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バルカン超特急の感想
40年ぶりの再見。1936年はWWIIの開戦前夜。舞台はバンドリカという架空国で、邦題からすると東南欧の山岳地帯なのであろう。イタリア人の奇術師、プラハの医師などが登場し、様々な目的で山奥のホテルから国際列車に乗り込む。あとは勝ち気で可愛いヒロインマーガレット・ロックウッド(この映画でスターになった)も含めてイギリス人だが、それぞれの理由で陰謀に加担している。
バルカン超特急 見どころ
『バルカン超特急』は、密室サスペンス、ウィットに満ちた人間ドラマ、政治的アレゴリー、テクニカルな演出美というヒチコックの作家としての土台すべてが詰め込まれた極上のスリラードラマである。
現代でも古色に染まることなく、ヒチコックの魅力を一気に味わえる映画的“原点”と言える。
列車という「密室サスペンス」の舞台装置
本作で、ヒチコックは列車を「阻まれない緊張の連続」として巧みに活用している。
リズミカルに揺れる車内、乗客同士の閉鎖された対話、そして気づけば外界とも断絶された環境。
これらが心理的圧迫感とクライマックスへの布石を生む演出となっているのだ。
混在するジャンル ― ミステリー × コメディ × スリラー
本作は、謎解きサスペンスの緊迫感と、イギリスらしいウィットに富んだコメディが奇跡的に融合している映画である。
奇術師との格闘シーンにおけるシニカルな笑いで緊張の糸を緩ませつつ、再びスリリングな展開に引き戻す。
これぞヒチコック流の「サスペンスの余白」である。
ナチス台頭前夜を背景とした「政治的寓意」
本作は架空の「バンドリカ国」を舞台としているが、1940年代初期のヨーロッパへの予兆が明確に含まれている。
ヒチコックは英国の孤立主義への警鐘として、政治的メッセージをさりげなく織り込んでいる。
マクガフィンとしての「ミス・フロイ」の消失
ヒッチコックお馴染みの“マクガフィン”──消えてしまう老婆ミス・フロイは、登場人物の不安を掻き立てるだけの触媒役である。
焦点は、そのトリックではなく、「見えないものを信じられるか」という登場人物の心理的リアクションにこそある。
多彩な人物構成とブリティッシュ・ユーモア
クリケット好きのチャーターズ&カルディコット、年齢差恋愛カップル、怪しいマジシャンなど、個性豊かな乗客たちが列車という限定空間で織りなす会話や緊迫感は、英国らしい人間ドラマとして大変楽しいものだ。
技術革新と演出の妙 ― 初期ヒッチ全盛期の証
アイスバーグ・ベースセット、ミニチュア、透明上映などを駆使した視覚トリックは、限られたスタジオ空間を隠すための技術として昇華し、「狭さを感じさせない演出の妙技」となっている。
バルカン超特急のあらすじ
ヨーロッパのバンドリカ山中で列車が雪崩で動けなくなる。乗客であるクリケット狂のカルディコットとチャータース、トッドハンター弁護士と実は妻ではなく愛人で不倫の仲である仮のトッドハンター夫人、家庭教師のミス・フロイなどは、仕方なくホテルに泊まることに。翌日、列車運行が再開されたが、アイリスは出発時に植木鉢が頭に当たり朦朧となる。同室のミス・フロイと食堂車でお茶を飲み、客車に戻って一眠りすると、ミス・フロイは消えていた。アイリスは列車内を探し回るが、他の乗客も乗務員もそんな老女は見なかったと口を揃える。高名な医師は、ミス・フロイは実在せず、頭を打った後遺症で記憶障害を起こしていると断定。アイリスは乗客のギルバートと列車内を探し始める。お忍びの不倫旅行中のトッドハンター弁護士は嘘を吐き、カルディコットとチャータースは質問には答えない……
バルカン超特急を観るには?
バルカン超特急はこんな方におすすめの映画
- ヒチコックの“緊張と緩和”を俯瞰的に楽しみたい人
- 列車舞台の「閉鎖劇」サスペンスの最高峰を求める人
- 第二次世界大戦前夜のヨーロッパを、寓意として読み解きたい人
- 英国ユーモアと政治ドラマが融合するヒッチ作品を観たい人
バルカン超特急のキャスト
ギルバート: マイケル・レッドグレイヴ
エゴン・ハーツ医師: ポール・ルーカス
ミス・フロイ: メイ・ウィッティ
トッドハンター氏: セシル・パーカー
トッドハンター“夫人”: リンデン・トラヴァース
カルディコット: ノウントン・ウェイン
チャータース: ベイジル・ラドフォード
アトーナ男爵夫人: メアリー・クレア
ホテル支配人: エミール・ボレオ
ドッポ氏: フィリップ・リーヴァー
ドッポ夫人: セルマ・ヴァズ・ディアス
尼僧: キャサリン・レイシー
マダム・クマー: ジョセフィン・ウィルソン
アルフレッド・ヒチコック
バルカン超特急のスタッフ
『バルカン超特急』は、ヒチコック・マジックの“原点”としての傑作です。この記事で少しでも興味を持たれた方は、ぜひ本編をチェックしてみてください。