跳びおりるの感想
夏樹静子が70年代に書いた短編で、87年にも梶芽衣子と大空真弓でドラマ化されている(本作は夏樹の没後1年を記念した2017年の制作)。
火事の炎から逃れるため、家内に子供がいるのを忘れて窓から飛び降りた母親が非難され、料理研究家の南野陽子がワイドショーで「動物以下ですね」と断じるところからドラマは始まる。
南野の無神経なコメントをテレビを見てワナワナしていたのが若村麻由美で、早速、住み込みの家政婦となって南野邸に出入りし始めるので、視聴者としては若村の放火待ちの態勢になる。
南野陽子の夫は名古屋に単身赴任しており、実際は妻にメールも欠かさず、八丁味噌や100万円のネックレスを送ったりもしているのだが(すごく変)、若村が南野に見せずに全部捨てているので、孤閨の南野は夫の浮気を疑って苛々している(あとでわかるが、この辺のくだりは全部不要)。
南野の誕生日の夜、南野はワインショップの店長(これも不要な登場人物)を招いて暴飲し、その夜半に若村が大量に薪をくべた暖炉の火からいよいよ失火(ありえない)、邸は炎に包まれる。3階寝室の窓から顔を出した南野に若村は「早く跳びおりて!」と催促し、南野が跳びおりたことを確かめてから、幼い息子を助け出す。この事件で、南野は子供を見捨てたとメディアで叩かれることに。
タイトルの回収はこれであっさり終わったかに見えたが、ここで三宅裕司の警部が出てきて、ドラマはますますおかしな方向に進んでいく。
三宅は、若村が偽名で南野邸に入り込んだことを突き止めるが、ドラマ冒頭で南野が批判した母親は、どうやら若村の単なる知人らしく、若村の一連の行動の動機としては弱い。モヤモヤするうち、南野が入院中の病院から跳びおりて死んでしまう。もちろん若村が突き落としたのだが、その動機は一体何なのか。
じつは若村は夫を山(と言っても大山)の遭難事故で亡くしており、その夫を山で見棄てたのが同行していた南野だったのだ。しかし、さらにまだ裏があり、夫は、妊娠してつわりに苦しむ妻(若村)のために南野の料理教室に通い、南野の勧める「つわりに効く水」を大山に汲みにいった際に発作を起こして死んだのだ。南野は「僕は大丈夫だから」と言われて帰ったので(かなり弱い)、何も悪くないとの由。なんでまた大山なんかで遭難したのか、理由を知ろうとしなかった若村は(警察も)どうかしている。
真実を知って絶望した若村が粉雪ちらつく大山のかけ橋から身投げして、ドラマは終わり。
結局タイトルは火事の事件とほとんど関係なく、南野が跳びおり、若村も跳びおりる話であることを示していた、というのが、たぶん夏樹静子の企みであったろう。しかし、いくらなんでも原作はもう少しちゃんとしていだのではないかと思う(たぶん)。夏樹は嫌いな作家ではないのだ。
跳びおりる 見どころ
- 若村麻由美の圧倒的な存在感と演技
若村麻由美さんは、家政婦という地味な役柄でありながら、その裏に深い悲しみや執念を秘めた女性・大山サツキ(浜畑里子)を演じ、見る者に強い印象を与えます。控えめな表情の中に垣間見える感情の揺れや、真実に近づくにつれて変化していく彼女の姿は、まさに若村さんの真骨頂と言えるでしょう。彼女がその境地に達するまでの過程を卓越した演技力で積み重ねており、視聴者は里子に感情移入し、その運命に涙することになります。 - 夏樹静子原作の心理サスペンス
人間の心の闇や複雑な感情が緻密に描かれる。火事の真相、サツキの過去、そして登場人物たちの思惑が絡み合い、二転三転する展開は、最後まで視聴者を惹きつける。 - 「跳びおりる」という象徴的な行動
「跳びおりる」という行為が、単なる物理的な行動だけでなく、精神的な「決断」や「再生」、あるいは「破滅」を象徴するメタファーとして描かれている。 - 共演者との演技合戦
人気料理研究家・水谷悠子役の南野陽子、刑事役の三宅裕司、その他、正名僕蔵さん、前川泰之など、実力派俳優陣が若村麻由美を支え、それぞれの役柄に深みを与える。 - 切なくも奥深い人間ドラマ
ミステリー要素が強い一方で、登場人物たちが抱える過去の傷、家族への思い、そして再生への願いといった人間ドラマが描かれる。
跳びおりる あらすじ
人気料理研究家の水谷悠子(南野陽子)が夫と一人息子と暮らす家に、家政婦として大山サツキ(若村麻由美)がやってくる。サツキは控えめで礼儀正しいが、どこか影のあるミステリアスな女性。ある日、悠子の家で火事が起こり、悠子は3階の窓から「早く跳びおりて!」というサツキの声に促されて庭に飛び降りる。直後、煙の中から現れたのは無事な息子を抱きかかえたサツキだった。
この火事をきっかけに、サツキの身元に疑念が浮上。本名は「浜畑里子」で、過去には悲しい出来事を抱えていた。なぜサツキは偽名を使って水谷家で働いていたのか? 彼女の抱える辛く悲しい過去、そして「跳びおりる」という言葉に込められた真の意味とは何か、というスリリングな展開が繰り広げられる。
跳びおりる キャスト
跳びおりる スタッフ
跳びおりるの原作(所収のアンソロジー)
アンソロジー「殺人者にバラの花束―日本代表ミステリー選集〈7〉」(角川文庫) 文庫(1976/1/1刊)
中島 河太郎 (編集), 権田 万治 (編集)