ドラマ2000年代のドラマ2000年のドラマ

あ・うん

4.0
池脇千鶴(あ・うん、2000) ドラマ
池脇千鶴(あ・うん、2000)
あ・うんは、向田邦子脚本のテレビドラマである。1980年3月9日~3月30日までNHKで放送され、続編が1981年5月17日~6月14日まで放送。 向田は大人の恋の物語としてこのドラマを続ける意向だったが、1981年8月に飛行機事故で急逝。1989年に映画化され、2000年には正月スペシャルドラマとしてTBSで放送された。

あ・うん(2000年正月スペシャル)の感想

2000年のTBS版で、仙吉は串田和美、門倉は小林薫、たみは田中裕子、18歳の池脇千鶴が語り手として娘のさと子を演じる。演出は久世光彦

フランキー堺杉浦直樹吉村実子のNHK版は未見だが、板東英二高倉健富司純子の映画は見ている。不安定な3人の男女の話で、白いスーツの小林薫を見ていると、「ツィゴイネルワイゼン」を思い出してしまう。

あ・うんの見どころ

本作の見どころは、なんといっても心理描写の巧みさだ。まさに“あ・うん”の呼吸で描かれる男女の微妙な距離感。
門倉修造と水田仙吉は、表面的には親友同士の夫と妻だが、内面では互いに淡い想いを寄せている(こう書くと身も蓋もないが)。しかし直接的な愛情表現は一切なく、視線・間・言葉の裏の含みで、微妙な心理の交錯が描かれる。
向田脚本は、語らないことで豊かさを生み出している。言葉の「間」が、登場人物の葛藤・遠慮・心の動揺を雄弁に語ること。特に食卓や縁側で交わされる何気ない会話の中に、 “愛情・嫉妬・諦観”が滲む。

仙吉が修造の妻・文子(杉浦直樹)に何気なく気遣うシーンでは、修造がそれを察しつつも笑顔で受け流す「男同士のあ・うん」の空気。言葉にしない、呼吸のような関係性が物語の基盤にある。心理的緊張と緩和が、日常の会話劇に自然に織り込まれているのである。
仙吉の微妙な笑みや、一瞬の沈黙、修造の妻・文子の「夫を愛しながらも、仙吉への揺らぎ」を見せる眼差し。役者の演技が言葉以上に心理の奥行きを伝えている。

舞台は昭和初期の家庭という抑圧的な環境。人は感情を押し殺し、礼儀や秩序に従っていた。この「抑圧の美学」が、心理描写に一層の厚みを与えている。欲望と理性のせめぎ合いが静かに、しかし確実に物語全体に緊張を走らせているのである。

表面的な会話の下で行われる“心の取引”を、緻密かつ優美に描いたドラマと言える。

あ・うんのあらすじ

昭和初期の山の手を舞台とした、製薬会社のサラリーマンの水田仙吉と親友の実業家門倉修造、門倉に思われる仙吉の妻たみ、仙吉夫婦の一人娘さと子、門倉の愛を得られぬ妻の君子を中心とした、暗い昭和の支那事変前夜の庶民の暮らしを描いている。タイトルの「あ・うん」は、仙吉の父初太郎がこの2人を「神社を守っている狛犬の阿(あ)と吽(うん)だ」と評したことから。
昭和12年、春。中小企業の社長・門倉修造は、会社勤めのまじめなサラリーマン・水田仙吉と気が合い、20年来の付き合いを続けていた。その水田が、地方転勤から3年半ぶりに東京に戻ってくる。そして、再び門倉と水田一家の家族ぐるみの付き合いが始まる。

あ・うん(映画)を観るには?

あ・うん(2000年正月スペシャル)のキャスト

水田仙吉 – 串田和美
水田たみ – 田中裕子
門倉修造 – 小林薫
門倉君子 – 樋口可南子
水田初太郎 – 森繁久彌
水田さと子 – 池脇千鶴
辻本研一郎 – 窪塚洋介
金歯 – 竹中直人
イタチ – 柳谷寛
医者 – 四谷シモン
三田村禮子 – 高田聖子
筒井真理子
伊東貴明
ほか
ナレーション – 加藤治子

あ・うん(2000年正月スペシャル)のスタッフ

脚本:筒井ともみ
演出:久世光彦
題字・タイトル画:中川一政
特殊メイク:江川悦子
技術協力:東通
美術協力:アックス
スタジオ:緑山スタジオ・シティ
演出補:佐々部清、清水俊悟
プロデューサー:三浦寛二太田登
製作:TBS、カノックス

あ・うん小説版(向田邦子)


向田自身により同名で小説化。向田の唯一の長編小説で、1981年に文藝春秋から刊行された。
つましい月給暮らしの水田仙吉と、軍需景気で羽振りのいい中小企業の社長、門倉修造との友情は、まるで神社に並んだ一対の狛犬のように親密なものだった。門倉は、水田の妻たみに、長年ひそかな慕情を抱いてもいる。太平洋戦争をひかえた慌しい世相を背景に、男の熱い友情と秘めた思慕が織りなす、市井の家族の情景を鮮やかに描いた、向田邦子・唯一にして絶品の長篇小説。
タイトルとURLをコピーしました