エクステリトリアルの感想
密室で子どもがいなくなる映画としてはジョディ・フォスターの「フライトプラン」(2005)があり、またクライマックスで閉じこもるセキュリティルームも同じくジョディ・フォスターの「パニックルーム」(2002)を思い起こさせる。
もっとも、「最初から子どもはいなかった」と関係者が証言する映画としては、1938年の「バルカン超特急」(これは子どもではなく老婆だが)、1965年の「バーニー・レイクは行方不明」など数え切れない。クリント・イーストウッドの「チェンジリング」(2008)では、アンジェリーナ・ジョリーの息子がいなくなり、数ヶ月たって警察は関係ない少年を連れてくる。「私の息子じゃない!」と訴えるアンジョリは哀れ精神病院に入院させられてしまう。
という具合に、この発端からは、たいてい、もっぱらパラノイアックなストーリー展開になる。本作でもヒロインのジャンヌ・グルソーはアフガニスタンにも赴任した元特殊部隊兵で、PTSDを患って服薬しており(ヘリコプターを認めると混乱してアバレてしまう)、本当に息子を連れてきたのか自分でもわからなくなりかける(どんな映画でも、アイデンティティが揺らぐ瞬間は、いつもディックの小説を思わせる)。
舞台はフランクフルトのアメリカ領事館で、一度入ると簡単には出られないし、警察も入れない治外法権(これがタイトル)で、つまりジョディー・フォスターの映画と同じようにひとつの密室空間と言える。
ところでアメリカ同様、ドイツでも社会は退役軍人に厳しいらしい(この映画の黒幕も同じ境遇にあることが最後に明かされる)。グルソーは事態を打開するために夫のいたアメリカに移住するためにビザを取りに来たのである。
8歳の息子は落ち着きがなく、人目を気にしたグルソーは遊戯室に彼を連れていき、自販機でコーヒーを買って戻ると、子どもはいなくなっていた。
警備部責任者のダグレイ・スコットは「誰も子どもを見ていない。あなたはひとりでここへ来た」と言う(中盤では、子どもの姿を消したフェイク映像をタブレットで見せる)。グルソーは電話を借りドイツ警察に救いを求めるが、治外法権なので施設には入れないと言われる。
ここから、特殊部隊のスキルを使ったアクションに突入するのだが、グルソーは1センチほどしかない窓枠を伝って機密エリアに侵入(失敗して4、5メートル落下したりしているのだが)。そこに監禁されていたレラ・アボヴァと遭遇する。彼女はベラルーシの大企業経営者の娘で、父の行ったマネーロンダリングの証拠データを隠し持っているので「保護」されていた。レラは自分の脱出を手助けしうることを条件にグルソーの息子捜しに協力することに。
レラを誘拐しようとする男たちなどが現れ、グルソーとのアクションになる。アメリカ映画なら特殊部隊のスキルで瞬殺するところだが、ここで展開されたのは華麗というにはほど遠く、重く、痛そうなアクションであり、段取り的な型を感じさせないものだった。上述したように窓枠伝いも落下したりしているので、グルソーはスーパーヒーローではなく、話が進むにつれ、どんどんボロボロになっていくのである。
ダグレイ・スコットの部下のPCに侵入したグルソーは、もともと自分の情報が完全に把握されており、渡米してアメリカの警備会社に就職するという予定自体、ダグレイが描いたシナリオだったことを知る。そもそもグルソーと息子を巻き込んだ理由は、レラの誘拐をカモフラージュする目的だったらしいのだが、グルソーがあっさり撃破してしまったためにすべての予定が狂ったということらしい。ダグレイは、夫の死んだアフガニスタンの奇襲を手引きした裏切り者でもあり、そのほかにもいくつも汚職を行っている悪党であることも明らかになる。
領事館内には随所に監視カメラがあるにもかかわらず、グルソーとレラは好き勝手に領事館内を移動していたのだが、実はダグレイに「泳がされて」いたのである。
クライマックスでは、グルソーはダグレイの娘を連れてセキュリティルームに籠城するのだが、ここでもハリウッド的にスカッとする展開はなく、前線を退いたために金に狂ったダグレイが捕らえられ、その哀れさを強調して事件は解決する。
領事館という設定の目新しさと元特殊部隊の女性という設定をかけ合わせた映画だが、アクションとしては期待をはずし、陰謀自体もいまひとつすっきりしないものだった(レラを誘拐しようとした二人組はロシアから来たのか? バックアップはなかったのか?)。重要な存在であるはずのレラが、途中であっさりとトラックの荷台に載って領事館の脱出に成功してしまうのも、プロットとしてバランスが悪い。必要以上にダグレイが間抜けに見えてしまうのである。
エクステリトリアルのあらすじ
アメリカ領事館の中で息子が姿を消した。我が子を探し出すために全力を尽くす特殊部隊の元兵士サラ。そうして捜索を続けるうちに、恐ろしい陰謀が明らかになってゆく。
エクステリトリアルを観るには?
エクステリトリアル キャスト
エクステリトリアル 作品情報
製作 – ケルスティン・シュミットバウアー
アソシエイトプロデューサー – ゲッツ・マルクス、ヴェレーナ・フォーグル、フランツィスカ・スッペ
撮影 – マティアス・ペッチ
編集者 – ウエリ・クリステン
音楽 – サラ・バローネ
制作会社 – コンスタンティン・フィルム、EPOフィルムプロダクション
配信 – Netflix
公開 – 2025年4月30日
上映時間 – 109分