長) – 荒川良々
村岡(先輩) – 窪田正孝
Cloud クラウド 作品情報
音楽: 渡邊琢磨
インスパイアソング:[Alexandros]「Boy Fearless」
製作:永山雅也、太田和宏、臼井正人、松本拓也、五十嵐淳之
エグゼクティブプロデューサー:福家康孝、新井勝晴
プロデューサー:荒川優美、西宮由貴、飯塚信弘
企画協力:石田雄治
撮影:佐々木靖之
照明:永田ひでのり
美術:安宅紀史
録音:渡辺真司
装飾:松井今日子
編集:髙橋幸一
音響効果:柴崎憲治
スクリプター:柳沼由加里
衣装:纐纈春樹
ヘアメイク:梅原さとこ
助監督:海野敦
制作担当:相良晶
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(日本映画製作支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
制作プロダクション:日活、ジャンゴフィルム
製作幹事・配給:日活、東京テアトル
製作:「Cloud」製作委員会(日活、東京テアトル、USシネマ、読売テレビ放送、ムービーウォーカー)