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スパイの妻

4.0
蒼井優(スパイの妻) ドラマ
蒼井優(スパイの妻)
スパイの妻は、2020年にNHK制作、2020年6月6日14:00~15:54にNHK BS8Kで放送。黒沢清監督作品。2020年に劇場用映画として公開された。

異色にして圧巻のラブ・サスペンス(スパイの妻の感想)

蒼井優は予想通り素晴らしいが、高橋一生東出昌大もかなり良くて、黒沢清監督は役者陣を「映画の教養がある」とホメている。

細かな仕掛けに目を奪われながら終盤まで愉しんだが、終わり方はちょっと疑問。しかし傑作であろう。

スパイの妻 見どころ

東京芸術大学での黒沢清の教え子、野原位が、神戸を舞台とした8KカメラによるNHKドラマ製作の企画を黒沢に依頼。濱口竜介と共同でプロットを制作し、3人の共同脚本作品となった。作中に登場する昭和初期の街並みは、大河ドラマ『いだてん』のオープンセットをそのまま使ったもの。黒沢清監督初の現代劇ではない作品。
2020年にスクリーンサイズや色調を新たにした劇場版として公開。第77回ヴェネツィア国際映画祭にてコンペティション部門銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞。日本人の受賞は『座頭市』での北野武以来17年振り。

ジャンルをまたぐことに長けた黒沢清監督が、戦時下の日本という重厚な時代背景を舞台に、美学的な映像とミステリアスな構成で描き出した本作は、そのフィルモグラフィーにおいても、最も静謐で、最も情念に満ちた異色作といえる。一貫して流れる“黒沢的世界”の美意識が息づいている。

戦時下に咲く“純愛”という名のスパイ劇

国家と個人、正義と愛という相反する価値観が、どちらも裏切ることなく描かれる。
高橋一生演じる貿易商・福原優作は、満州で偶然見た「国家による重大な戦争犯罪」を告発しようとするが、その動機は、国家への怒りでも正義感でもない。あくまで“妻とともに真実を生きたい”という私的なものである。
蒼井優が演じる妻・聡子は、夫の行動に戸惑いながらも、やがてその“危うい信念”に魅せられ、自らも“共犯者”になっていく。その過程は緻密で、官能的ですらある。

8Kの映像美と、フィルムライクな“距離感”

NHKとの共同制作で8Kで撮影された本作は、現実離れした美しさを湛えており、単なる高精細映像ではないと思わせる。
ライティングや構図に徹底的な“クラシック映画的距離感”が保たれており、まるで1940年代のスタジオ映画を観ているような感覚を呼び起こすのだ。
このスタイルは、物語の主軸である「真実と虚構」「愛と欺瞞」の二重性を強調する効果として機能している。

“動かないカメラ”が描く、心の激震

黒沢清は“引きの画”と“静止した構図”を多用するが、『スパイの妻』ではその手法がむしろ激しい心理劇の導火線として作用している。
登場人物たちがゆっくりと立ち上がる、わずかに視線を逸らす──その一つ一つの動きが、スクリーンに緊張を与える。
台詞では語られない“疑念”“動揺”“執着”が、むしろ言葉以上に雄弁である。
とりわけ、蒼井優の視線の使い方は驚異的。夫を信じたい、でも信じきれない。その揺らぎが、彼女の目の奥に刻まれている。

「夫婦は、どこまで共犯になれるのか」

夫婦という関係性の実存的深淵。
戦争という極限状況を背景に、映画は、「私とあなた」の絆が、社会的モラルや生死すらも超えていけるのかを問う。これは単なる“スパイ映画”ではない。信頼と裏切りの果てにしか到達できない、濃密な愛の形を描いた心理劇である。

『スパイの妻』は、日本映画において非常に稀有な、“戦争×恋愛×スリラー”という難解な融合を見事に成功させた傑作である。

スパイの妻のあらすじ

開戦が近い1940年、福原聡子は神戸で貿易会社を営む夫・優作と何不自由なく暮らしていた。しかし、国家総動員法下で、貿易商という職業柄、当局に目をつけられながらも洋風の生活洋式で通し、舶来品を楽しみ、趣味の9.5mmフィルム撮影に興じたり、時勢に頓着しない優作を、聡子の幼馴染である陸軍憲兵の泰治は快く思っていなかった。
予定より遅く満州から帰国した優作の様子を、聡子はいぶかしみ、疑いを抱き始める。優作は、満洲で知った、日本軍による人体実験という国家機密についてある計画を秘めていた。泰治が二人を追い詰める中、文雄の拘留をきっかけにすべてを知った聡子は、“スパイの妻”と罵られる覚悟で、夫と運命を共にする決意を固める。

スパイの妻を観るには?

スパイの妻のキャスト

福原聡子: 蒼井優
福原優作: 高橋一生
津森泰治: 東出昌大
竹下文雄: 坂東龍汰
駒子(福原家の女中): 恒松祐里
金村(福原家の執事): みのすけ
草壁弘子: 玄理
野崎医師: 笹野高史
露店商: 佐藤佐吉
警官: 川瀬陽太
兵士: 奥野瑛太
患者: 西慶子工藤時子西山真来
看護婦: 中西柚貴

スパイの妻のスタッフ

監督 – 黒沢清
脚本 – 濱口竜介野原位、黒沢清
製作 – 山本晃久
製作総指揮 – 篠原圭土橋圭介澤田隆司岡本英之高田聡久保田修
音楽 – 長岡亮介
撮影 – 佐々木達之介
編集 – 李英美
制作会社 – NHK、NHKエンタープライズ、Incline、C&Iエンタテインメント
上映時間 – 115分
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