宮本信子が「象徴としての母」を演じる(母の待つ里の感想)
舞台は遠野だが、一輌編成の電車から最初にホームに降りるのは、食品メーカー社長の中井貴一である。宮本信子演じる母親のいる「実家」に一泊するのだが、40年ぶりの帰郷だという中井は、なぜか母親の名前を忘れている。宮本はちよと名乗るが、中井は最初は戸惑い気味に、そして最後は満足して帰途につき、そこで、この村での体験がすべてカード会社が運営する富裕層向けの仮想サービスであり、村の人々も宮本も(テーマパークの)キャストであると明かされて1話目は終わり。
以降、二人目は病院医師の松嶋菜々子、三人目は定年退職し熟年離婚された佐々木蔵之介が村を訪れ、佐々木はここに住みたいと言い始めてキャストたちを困惑させるのだが、3話目の終わりで三人のゲストは宮本の死を知らされる。
4話目は宮本の通夜であり、集まった三人に、四人目の満島真之介(関西の居酒屋チェーンの経営者)も現れて、一同は兄妹として宮本を送りながら、客ごとに母親を演じ分けたちよとは一体何者だったのかと考えをめぐらす。それは母とは何かという問いであると同時に、宮本信子とは何者かという問いでもあるだろう。つまり本作は「海に眠るダイヤモンド」でも重要な役を演じる79歳の宮本信子そのものをテーマとするドラマと言える。だから満島真之介がちよの余計な出自を語るのはやはり蛇足だと思う(原作がそうなのかもしれないが)。
ちよは床についたゲストに、遠野物語の引用と思われる昔語りをするのだが、この部分の人形浄瑠璃が素晴らしかった。
母の待つ里 見どころ
浅田次郎の同名小説を原作とし、脚本を一色伸幸が手がけた全4話の作品。東北の架空の村を舞台に、現代社会における孤独や喪失感、そして「母」や「ふるさと」の存在意義を問いかけた。「不思議なドラマだったが、心に残る作品だった」「キャストの演技が素晴らしく、特に宮本信子の“母”役が印象的だった」といった感想を多くの人がもち、「都会での孤独を抱える人々にとって、心の癒しとなる作品だった」と評価された。
- 見どころ1. 「ホームタウンサービス」のリアリティ
1泊2日50万円の高級疑似帰省体験「ホームタウンサービス」の利用者は、“母”ちよ(宮本信子)をはじめとする村人たちのもてなしを受け、架空のふるさとで心の癒しを得る。現代社会の孤独や喪失感を抱える人々にとっての「心のふるさと」を提供するこのサービスは、あり得そうもない設定だが、なぜか心に沁みる。 - 2. 宮本信子の演技がすごい
“母”ちよを演じた宮本信子の演技が心を掴む。一挙手一投足が「心の母」を想起させ、「自分の母でもないのになぜか懐かしい」といった感情を呼び起こしてしまう。また、昔話のシーンでは、文楽人形を用いた演出が施され、幻想的な雰囲気を醸し出した。 - 3. 登場人物たちの再生と「母」の存在
人生の岐路に立つ3人の男女が登場する。仕事一筋で生きてきた松永徹(中井貴一)、認知症の母を看取った医師・古賀夏生(松嶋菜々子)、定年退職と同時に妻に離婚を告げられた室田精一(佐々木蔵之介)。彼らは心の癒しと再生のきっかけを得る。 - 4. 原作との違いとドラマ独自の演出
原作とドラマには違いがある。ドラマでは、主人公たちが再び“母”ちよのもとを訪れる描写が追加された。文楽人形を用いた昔話のシーンや、岩手県遠野市でのロケによる美しい風景描写もドラマ独自の演出である。
母の待つ里 あらすじ
仕事人間の松永徹(中井貴一)にとって、それは40年ぶりの里帰りだった。おぼろげな記憶をたよりに実家にたどり着くと、母(宮本信子)は笑顔で迎えてくれた。嬉々として世話を焼いてくれる母、懐かしい家、懐かしい料理に、徹は安らぎを感じる。しかし何故だか、母の“名前”だけが思い出せない…。一方、古賀夏生(松嶋菜々子)も久しぶりの「里帰り」をする。夏生が向かった先も、「同じ母」が待つ家。そして、妻を失った室田精一(佐々木蔵之介)も、居場所を求めて「同じ母」が待つ「ふるさと」へ向かう…。
母の待つ里を観るには?
母の待つ里 キャスト
松永徹 – 中井貴一
古賀夏生 – 松嶋菜々子
室田精一 – 佐々木蔵之介
田村健太郎 – 満島真之介
■村人
ちよ – 宮本信子
佐々木サチコ – 中島ひろ子
ノリスケ – 五頭岳夫
カンジ – 松浦祐也
シンコ – 菜葉菜
バスの運転手 – 藤野棟考
和尚 – 伊武雅刀
アルゴス – のこ
■その他
室田怜子(精一の妻) – 坂井真紀
品川操(徹の秘書) – 入山法子
三枝里衣(精一と怜子の娘) – 大西礼芳
吉野(ホームタウンサービスのコンシェルジュ) – 永田凜
秋山光夫(徹の友人) – 鶴見辰吾(第1話)
古賀ミドリ(夏生の母) – 根岸季衣(第2話)
青柳(精一の元同僚) – 矢柴俊博(第3話)
桐竹勘十郎(文楽場面)
母の待つ里 スタッフ
脚本 – 一色伸幸
音楽 – 渡邊崇
文楽人形監修 – 桐竹勘十郎
ジオラマ – 木場太郎
演出 – 阿部修英(テレビマンユニオン)、森義隆
プロデューサー – 石井永二(テレビマンユニオン)
制作統括 – 訓覇圭(NHK)
製作著作 – NHK、テレビマンユニオン
母の待つ里の原作
40年ぶりに帰ってきたふるさとには、年老いた母が待っていた――。
大手食品会社社長として孤独を感じている松永徹。退職と同時に妻から離婚された室田精一。親を看取ったばかりのベテラン女医・古賀夏生。還暦前後の悩みを抱えた3人が、懐かしい山里の家で不思議な一夜を過ごすと……。
家族とは、そしてふるさととは? すべての人に贈る、感涙必至の傑作長編。ふるさとを想う人、ふるさとに帰れぬ人、ふるさとのない人。ふるさとをあなたに――。