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スプリット

4.0
アニャ・テイラー=ジョイ(スプリット) 映画
アニャ・テイラー=ジョイ(スプリット)

『スプリット』(Split)は、2016年のホラー・スリラー映画。M・ナイト・シャマラン監督。多重人格者の犯人に誘拐された女子高生を描く。エピローグにおいて『アンブレイカブル』(2000年)の主人公デヴィッドが登場し、本作と共通の世界であることが明かされる。『アンブレイカブル』と本作を踏まえた内容で『ミスター・ガラス』(2019年)にストーリーが続いている。

スプリットの感想

多重人格者の誘拐犯の話だが、それほど面白いわけではない。
最後に「アンブレイカブル」の続編ということがわかり、観客がひっくり返る仕掛けになっている。
そして2年後に「ミスター・ガラス」が続き、ブルース・ウィリス念願の3部作がついに完結しているのだが、要するにオブセッションに囚われるアンチアメリカンヒーローの系譜に類するから、(私にとっては)あまり面白くないのかもしれない。

精神科医だけが24番目の人格のことを知っているのだが、そのサスペンスははぐらかされる。同様に、いつものシャマラン的な過去シーンも伏線になっておらず、やはりはぐらかされる。

美少女アニャ・テイラー=ジョイは次作にも出て、スクリームクイーンの称号を与えられたが、絶叫するシーンは特にない(終始冷静なのだ)。
終盤、ショットガンの弾を入手するためにおどろおどろしい地下通路を往復するのがいかにもホラーゲームっぽいのだが、その後はあえて盛り下がる終わり方になっている。

5歳の子役がめちゃくちゃ可愛い。

スプリットの見どころ

本作は、単体としてはジェームズ・マカヴォイの怪演と完璧なプロットを持つ傑作スリラーだが、その真価は、最終盤の数十秒のシーンによって、全く異なる貌を現し、16年もの間眠っていたユニバースを覚醒させる雷鳴となる、「トロイの木馬」のような作品であることだ。
 

ジェームズ・マカヴォイという「人間特撮」の劇場

23もの人格を内に宿す解離性同一性障害の男ケヴィンを演じたジェームズ・マカヴォイの神がかったパフォーマンスは素晴らしい。映画は、さらに24番目の凶暴な人格「ビースト」が生まれようとしているというストーリーである。

マカヴォイは、潔癖症で支配的なデニス、上品な女性パトリシア、9歳の無邪気な少年ヘドウィグといった主要な人格たちを、特殊メイクやCGに一切頼らず、表情、声色、姿勢、そして瞳の光のわずかな違いだけで完璧に演じ分けた。複数の人格が瞬時に入れ替わるシーンの演技は圧巻。もはや「憑依」と言える。「人間特撮」でも言うべき、本作の最大のスペクタクルだ。
 

サスペンス・スリラーとしての設計

『アンブレイカブル』との繋がりを全く知らずに観たとしても、本作は一級品のサスペンス・スリラーとして成立する。

物語のほとんどは、ケヴィンが少女たちを監禁する地下室で展開する。この閉所恐怖症的な空間が逃げ場のない絶望的な状況を際立たせ、緊張感を極限まで高める。

アニャ・テイラー=ジョイが演じるケイシーは、単に叫び逃げ惑うだけのヒロインではなく、過去のトラウマから他人との距離を測り、状況を冷静に観察する能力をもっている。ケヴィンの人格の特性を利用し、脱出の糸口を探ろうとする知的な楽しみ、予測不能な人格たちと、冷静なケイシーとの心理戦の駆け引きである。
 

「傷ついた者こそが進化する」というダークな哲学

シャマランおなじみの「トラウマの克服」というテーマが本作にも見られる。
「傷を負ったことのない人間は不純だ」と語る「ビースト」は、苦しみを経験した者こそが進化の可能性を秘めている、危険でダークな哲学を体現している。
この哲学が、囚われているケイシーの隠された過去と共鳴し、幼少期に性的虐待を受けていたことが物語の終盤で命を救う鍵になる(彼女の身体に残る「傷」を見たビーストは、彼女を「純粋な者」とみなし、見逃すのだ)。
苦しみが人間を破壊するだけでなく、時に予期せぬ形で生存のための力となり得るという、いかにもシャマランらしい人間観がある。
 

すべてを覆すラストシーン

そして、これら全ての見どころを内包した上で、本作を映画史に残る一作へと押し上げたラストシーン。
事件の報道を見るダイナーの客、その中にいるデヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス)。そして彼の口から発せられる「ミスター・ガラス」の名前。
この瞬間、ここまでの90分間の恐怖が、全く新しい文脈の中に放り込まれる。
これまで観ていたのはサイコ・スリラーではなく、『アンブレイカブル』の世界における新たな「スーパーヴィラン」の誕生譚だったというどんでん返しである。

『アンブレイカブル』が「現実世界にヒーローは存在するのか?」という静かな問いだったとすれば、本作は、「存在する。そして、ヒーローが存在するならば、怪人(モンスター)もまた、存在する」という、暴力的で衝撃的な「答え」になっている。
たった一つのシーンが、二つの独立した映画を繋ぎ、壮大な三部作の第二章を宣言したカタルシスは、驚くべきものだ。

スプリットのあらすじ

女子高生ケイシー・クックは、叔父からの性的虐待や学校での孤立を経験した後、クラスメイトのクレアとマルシアと共に誘拐される。監禁場所は窓のない部屋で、誘拐犯ケビンは解離性同一性障害(DID)を持ち、23の人格を持つ。精神科医カレン・フレッチャー医師はケビンの治療に当たっていたが、彼の人格の一つデニスが彼女を欺き、24番目の人格「ビースト」の覚醒を目指す。ケイシーは監禁中にケビンの子供人格ヘドウィグと交流し、脱出を試みるが失敗。フレッチャー医師はケビンの家でクレアを発見するが、デニスに襲われ昏睡状態に。ケイシーは最終的にケビンの本名「ケビン・ウェンデル・クラム」を唱え、彼の本来の人格を呼び起こす。ケビンはケイシーに自分を殺すよう頼むが、ビーストが現れ、ケイシーはショットガンで応戦。彼女の体中の傷跡を見たビーストは、彼女を「純粋」と見なし、去っていく。ケイシーは救出され、警察に保護される。一方、ケビンの人格たちはビーストの力を世界に示すことを決意。物語は『ミスター・ガラス』への伏線で締めくくられる。

スプリットを観るには?

スプリット キャスト

ケビン・ウェンデル・クラム / “群れザ・ホード”(23の人格を持つ多重人格者) – ジェームズ・マカヴォイ
ケイシー・クック(誘拐された女子高生) – アニャ・テイラー=ジョイ
カレン・フレッチャー医師(精神科医) – ベティ・バックリー
クレア・ブノワ(誘拐された女子高生) – ヘイリー・ルー・リチャードソン
マルシア(誘拐された女子高生) – ジェシカ・スーラ
ジョン叔父さん(ケイシーの保護者) – ブラッド・ウィリアム・ヘンケ
ケイシーの父 – セバスチャン・アーセラス
ジャイ – M・ナイト・シャマラン
デヴィッド・ダン / “監視人オーバーシーヤー” – ブルース・ウィリス
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